「飛行機が多少遅延するのはあたりまえ」、そう思っている人は少なくないかもしれません。ただ現場では少しでも定時運航率を上げられるよう、努力が続けられています。

2015年に「定時到着率」で世界一になったJALに、その現状や要因、工夫を聞きました。

時刻表通りピッタリとはいかない飛行機、その「定時」とは

 JAL(日本航空)が2015年、国内線と国際線をあわせた運航実績において、89.44%という「定時到着率」を記録。世界1位になりました。

 世界の航空業界に関しさまざまな調査、分析を行っているFlight Stats社(アメリカ)が認定したもので、JALはその「主要航空会社部門」において過去7年間で5回、「世界一」を達成しています。


2015年、JALは「アジア・パシフィック主要航空会社部門」「アライアンス部門」でも定時到着率1位になり「3冠」を獲得(2016年3月、恵 知仁撮影)。

 ただ「飛行機の定時」といっても、多くの人はそれに乗る際、ピッタリ時刻表通りに到着するものとは考えていないでしょう。

いったい飛行機の「定時」とは、どのようなものなのでしょうか。また、どのようにして「世界一」を達成したのでしょうか。東京の、そして日本の“玄関口”であり、JALにとって“最重要拠点”のひとつといえる羽田空港で、定時性向上に取り組んでいる矢嵜敬太さんに話を聞きました。

ドアが閉まったとき? 動き出したとき? 飛行機の出発時刻は

――そもそも飛行機の「出発時刻」「到着時刻」とは、どの時点が基準なのでしょうか。

 お客さまがすべて搭乗されて、ドアが閉まったのち、飛行機が動き出した時間が「出発時刻」です。「到着時刻」は、飛行機が駐機場(降機場所)に止まった時間になります。

――たとえば「12時10分着」というスケジュールで、鉄道のように1分とたがわず、その時間ピッタリに飛行機が到着することは多くないと思います。飛行機が「定時」とする時間には、幅があるのでしょうか。

 Flight Stats社では14分遅れまでの到着を「定時」として取り扱っていますが、JALとしては予定通りの時間に到着するようお客さまと約束しているわけですから、それを守ることが目標です。しかし飛行機の場合、天候などの航空会社の力がおよばない部分で遅延につながることも多いです。


JAL「羽田地区定時性委員会」メンバーの矢嵜敬太さん(2016年3月、恵 知仁撮影)。

――「航空会社の力がおよばない部分」とは、具体的にどういうものでしょうか。

 空路混雑や発着枠増加による羽田空港自体の混雑、気象条件などが挙げられます。たとえば、冬に羽田から沖縄方面などを目指す便は強い偏西風、すなわち“向かい風”の影響を大きく受けます。運航スケジュールを決定する際、この偏西風の影響を考慮いたしますが、偏西風が予想以上に強い場合、出発地を定時に出発しても遅れてしまうことがあります。

 逆に冬、羽田から北海道など北へ向かう場合、同じく偏西風の影響で“追い風”になり、早着することもあります。

圧倒的に多い遅延要因とは たとえば朝の沖縄行き

――そのほか飛行機の定時運航に影響が出る要因として、なにが挙げられるでしょうか。

 私は、羽田空港でJAL国内線を利用されるお客さまのチェックインや搭乗案内などを行う業務を担当しているのですが、圧倒的に多い遅延の要因は、「お客さまをスムーズにご案内できなかったとき」です。


JALグループだけで出発、到着それぞれ1日あたり約200便がある羽田空港(2016年2月、恵 知仁撮影)。

――どのような例があるでしょうか。

 朝の6時25分に羽田から沖縄(那覇)へ向かう便は、かつて定時に出発させることが難しい状況でした。

 この便には「旅行に出かける家族連れのお客さまが多く利用される」、「定員の多い大型機での運航」、「予約率が高い」という特徴があります。そして朝早くの出発であるため、公共交通機関をご利用のお客さまは6時頃、まとまって空港へ到着されます。つまり、大きな手荷物をお持ちのご家族連れのお客さまが、ある時間帯に集中してチェックインにお越しになられます。

