バイデン政権が始動した中、イラン情勢の悪化が懸念される。日本は石油の9割を中東に依存しており、その不安定化は日本経済にも大きな影響を与える。



■イランがウラン濃縮度を大きく引き上げると発表



イランは1月4日、中部フォルドゥにある地下施設でのウラン濃縮活動について、濃縮度を20パーセントにまで引き上げると発表したのだ。



2015年のイラン核合意で決定された濃縮度の上限は3.67パーセントだが、イランはトランプ政権による度重なる経済制裁に反発し、2019年以降これまでに4.5パーセントまで濃縮度を高めるなどしてきた。しかし、今回の20%はこれまでとは大きく異なり、今後の情勢の行方が懸念される。



まず、バイデン政権が公約に掲げるイラン核合意への復帰がいっそう難しくなった。バイデン氏自身も復帰の前提としてイランが核合意を遵守することを挙げており、今後は核合意遵守を巡って米イランの間で争いが激しくなる可能性がある。



そして、トランプ政権時代、英国やフランス、ドイツは米イランの緊張が悪化しないようバランスを取るような役割を担ってきたが、20%の引き上げは欧州3カ国のイランへの不信感を高め、欧州とイランの関係がいっそう不安定化する可能性がある。



バイデン政権は欧州との関係改善を重視しており、今後は“米英独仏とイラン”の構図がより鮮明になってくるだろう。



■イスラエル、サウジは“対イラン同盟”へ?



しかし、最も懸念されるのはイスラエルとサウジアラビアの動向だ。両国はイランと長年対立しているが、最近はトランプ政権の仲裁役もあり、経済を中心に両国は関係をこれまでになく緊密化させている。



また、イスラエルとUAEやバーレーンなどのアラブ諸国は国交正常化を発表し、サウジアラビアなどはイランとの接近を理由に外交関係を断絶していたカタールとの国交回復を実現した。



今後はカタールとイランの関係の行方にも左右されるが、こういったイスラエルやサウジアラビアの動きは対イラン包囲網をより強固なものにするのが狙いだろう。



トランプ政権と蜜月関係だった両国だが、国際協調や人権遵守を重視するバイデン政権でその蜜月が維持できるわけではない。

イスラエルやサウジアラビアはそういったことも事前に察知し、米国の関与が薄くなる形でも“対イラン同盟”のようなものを構築したい狙いがある。



イランは最近、核兵器製造に使用される恐れのある金属ウランの製造に着手し始めたとみられる。イランはバイデン政権が初めにどう出てくるかを試すために、あえて強硬な姿勢を見せているとの見方もあるが、イスラエルとサウジアラビアの動向を注視すれば事態は悪い方向に流れている。



中東に展開する日系企業は、今後のイラン情勢の行方をより注視していく必要があろう。