「死後離婚」という言葉をご存じでしょうか。
「パートナーの死後に離婚ってできるの?」となんて思う人もいるかもしれませんね。
「婚姻関係終了届」の件数は10年ほど前には1,900件前後でしたが、近年急激に増加しています。下の表をご覧ください。その件数は2017年度にピークとなり、4,800件を突破しています。
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※法務省の資料( http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_koseki.html )をもとに編集部作成
【参考】
「戸籍調査(2018年・2019年度)種類別 届出事件数(姻族関係終了届)( http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_koseki.html )」法務省
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「死後離婚」ってどういうこと?
夫婦の一方が死亡すると配偶者との婚姻関係は終了します。
配偶者の死後に姻族関係を終わらせるためには、「姻族関係終了届」を自分の本籍地か所在地の市区町村役所に提出しなくてはなりません。
「死後離婚」を選ぶ理由
「義理の家族と折り合いが悪い」「経済面での援助や介護などから解放されたい」といった事情がある場合、その気持ちを表明する意味合いで「姻族関係終了届」の提出を選ぶ人が増えていると考えられます。
「死後離婚」という言葉には、「姻族との関係をスッパリ断ち切りたい」という強い気持ちが込められているのかもしれません。
【参考】
「姻族関係終了届( https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000369847.html )」大阪市
相続・遺族年金など「経済的なデメリット」は発生しない
「姻族関係終了届」には提出期限がありません。届け出にあたって姻族の同意を得る必要もなく、姻族関係が終了したことが先方に通知されるようなこともありません。「姻族関係終了届」を提出した後も、亡くなった配偶者の相続人としての地位や遺族年金の受給権は維持されます。
ただし、「姻族関係終了届」を出すことによって、元姻族との関係が悪化する可能性は低くありません。関係が良好であれば受けられたはずの支援が受けられなくなるおそれもあります。
また、夫婦に子どもがいる場合、その子どもは姻族にとって直系血族となるため、縁は切れません。義理の親の介護が我が子にかかってくる可能性もあります。「姻族関係終了届」を出すと2度と姻族には戻れないため、慎重に検討する必要があるでしょう。
■遺族年金はどのくらいもらえる?
ここからは配偶者が死亡したときにもらえる遺族年金のおおよその金額について紹介します。
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。国民年金にのみ加入していた人が亡くなった場合に遺族が受け取れるのは、遺族基礎年金のみです。老齢年金と違って条件を満たせば65歳を待たずに支給されますが、受給できるのは死亡した人に生計を維持されていた遺族(年収850万円未満)に限られます。
遺族基礎年金
国民年金あるいは厚生年金に加入していた人に生計を維持されていた遺族が対象です。
■受給できる人
1) 子どものいる妻・夫
2) 子ども(18歳になる年度の末日を経過していない子または、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子)
子どもが条件を満たさなくなると、支給停止となります。
■支給金額(2020年度)
支給額の基本額は年額78万1,700円です。ここに「子の加算」分が追加されます。
- 子ども3人の期間・・・年額130万6,500円(月額10万8,875円)
- 子ども2人の期間・・・年額123万1,500円(月額10万2,625円)
- 子ども1人の期間・・・年額100万6,600円(月額8万3,883円)
【参考】
「遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-04.html )」日本年金機構
遺族厚生年金
会社員や公務員など厚生年金に加入している人に生計を維持されていた遺族は、遺族基礎年金および遺族厚生年金の対象です。
■受給できる人
【参考】
「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html )」日本年金機構
■支給金額のめやす(2020年度)
遺族厚生年金の支給額は条件によって大きく異なります。
ここでは、下記のような条件でざっくり計算してみます。
【妻が40歳未満の場合】
妻には、年額51万円ほどが支給されると考えられます。条件を満たす子どもがいる期間は、これに遺族基礎年金が加算されます。遺族厚生年金は再婚などをしない限り一生涯受給できます。
【参考】
「遺族年金の受給と年金額のめやす( https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/provision/11.html )」公益財団法人 生命保険文化センター
【妻が40歳以上65歳未満の場合】
夫の被保険者期間が20年以上あって条件を満たす子どものいない妻には、遺族厚生年金に加えて中高齢寡婦加算が支給されることがあります。
【妻が65歳以上の場合】
妻が65歳になると中高齢寡婦加算は支給停止となり、自分自身の老齢基礎年金が支給されます。妻が専業主婦で老齢基礎年金を満額受給できる場合、ざっくり計算すると遺族厚生年金と妻の老齢基礎年金の合計額は年額129万6,000円(月額10万8,000円)ほどです。
【妻が65歳から老齢厚生年金を受給する場合】
妻自身に厚生年金に加入していた期間があると、自分の老齢厚生年金が優先的に支給されます。自分の老齢厚生年金のほうが遺族厚生年金よりも多いと、遺族厚生年金は全額支給停止となります。
【参考】
「遺族年金の受給と年金額のめやす( https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/provision/11.html )」公益財団法人 生命保険文化センター
「中高齢寡婦加算( https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/tagyo/chukoreikafu.html )」日本年金機構
「平成19年4月から改正された65歳以上の者に係る遺族厚生年金の見直しの内容について、具体的に教えてください( https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/izoku/izoku-kousei/minaoshi/20140924.html )」日本年金機構
■さいごに
「姻族関係終了届」の手続き後も、遺族年金は受け取れます。厚生労働省の2019年「簡易生命表( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/dl/life19-02.pdf )」によると、日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です。平均寿命の男女差は約6歳と大きいため、同年代夫婦や妻が年下の夫婦では夫が先に亡くなる可能性が高いと考えてよいでしょう。
夫が亡くなったときに、「死後離婚」という選択肢もあることを知っておくと役立つことがあるかもしれません。どんな道を選んだとしても、自分らしい人生を送りたいものですね。ただし、遺族年金は再婚すると支給停止になることは知っておきましょう。
【参考】
「戸籍調査( http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_koseki.html )」法務省
「姻族関係終了届( https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000369847.html )」大阪市
「遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-04.html )」日本年金機構
「遺族年金の受給と年金額のめやす( https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/provision/11.html )」公益財団法人 生命保険文化センター
「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html )」日本年金機構
「中高齢寡婦加算( https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/tagyo/chukoreikafu.html )」日本年金機構
「平成19年4月から改正された65歳以上の者に係る遺族厚生年金の見直しの内容について、具体的に教えてください( https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/izoku/izoku-kousei/minaoshi/20140924.html )」日本年金機構
「令和元年簡易生命表の概況 主な年齢の平均余命( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/dl/life19-02.pdf )」厚生労働省