言わずと知れたベストセラー車、トヨタ「プリウス」の人気に陰りが見えています。最大の強みだった燃費の良さは今や「ヤリス」が上回り、電動化の流れのなかで、プリウスは取り残されている感も。

今後はどうなるのでしょうか。

燃費だけでなくベストセラーの地位まで奪った身内「ヤリス」

「プリウス」が苦戦しています。自販連(日本自動車販売協会連合会)が発表している2020年の販売台数ランキングを見ると、その数は6万7297台でランキング12位(乗用車ブランド通称名別順位)。2009(平成21)年の初の栄冠から、2019年までの11年間で7回も1位をとっていたプリウスとしては、心許ない順位といえるでしょう。

 販売不調の理由はいくつも考えられます。まず、単純に現行モデルがモデル末期にさしかかっており、競争力が低下していることが挙げられます。

現行モデル(ZVW50)のデビューは2015(平成27)年12月ですから、今年で6年目。過去のプリウスのフルモデルチェンジのタイミングでいえば、そろそろ代替わりの時期です。

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現行プリウス(画像:トヨタ)。

 次の理由は、「ヤリス」という強力なライバルの誕生です。2020年2月に発売された新型ヤリスはコンパクトカーであり、プリウスとはジャンルが異なりますが、その燃費性能はWLTCモードで36.0km/L。低燃費を売りにするプリウスの最高32.1km/L(WLTCモード)を軽々と上回る数値を実現しています。

 結果、ヤリスの販売は絶好調。2020年1月から12月の販売ランキングを見ると、プリウスの2倍以上となる年間15万1766台を売り上げ、年間1位を獲得します。“燃費が良くて、環境にもお財布にも優しい”という、これまでのプリウスのイメージだけでなく、ベストセラーという地位までもがヤリスに奪われてしまいました。

EVシフトの流れでポツン…? ハイブリッドのプリウス

 さらに、欧州発となるEV(電気自動車)シフトというトレンドもあります。欧米や中国では、エンジン車からハイブリッド車ではなく、それを飛び越えたEVへと向かう動きが出ています。これもハイブリッド車の代名詞的な存在であったプリウスへの逆風になったのかもしれません。

 では、この先、プリウスはどうなっていくのでしょうか。先進の環境対策車としてEVになってしまうのでしょうか。あるいは、水素を燃料とするFCV(燃料電池車)とし、庶民派「MIRAI」ともいうべき手が届く価格のクルマになるというアイデアもあるでしょう。

 ただし、筆者(鈴木ケンイチ:モータ―ジャーナリスト)の予想は、キープコンセプトです。

 理由はいくつもありますが、重要なのは、「EVシフト」への流れはまだ決定したものではないということ。確かに欧米ブランドは、熱心にEVシフトを喧伝していますし、それを後押しする報道も数多くあります。

しかし、実際にはEVが売れているわけではありません。特に日本市場では、まだまだです。

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ヤリス(画像:トヨタ)。

 前出の自販連は、新車の「燃料別販売台数(乗用車)」ランキングも公開しています。その最新データとなる2021年3月の国内販売のうち、EVが占める割合は、わずか0.8%に過ぎません。一方、ハイブリッドは38.9%にもなります。

現状の日本ではハイブリッドの重要性はゆらぎません。

 そもそもEVシフトを推す理由は、「CO2(二酸化炭素)排出の削減」です。しかし、CO2削減はEV以外にも、CO2由来の液体燃料や水素を使うFCVなどの選択もあります。また、EVは電池の生産に大量のCO2を排出するので、クルマのライフサイクルを長い目で考えると、EVがハイブリッド車よりも圧倒的に優れているとはいいにくくなります。つまり、未来のクルマの環境に対する最適解は、まだ決まっていないのです。

「プリウスはハイブリッドとともに消える」のか?

 また大前提となるのが、トヨタの“全方位”という方針です。

トヨタは、EVやる、FCVもやる、ハイブリッドも従来のエンジン開発も継続するスタンスであり、進化する可能性が残っているもの全てに取り組んでいるといえます。これは昔から変わらぬトヨタの姿勢です。トヨタほどの大きな会社であれば、なにか一つに賭けるなんて危なすぎますし、全方位の姿勢を保つ資金も技術力もあり、また人もいるというわけです。

 そのため、ハイブリッドを継続するであろうトヨタが、ハイブリッドの代名詞的な存在のプリウスを、いまさら大幅に変化させるとは考えにくいのです。場当たり的な変化でイメージを棄損させることは、逆にリスクが大きいうえ、そもそもプリウス=ハイブリッドというブランドイメージをここで止める意味もないのではないか、と筆者は思うのです。

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新型MIRAI(画像:トヨタ)。

 もし変化させるのであれば、世の趨勢がEVシフトに決まり、ハイブリッドの販売が減ったときでしょう。こうなれば「プリウスはハイブリッドの終焉と共に消える」という選択肢もありますし、「ハイブリッドと決別しても、プリウスという名前を残す」という可能性もあります。

 しかし、どちらにせよ、そうしたことが検討されるのは数年先、もしかすると10年単位の先になるかもしれません。そういう意味で、近く登場するであろう次世代プリウスが、ハイブリッドをやめるのはあり得ないと推察されます。

 そう考えると、次のプリウスがベストセラーの座を諦めているわけもないはずです。「今年のベストセラーはヤリスでしたが、次はプリウスが奪回!」とでも考えているでしょう。そのために燃費性能を向上させて、意欲的なデザインや機能を与えるのは間違いありません。どんな驚きが用意されているのか。次のプリウスを考えると、筆者はワクワクしてきます。