搭乗口の変更で定時出発率が上がったワケ

――早朝ですから空港に来る時間を早めてもらうのも難しいでしょうし、どのように対策したのでしょうか。

 早朝便については、案内係を増やすなどしてチェックイン時のご案内をより迅速に行えるよう徹底し、スムーズにお客さまを搭乗口へご案内するよう心掛けました。また先述の沖縄行きについては、搭乗口を8番から10番に変更しています。これにより保安検査場Bに加え、Cからも搭乗しやすくなり、この結果、翌月には定時出発率が大幅に向上しています。


8番から10番搭乗口への変更で保安検査場Cが近くなり、使いやすい保安検査場が増えた。保安検査場Aはスターフライヤー専用(JALの羽田空港フロアマップを加工)。

――搭乗口の変更は、かんたんにできるのでしょうか。

 JALだけで決められず、羽田空港側のさまざまなセクションとも相談する必要があります。今回、遅延分析や現場でのお客さまの「動向」、空港の「動線」などを考え、羽田空港の関係者の皆様のご協力もあり、搭乗口の変更を実現いたしました。

 また、お客さまが多い大型機で運航する便は、基本的に保安検査場の近くに搭乗口を寄せるようにしているほか、大型機による便が同じ時間帯に重複する場合、両便の搭乗口を意図的に少し離すことで、お客さまがスムーズにご搭乗できるようにして、定時出発を目指しています。

飛行機が遅れやすい時間帯

――遅れやすい時間帯などはあるのでしょうか。

 羽田空港の1日を見ていますと、朝6時から9時までに出発する便は飛行機が羽田空港に駐機している状態ですので、お客さまをスムーズに飛行機までご案内し、ご搭乗いただければ、飛行機を定時に出発させることができます。もちろん、先述した搭乗口変更の例のように、お客さまをスムーズに飛行機までご案内し、定時出発させるために、我々に何ができるか常に考え、変えていくことが必要です。

 しかし昼前ごろになると、状況が変わってきます。到着便に遅れが出た場合、折り返しの出発便にも遅れが出てくるのです。

――それが積み重なって、どんどん遅れてしまうこともありそうですね。

 大阪(伊丹)発19時00分の羽田行きJL137便は2015年度、恒常的に10分から15分程度、出発が遅れていました。そこでJL137便に使用する飛行機の運用パターンを確認したところ、まず朝6時台に羽田から福岡へ向かい、羽田に戻って、12時台に今度は那覇へ。再び羽田に戻ったのち伊丹へ向い、その後、伊丹からJL137便として羽田に戻る、というものでした。そして、昼の那覇行きの便あたりから遅れが出ることが多いことが分かりました。

――昼の那覇便に、なにか遅れる要因があったのでしょうか。

 この那覇便は、搭乗率の高い時間帯の便となっています。ご搭乗に間に合わなくなってしまったお客さまがいらっしゃった場合、セキュリティーの観点より、そのお客さまがお預けになった手荷物を飛行機から取り降ろす必要があります。このとき、お客さまの手荷物を関係セクションが連絡を密に取り、連携して迅速に取り降ろさなければ、便を定時に出発させることができません。この連携が不十分であることが分かりました。

 このように「なぜか」と深掘りしていき、その分析結果を関係セクションで横断的に共有、工夫することによって、積極的に状況を改善していくことを私どもでは心がけています。定時運航率が低い便に対し関係セクションが頑張って、定時に出発していく姿を見るとうれしいですし、達成感がありますね。

特に注意が払われている「重点便」も

――遅れやすいからなどの理由で、特に遅延対策をしている便もあるのでしょうか。

 一例として、「重点便」というものがあります。伊丹や福岡、那覇などは空港の運用時間に制限があるため、もし出発が遅れた場合、着陸できなくなる可能性があります。たとえば伊丹は21時以降、離着陸できません。そのため、伊丹到着が21時以降に遅れてしまうと見込まれる場合、フライトを欠航にせざるを得ないこともあります。


貨物室のドアを開け、搭載準備中のボーイング737-800型機(2015年10月、恵 知仁撮影)。

 その場合、お客さまに多大なご迷惑をお掛けしてしまいますから、「重点便」として設定している伊丹行き、福岡行き、那覇行き最終便では手荷物をお預けになったお客さまが全員搭乗口を通過するまで、貨物室のドアを開けておくなどの取り組みをしています。

