11.7兆円もの為替介入を行っても2026年の円安が止まらなかったのは、利上げを伴わなかったためです。2024年の経験が示す通り、介入は一時的なショックに過ぎず、日米金利差という構造的要因を変える利上げとセットでなければトレンドは転換しません。
ドル円が1ドル=160円を超える水準まで急速に円安が進んだことを懸念した日本政府は、4月下旬から5月の大型連休中にかけて、月間ベースでは過去最大となる11.7兆円の為替介入を実施しました。これによりドル円は一時5円以上急落しました。
しかし、円高1円につき約2.4兆円の外貨準備高を投入するという大規模介入だったにもかかわらず、その効果はひと月で切れ、ドル円は再び160円に戻っています。
ここで思い出されるのは2024年の介入です。この時は持続的な円高につながりました。ではどうして2026年の介入は短期効果にとどまったのでしょうか。
2024年と2026年の円安相場と政府、日本銀行の対応を比較分析すると、「為替介入は単体では円安トレンドを変えず、利上げとセットで初めて持続的な円高が実現する」という結論が見えてきます。
2024年は、介入と利上げの相乗効果で市場が政策転換を認識し、円キャリーポジションの巻き戻しが広範囲で発生しました。一方、2026年は(現在のところ)利上げを伴わない介入にとどまり、円安トレンドは維持されたまま、効果は短期的に消失しました。
1. 2024年:介入と利上げが重なり、円安トレンドが転換
2024年のドル円は、日米金利差の拡大を理由に年初から一貫して円安が進み、4月には1990年以来となる1ドル=160円まで上昇しました。
政府は、この円安の動きがあまりに急すぎるとして、4月29日に円買い/ドル売り為替介入を実施。介入ショックのおかげで直後にドル円は5円急落しました。
なぜなら、日銀は依然として利上げに対して慎重な姿勢を堅持していたからです。介入だけでは円安の構造的要因を取り除くことはできない。そのため市場の「円キャリー継続」スタンスは変わりませんでした。
ドル円は、7月には160円を超えて、約38年ぶりとなる161円台まで円安が進みました。政府は7月に再び為替介入を実施しましたが、市場の反応は薄く、ドル円は数円の下落にとどまりました。
グラフは、ドル円の動きに為替介入を重ね合わせたものです。縦線が介入を実施した時期です。
緑色の背景色は、4月に行われた最初の介入(①)によるドル円の動きです。ドル円の動きを見ると、介入で一時的に下落したものの、短期間で円安に戻ったことが分かります。
7月に行われた2回目の介入(②)によるドル円の動きは黄色の背景色で示しています。
ところが、7月にドル円に大きなターニングポイントが起きました。
介入は短期的なショックを与えただけでしたが、日銀の利上げがセットになり、ここで初めて、市場は「円安トレンドが終わる」というストーリーを受け入れ、ポジションの巻き戻しが起きたのです。
ドル円のトレンドは円安から円高へと大きく切り替わり、わずか2カ月間のうちに22円以上も円安が修正されて、9月には一時139円台をつけました。
グラフは、ドル円の動きと為替介入に、日銀利上げタイミングを重ねたものです。縦線が介入実施時期、そして赤線が日銀の政策金利を示しています。
7月の2回目の介入(②)によるドル円の動きは、黄色の背景色で囲んでいるように、その効果は限定的でしたが、日銀がその2週間後に利上げを決定したことで、ドル円が急激に円高に動き始めたことがはっきりと分かります(③)。
「円買い介入は単体では効果が持続しない(①と②)、日銀利上げとセットで初めてトレンドが変わる(③)」。2024年の相場は、まさにそのモデルケースとなりました。
2. 2026年:介入だけでは、円安トレンドを変えられない
2026年になって、ドル円は再び160円台まで戻ってきました。これに対して政府は、2026年4月末から5月にかけて約11.7兆円規模の大規模ドル売り/円買い為替介入を実施しています。ドル円は160円台から一時155円台へ急落しましたが、ひと月もたたないうちに再び160円台に戻っています。
グラフは2025年後半から現在までのドル円レートに、介入時と日銀政策金利の推移を重ね合わせたものです。
3. 介入単体だけでは、円安を止められない理由
2024年と比較すると、介入効果が持続しなかったその理由は明らかです。「日銀の利上げ」がなかったからです。
2024年にドル円のトレンドが円安から円高に切り替わったのは、介入と利上げが同時に行われ、市場が「政策スタンスの転換」を認識したからです。
一方で、2026年は大規模介入が実施されたにもかかわらず、日銀が利上げをしなかったことで、市場の金利期待は変化することなく、円キャリーポジションの構造も維持されました。日銀の政策が日本の外貨準備高の5.6%も使った介入の費用対効果を薄めてしまったともいえます。
金利差という中長期のトレンド要因が変わらない限り、短期的な調整はあるとしても、中期的な投資家のポジション構造に影響を与えることはできません。2026年5月の介入はドル円の押し目を提供しただけに終わりました。
4. なぜ、日銀は利上げしなかったのか?
2024年の1回目の介入(①)と、今回2026年の介入(④)の状況は非常に似通っていることに気づいたと思います。どちらのケースも介入効果はひと月程度で消えました。
しかし、2024年の経験を通じて、円安を止めるには介入だけではなく、日銀の利上げがセットで必要であることは当事者の政府・日銀が一番よく知っているはずです。それなのに、なぜそうしなかったのでしょうか?
次回のレポートではこの点について分析したいと思います。
(荒地 潤)

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