全国の公共交通の関係者がオンラインで参加した研究会で、バスなどの利用状況や取り組み、これからのビジョンが話し合われました。今後考えられる、需要の回復による非効率性の拡大、それを回避するため「変動運賃」が注目されています。

需要の回復による「悲劇のシナリオ」とは

 コロナ禍が収まっても、公共交通の需要は従前には戻らない――このような認識が、公共交通に携わる人々のあいだで改めて共有されました。

 公共交通に携わる事業者や研究者、コンサルタントらによって構成される公共交通マーケティング研究会が2020年12月24日(木)、第7回の例会をオンラインで開催。視聴者数は一般を含む約250人と見込まれています。

 会の前半、合同会社おでかけカンパニー代表の福本雅之さんから、全国の公共交通の利用状況が紹介されました。4月から5月にかけての緊急事態宣言下で利用は大きく落ち込んだものの、10月の段階で路線バスにおいては8割近くまで回復しているとのこと。

 しかし中・長距離の輸送を担う高速バスの回復率は約4割、貸切バスは「Go Toトラベル」もあり約6割まで回復したものの、11月以降の感染者の拡大により、再び厳しい状況に置かれているといいます。

また公共交通全体では、コロナ禍により最低でも3.5兆円の減収という試算や、来期末までに5割の企業で事業の継続が困難になるという調査結果もあるということです。

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ピーク時間帯だけ需要が戻るのは弊害もあるという。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 このため、自治体による公共交通の利用促進や事業継続、感染拡大防止に対する様々な支援が実行されていることも、会を通じて紹介されたものの、一方で福本さんは、「単に利用が元に戻るだけでは、良いこととは言えないのではないか」と話します。

 というのも、公共交通はピークに合わせた輸送力が確保されていますが、オフピークの時間帯は、その輸送力がむしろ過剰になり、車両などが遊休化してしまいます。今後、ピーク時の需要だけが戻り、オフピークの需要が減ったままでは、その差が激しくなり、むしろ以前よりも非効率に。

これこそが「悲劇のシナリオ」ではないかといいます。

 このため、在宅勤務や時差通勤を推進するなどしてピーク時間帯の「量を減らす」「時間をずらす」、そして自家用車からの転換促進などで閑散時間帯の「量を増やす」――こうした需要のコントロールや掘り起しをどのように行っていくかが、メイン議題として話し合われました。

「オフピークは運賃半額」「紙のきっぷは価格2倍」

 その手段として取り上げられていたのが、「時間帯別運賃」と、予約状況などに応じて先々の便の運賃がリアルタイムに変動していく「ダイナミックプライシング」です。

 JR東日本やJR西日本は、ピーク時間帯を避けた乗車にポイント還元などでインセンティブを付与する取り組みを今後行う予定です。またダイナミックプライシングは、ホテルや航空、あるいは夜行高速バスなどで導入されていますが、京王電鉄バスなどは、これを高頻度で運行する昼行の高速バスに適用しています。

 交通経済研究所の渡邊 亮さんによると、これらは海外ではコロナ以前から広く導入されているといいます。

たとえばロンドンの地下鉄では、平日6時30分から9時30分と、16時から19時のあいだを「ピーク」とし、中心部区間内はピークとオフピークの運賃差を小さく、郊外に行くほどその差を大きく設定。これはICカード利用の場合で、紙のきっぷは全時間帯を通じ、オフピークと比べ2倍程度の値段になっているといいます。

 またオーストラリアのシドニーでは2020年を通じ、オフピーク時間帯の割引率を30%から50%にしたり、ピーク時間帯の幅を拡大したりして、感染者数の動向を踏まえながら諸条件を柔軟に設定したそうです。

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シドニーのサーキュラー・キー駅付近(2019年、乗りものニュース編集部撮影)。

 会では各事業者から、このような公共交通にマーケティングの手法を導入した事例や、コロナ禍を踏まえたオンラインイベントの取り組み、デジタル化の拡大事例などが紹介されました。

 交通経済研究所の渡邊さんは発表の最後で、「海外の事業者や研究者と最近よくする会話」として次のような内容を紹介しています。

 日本の公共交通の利用者は「一時期よりは回復したけど、まだ3割減くらい」と言うと、海外の人からは「うちは『3割』だよ! なんでそんなに乗客いるの!?」といった風に驚かれることが多いのだとか。コロナ禍でも従前と比べて7割の乗客が戻っている状況は、それだけ日本の公共交通が信頼されている証なのではないか、と話します。