 貨物室のドアは、一度閉めてしまうと再び開けるには時間がかかります。もし、手荷物を預けられたお客さまが何らかの理由でご搭乗されなかった場合、手荷物を取り降ろすのに時間を要してしまうため、ドアを最後まで開けておき、迅速に対応できる体制を整えています。

 とはいえ、もちろん「安全」が最優先ですので、焦ることのないよう「チェックシート」を使い、複数の人間で必ず確認してから飛行機を出発させています。

乗客に会うのが難しくなった航空会社、それが課題になっている現在

――さきほど、搭乗口変更でも関係セクションとの交渉が必要と聞きましたが、情報共有とコミュニケーションは大切ですね。

 もちろんお客さまに飛行機へ快適にご搭乗いただけるよう、日々、関係セクションで横断的なコミュニケーションと改善が必要な問題点などの情報共有が大切です。

 また技術の進歩により、お客さまとのコミュニケーション状況も変わってきています。現在は「タッチアンドゴーサービス」の普及により、座席指定済みで手荷物のお預けもないお客さまに対しては、搭乗口へいらっしゃるまでお客さまと接触する場面、“タッチポイント”がありません。いまでは、搭乗口に直接お越しになられるお客さまの割合が約6割にもなっています。


搭乗口へ直接来る乗客は約6割にもなるという(2015年10月、恵 知仁撮影)。

 チェックインカウンターにお越しいただいたお客さまには搭乗口、搭乗時間をご案内させていただき、スムーズにご搭乗いただけるよう努めているのですが、こうしたチェックインカウンターでの“タッチポイント”がないお客さまが過半数を超えたいま、そうしたお客さまとのコミュニケーションをどのようにするかが課題のひとつです。

 その対策のひとつとして、保安検査場の混雑具合や搭乗口が分かるスマートフォンアプリを開発しました。このアプリをご利用いただくことで、より待ち時間の少ない保安検査場をお知らせしたり、搭乗口の変更や場所をお伝えすることが可能になるため、お客さまとのコミュニケーションツールとして大変役に立っています。

利用者から特に多い意見は「搭乗」に関するもの 具体的には…

――気象条件など航空会社の力がおよばない部分を別にすると、いかに利用者をスムーズに乗降させられるかが、定時運航率に大きく影響してくるのでしょうか。

 お客さまが空港にご到着されたあと、チェックインからご搭乗口までのご案内をいかにスムーズにできるか、それが定時運航率を左右します。お客さまから頂戴するご意見でも、「優先搭乗が守られていない」ですとか、「いつ搭乗していいのか分かりにくい」「列が乱れて搭乗しづらい」など、特に搭乗に関するものが多くあります。この「お客さまの声」を「宝の山」と受け止め、関係セクションとその改善に向け、日々努力しています。

――定時運航率をより向上させるためには、なにが必要だと考えますか。

 我々には、まだまだできることは多くあると思います。月に1度、関係セクションが集まって定時性に関するミーティングを行っているのですが、こうして関係セクションが横断的、かつ積極的に問題意識を持って、継続的に取り組んでいけば、より良い、優れたサービスをお客さまに提供できると考えています。そしてJALが「中期経営計画」で目指している「顧客満足No.1」の目標達成を目指して、JALグループ全社員で様々なチャレンジをしています。

――「定時運航」を実現するためには、航空会社の各セクションが横断的、かつ積極的に問題意識を持ち対応し、必要に応じて空港会社と連携して様々な問題点を解決していくことが重要なわけですね。

 その通りです。私自身、飛行機を定時に出発させることがこれほど難しいとは、この現場に来て初めて知りました。ただ航空会社、空港の各セクションが力を合わせることで、定時運航が実現できたときのやりがいは大きいものがあります。今回、JALが定時到着率で世界一を取ることができましたのは、多くのお客さまのご協力、ご理解のおかげであり、大変感謝しています。

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 以上、JALの矢嵜敬太さんに話を聞きましたが、その内容は、乗客がより飛行機を便利に使うためにも有意義な情報かもしれません。

【画像】通常は入れない羽田空港管制塔からの眺め


羽田空港の管制塔展望室から南東側を望む。奥に「東京湾アクアライン」の「風の塔」と房総半島が見える(2016年2月、恵 知仁撮影)。