各バス事業者が2020年10月に行うダイヤ改正により、多くのバス路線が姿を消します。そのなかには、かつて鉄道として運行されていた幹線バスや、驚くほどの秘境、狭い道を走る路線も。

どのような路線であったのかも振り返ってみましょう。

大都市の幹線や鉄道代替路線が廃止

 2020年10月のダイヤ改正で多くのバス路線が廃止されます。なかには、かつての幹線路線や、鉄道の代替バス路線、車窓に広がる景色がファンの人気を集めた路線も。それぞれの事情を見てみましょう。なお、特記以外は2020年9月30日(水)が最終運行日です。

●阪急バス13系統
・廃止区間:箕面~豊中~梅田(10月2日〈金〉最終運行、5日〈月〉廃止)

隣接する都市にも大きな住宅街を抱える大阪市は、周囲の街から中心部へ向かうバス路線が多く存在しました。

ほとんどが鉄道の発展とともに姿を消すなかで、鉄道と並行しながらひっそりと運行されていた阪急バス13系統が廃止となります。

 阪急箕面駅から梅田の市街地を結ぶこの路線は、親会社の鉄道路線でもある阪急箕面線・宝塚線とかなりの部分で並行します。全線を走破すれば1時間という都心部には珍しいロングラン路線でしたが、豊中市内の鉄道駅を利用しづらい地区をカバーしていたため、全線を通じて乗客が多く、鉄道を補う役割を果たし続けてきました。

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阪急バス13系統は、梅田バス停を発車してすぐ阪急百貨店横を通る(2016年10月、宮武和多哉撮影)。

 しかし周辺地域の交通量が増すにつれ、渋滞の名所としても知られる「イナロク」こと国道176号線を走っていたこともあり遅れが顕著に。ここ数年は平日のみ運行となり、沿線にある阪急バス豊中営業所の車庫移転によって路線網も大きく変わるなか、その歴史に幕を閉じることとなったのです。

 なお、沿線には13系統と並行する路線が多く存在しますが、13系統の廃止後、大阪市内から阪急箕面駅への乗り入れは平日2本に削減されるそうです。

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このほか幹線系統でいえば、全線乗り通せば2時間弱という長大路線でありながら、かつては1日十数往復が運行された徳島バス丹生谷線、徳島駅前~川口営業所(徳島県那賀町)間も阿南市内の発着に変更され、区間が大幅に短縮されます。

 また廃止になった鉄道の代替を果たしていた路線バスも2本が廃止されます。2007(平成19)年に廃止された西鉄宮地岳線(残った部分は現・貝塚線)の代替だった西鉄バス5系統(西鉄新宮駅~津屋崎橋)や、岡山県で1991(平成3)年に廃止された下津井電鉄(児島~下津井)を代替した下電バス下津井線も姿を消します。

北海道の長大な名物路線が廃止へ 『ルパン3世』舞台への路線も

 北海道では、荒々しい海沿いを行く名物路線や区間が廃止されます。

●函館バス「檜山海岸線」(部分廃止)
・廃止区間:熊石病院前~大成学校(北海道八雲町~せたな町)

 北海道の道南地方で、日本海側の海岸線を北上していた函館バスの路線が一部廃止となり、渡島半島の西側海岸を路線バスで乗り継ぐことができなくなります。

廃止されるのは731系統(江差バスターミナル~大成学校前)のうち北側、熊石病院前~大成学校前間で、これにより約20kmバス路線が途絶えてしまうのです。

 この路線の魅力は、何と言ってもその車窓に尽きます。 廃止となる区間の多くで西側に広がる日本海の波は夏でも激しく、バスの車内まで届く海鳴りと潮風は、どんな絵画や音楽よりも荒々しい形相を見せてくれます。また沿線には「親子熊岩」「奇岩雲岩」などインパクトのある岩礁や地形が多く、海岸線を照らす夕映えの素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものがあります。余談ですが筆者はこの周辺を歩いていた際、地元の方から唐突に鮭を丸々1本もらうなど、とても情けに厚い地域でもあります。

名物路線が相次ぎ消滅 全国「2020年10月廃止の路線バス」 かつての鉄道代替バスや絶景路線も

大成学校に停まる函館バス。
ここで乗り継ぎできるようになっていた(2014年5月、宮武和多哉撮影)。

●くしろバス「霧多布(きりたっぷ)線」(部分廃止)
・廃止区間:子野日公園~霧多布温泉ゆうゆ(北海道厚岸町~浜中町)

