■2020年振り返り~不確実性の時代~



昨年の弊社の投資環境見通しでは、2020年は「不確実性の時代」。ジョン・ケネス・ガルブレイス氏の著書「The age of uncertainty (不確実性の時代)」にあるように、「前世紀の経済思想の中にあった確固たる確実性」が崩壊してしまい、不確実性に直面するだろうという予想でした。



2020年を振り返ってみると、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、世界各国で封鎖措置が取られ、経済活動がストップ。コロナ禍で実施された異例の米大統領選挙では、現職のトランプ大統領が大接戦の末に敗れるなど、まさに不確実性に覆われた1年となりました。



その中で、株式などリスク資産は大きく下落し、コロナショックとも呼ばれる落ち込みとなりましたが、2020年の各資産クラスの騰落率を示したグラフにも示されているように、ほぼすべての資産クラスで2020年はプラスパフォーマンスを記録し、特に、米国株式は21.3%の好パフォーマンスとなりました。



その背景には、米連邦準備理事会(FRB)が政策金利を1.0-1.25%から史上最低の0.0-0.25%に引き下げ、量的緩和を実施し、金融緩和政策による低金利が米国株式のバリュエーションを押し上げ、同時に新型コロナウイルス対策としての政府支出が家計の需要を下支えした「政策の力」が挙げられます。



2021年投資環境見通し-注目は米国株式xESG <HSBC投信レポート>

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■2021年の見通し~不確実性の終焉、復興する経済~



世界経済は復興の局面にあり、世界恐慌以来の深刻なリセッションから回復しつつあります。 完全な回復には時間を要しますが、2021年の経済回復は企業収益の伸びをサポートする見込みです。

ただし、回復ペースは国や地域により異なり、ワクチンの普及や政策支援の状況に左右されるでしょう。



一方、政策を巡る不確実性は終焉を迎えると予想しています。経済政策不確実性指数が示すように、すでに不確実性は低下傾向にあり、地政学と貿易に関するリスクは残るものの、他は分析可能な範囲内だと考えます。



また、中期的に金利の横ばいを予想しますが、FRB と 欧州中央銀行(ECB)はさらなる低金利の長期化策や新たな政策フレームワークを導入することが考えられるため、低金利のさらなる長期化シナリオを織り込みながら、投資戦略を立てていく必要があります。



2021年投資環境見通し-注目は米国株式xESG <HSBC投信レポート>

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■復興経済における投資戦略



今後、各資産クラスの期待リターンは長期にわたり低下すると見込まれるため、現実的なリターンを想定する必要があります。特に、先進国国債はリターンが低下する一方で、以前よりもリスクが高まっていることからも、経済が復興していく中では、地域配分を管理しながらも、株式への資産配分が、依然として理に適っていると考えます。



そして、投資戦略の中で重要な役割を果たすと考えられているのが、ESG(環境・社会・ガバナンス)です。ESGはnice to have(あると良い)ではなく、need to have(なくてはならない)となっているのです。ESGについては、こちらの記事をご参照ください。「あなたの投資が世界を変える。その2つの理由とは? <HSBC投信レポート>( https://limo.media/articles/-/20348 )」



■FRBも、ついにNGFSに加盟



NGFSとは、Network for Greening the Financial System、日本語に直訳すると「金融システムのグリーン化のためのネットワーク」で、気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するための中央銀行及び金融監督当局の国際的なネットワークのことです。



2017年に、イングランド銀行やフランス銀行など8機関が中心になって設立され、日本の金融庁は2018年、日本銀行は2019年にメンバーとして加盟しています。

2020年12月14日時点で、 83のメンバーと13のオブザーバーが登録されていましたが、そこに、FRBが正式に加盟したことを発表しました。



環境問題は金融安定化の一環として考慮しなくてはならないリスクの1つという認識をFRBも示したことで、今後の気候変動リスクに対する各国の中央銀行の対応にも注目が集まっています。



■米証券取引所ナスダックの新たな試み



米証券取引所ナスダックが、上場企業の取締役会のダイバーシティ(多様性)の向上を促すための新たな規則を策定し、SEC(米証券取引委員会)に承認を要請したと発表しました。



具体的には、ナスダック上場企業には、取締役のうち最低ひとりを女性、もうひとりを人種的少数派(マイノリティー)か、LGBT+等と呼ばれる性的マイノリティーに任命することを促し、取締役メンバーの性別や人種に関する報告書公表を義務づけます。



この規則に従えない企業は、最悪の場合、ナスダック上場廃止となる恐れもあります。環境問題と同様に社会問題への企業の取り組みも、マーケットにおいて重要な要素となることが示されたのです。



■2021年は日米欧中が脱炭素に向けて足並みを揃える



2020年12月に開かれた、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の採択5周年を記念する首脳級のオンライン会合で、菅義偉首相は「2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにすることを目指す」と宣言しました。



欧州連合(EU)は2019年に、2050年までに域内の排出実質ゼロを目指すといち早く決定しており、中国も2060年までのCO2排出実質ゼロを宣言しています。



米国はパリ協定を離脱していますが、新政権発足とともに復帰するとバイデン新大統領は強調しています。なぜなら、気候・環境問題への対応は前政権から180度の政策転換となるため、世界から注目が集まっているからです。



バイデン新大統領は、地球温暖化防止のために、2050年までに脱炭素社会を実現すべく、大規模なインフラ整備などからなる「クリーンエネルギー/持続可能インフラ計画」では、4年間で約215兆円を投入する計画です。



近年、米国ではサステイナブル投資額が急増しており、2010年から2020年の10年間で5倍超に拡大しました。

新政権の下、米国の気候変動政策が大きく前進すると予測される中、サステイナブル投資へのさらなる資金流入が期待されます。



2021年投資環境見通し-注目は米国株式xESG <HSBC投信レポート>

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■注目の米国株式xESG



米国大統領選挙が終了し、追加経済対策法も成立。市場を覆っていた不確実性への懸念が後退し、新型コロナウイルスへのワクチン早期実用化期待が高まる中、低金利のさらなる長期化シナリオをベースにした「緩和マネー」が株式市場に流入しています。



米国株式市場ではS&P500指数が史上最高値を更新し、その後も堅調に推移していることからも、2021年は世界経済の復興を織り込む相場となると考え、リスク資産である株式を中心とした投資戦略が有効であると考えます。



同時に、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、新たな生活様式が求められ、脱炭素に向けた動きといった環境面のみならず、働き方や雇用維持といった社会面も重要視され、改めて投資戦略としての「ESG」に注目が集まっています。



2020年のパフォーマンスでみても、株式ではS&P総合500種ESG指数は17.6%上昇し、伸び率はS&P500指数を上回りました。

ESG要素を配慮する企業の価値は中期的に高まるとの見方からESG市場への資金流入の勢いが強まっており、2021年もESG投資の拡大傾向は続くとみられます。



HSBC投信 シニア・マーケット・スペシャリスト 久世 ベルト 素子