 北海道ではその他にも、釧路市内やJR浜中駅から太平洋に突き出た岬の浜中町霧多布を結ぶ、くしろバス霧多布線の浜中町内の区間が廃止となります。この路線は『ルパン3世』の原作者として知られるモンキー・パンチさんが浜中町出身ということもあって、とても目立つルパン仕様のラッピングバスが投入されていました。

 霧多布の一帯は2007(平成19)年にテレビ放送されたスペシャルシリーズ第19作『ルパン三世 霧のエリューシヴ』で、ルパンと魔毛(マモー)が死闘を繰り広げた舞台でもあります。市街地には建物やマンホールなども「ルパン仕様」で、街全体が観光名所・聖地でもあります。10月以降、霧多布方面へのバスは浜中町の町営バスとして路線の規模を縮小し運行、また釧路から霧多布方面へのバスも、途中の厚岸町までは運行されるそうです。

山奥や市街地の「狭隘路線」も

「道の狭さ」が廃止の理由のひとつになった路線もあります。

●奈良交通「十津川線」(全線廃止)
・廃止区間:五條バスセンター~十津川温泉間(奈良県五條市~十津川村)

 長距離を走る絶景路線としては、奈良交通の十津川線も廃止となります。ここは、日本一の長距離路線バス「八木新宮線」と一部同じコースを走る路線でした。10月からは、これとは別に五條~十津川間で運行されているコミュニティバス「広域通院ライン」の経由地を整理し、五條バスセンターから南奈良総合医療センター(大淀町)へ延伸させる予定です。

●大分バスE14系統「滝尾循環線」(部分廃止、ルート変更)
・廃止区間:辻堂~津守新町間、滝尾駅前~富岡間(大分市)

 大分市では滝尾循環線が運行ルートを変更し、住宅が密集した滝尾地区・曲地区などからバスが姿を消します。大分県からJR豊肥本線 滝尾駅の西側に広がる住宅街を結んでいたこの路線は、まっすぐ走れる道路が極端に少なく、自家用車どうしのすれ違いにも難渋する状況でした。

民家の軒先をそろそろと走り抜ける滝尾循環線のバスは、車幅ギリギリの道を走り抜ける「狭隘路線バス」の代表格として、知る人ぞ知る存在でもありました。

名物路線が相次ぎ消滅 全国「2020年10月廃止の路線バス」 かつての鉄道代替バスや絶景路線も

狭隘な滝尾地区をゆく大分バス(2018年3月、宮武和多哉撮影)。

 かつては集落の足として多くの乗客を運んできたこの路線ですが、代替の交通を検討してきた際には乗客減少だけでなく、狭い道路でのバス運行も課題として検討されました。今後は大分市が地元のタクシー会社に委託する形で、路線バス廃止区間から最寄りの停留所までを結ぶ9人乗りのジャンボタクシーとして運行されるそうです。

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 狭隘な道路や秘境を走る路線バスとしてはその他にも、厳しい峠越えで知られた岩手県交通 山伏線(JRほっとゆだ駅~貝沢~盛岡駅)や、山形県の日本海側に位置する関所の街・鼠ヶ関の街道筋を通る庄内交通 温海平沢線(あつみ温泉~平沢)、紀伊半島の熊野川沿いの密林を抜ける熊野御坊南海バス 玉置口線(神丸~玉置口)なども、路線短縮などで現状のバス路線としての役目を終えます。

新型コロナで厳しい路線バス 廃止の流れは続くか

 2020年はとりわけ、新型コロナウイルスの影響による移動需要の減少によって、各バス事業者が苦しい状況に置かれています。10月のダイヤ改正では、今回挙げたもの以外でも多くのローカル路線バスが経費削減の対象となってしまいました。

 街のかたちや、地域の人の動きは刻一刻と姿を変えるため、頻繁な運行で地域に必要とされたバス路線も、姿を消す日が来ないとは限りません。前出した鉄道代替バスの役割を果たした西鉄バス、下電バスの路線とも、廃止区間はある程度他の路線でカバーされますが、地域の人々の動きが、鉄道があった時代とは変わり、かつての鉄道沿線をたどる必要がなくなったと言えるかもしれません。

 とはいえ、バス路線は長い歴史や変えがたい景色を持つものが少なくありません。そうしたバスに乗車して、変わっていく都市や変わらない絶景を車窓から眺めるのも良いのではないでしょうか。

※一部修正しました(9月29日21時25分)。