東京メトロが、東日本大震災の被災地支援の一環として三陸鉄道とコラボレーション。スタンプラリーの当選者に、三陸鉄道での運転体験などをプレゼントしました。

鉄道車両の運転とは、具体的にどんなものなのでしょうか。当選者とともに、岩手県で「かぶりつき」とは似て非なる体験してきました。

100倍の競争率

 2016年4月から9月末まで、岩手県の太平洋沿岸を走る三陸鉄道と、東京メトロがコラボレーションし、「三陸鉄道×東京メトロ おいしい! 楽しい! 三陸へGo! 福幸(ふっこう)スタンプラリー」が開催されました。

「東京ステージ」と「三陸ステージ」、それぞれで駅を巡るスタンプラリーを行うもので、「東京ステージ」では達成者全員に「東京メトロオリジナルハンカチタオル」が贈られたほか、三陸鉄道の特別列車乗車体験、そして車両運転体験が当たる「Wチャンス賞」が用意されています。

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三陸鉄道の実物車両を運転する「Wチャンス賞」当選者。同鉄道を舞台にしたテレビドラマ『あまちゃん』風の衣装で参加した人も(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 東京メトロによると、東日本大震災の被災地支援の一環として実施した企画で、今回のスタンプラリーは終了したものの、何らかの形で引き続き復興を応援していきたいと考えているそうです。

三陸鉄道で運転体験を 「鉄道の楽しさ」で被災地支援 東京メトロ 記者も運転体験した結果…

スタンプラリーの「東京ステージ」では、浅草、六本木、駒込の3駅にスタンプが設置された。「三陸ステージ」は久慈、田野畑、宮古の3駅(画像出典:東京メトロ)。

 この「Wチャンス賞」のうち、車両の運転体験が2016年10月9日(日)、三陸鉄道の南リアス線運行部車両基地(岩手県大船渡市)で行われ、100倍という競争率のなか当選した参加者たちが、本物の車両を運転。普段はできない体験を楽しみました。

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三陸鉄道で運転体験を楽しんだ参加者たち(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 なおこのとき、記者(恵 知仁:鉄道ライター)も車両を運転する機会がありました。「鉄道車両の運転体験」とは、はたしてどのようなものなのか、このイベントの様子、また三陸鉄道のトリビアと合わせてお伝えします。

アラビア語が書かれた車両で 実は高速走行にも対応できる?

 今回の運転体験で使用された車両は、2014年に登場したレトロ調の36-R形(36-R3)というディーゼルカーです。

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盛~釜石間の三陸鉄道南リアス線で運用されているレトロ調のディーゼルカー36-R3(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 この36-R3は、車体側面にアラビア語が書かれています。

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36-R3の側面に書かれているアラビア語(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 東日本大震災に対するクウェートからの支援により、導入された車両だからです。

 ただ、しばしば誤解もあるそうですが、クウェートから直接的に三陸鉄道が支援されたわけではなく、同国が日本に無償支援した500万バレルの原油、その売却代金を使って、日本国内で被災各所へ行われた支援のひとつとして、この車両があるとのこと。このとき三陸鉄道は1.5億円のディーゼルカーを8両、導入することができました。

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レトロな雰囲気の36-R3車内。各ボックスには大きなテーブルも備えられている(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 さて、この36-R3を使った運転体験ですが、もちろん、いきなり運転席へ座れるわけではありません。

まず「講習」です。

 とはいえ、運転するのは車両基地の内部、かんたんにいえば、自動車教習所のなかで教官と一緒にクルマを運転するようなものであるため、講習の内容は難しいものではありません。

 講習では運転操作のほか、三陸鉄道についても教わることができました。宮古~久慈間71.0kmの北リアス線と、盛~釜石間36.6kmの南リアス線で構成される三陸鉄道。その元には宮城、岩手、青森県の太平洋側を連絡する「三陸縦貫鉄道構想」があり、開業が新しい区間は120km/h程度の高速走行もできるほど、在来線としては高い規格で線路が造られているそうです。トンネルも大きく、列車へ電気を供給する架線を設置する余裕があるとのこと(交流電化)。

現在、三陸鉄道は全線が非電化で、ディーゼルカーによる運行です。

いよいよ運転席へ ブレーキ解除の前にアクセル?

 講習が修了したら、ついに運転です。

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本物の運転士が隣に付き添い、教えてくれる(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 まず、運転台にカギを差し込んだのち、運転席の客室側にある「運転台選択スイッチ」を操作。そこで鳴り出す警報をボタンを押して止め、椅子に座り、いよいよ「出発進行!」です、が、ここでひとつポイントがあります。ブレーキを解除する前に、ノッチ(クルマでいうアクセル)を「0」から「1」に入れておくのです。

少しアクセルを踏んだ状態でブレーキを解除することで、後ろに動くなど、意図しない車両の動きを防ぐ目的があります。

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36-R3の運転台(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 さあ、ペダルを踏んで「プァン」と汽笛一声、ブレーキを解除すると、車両はゆっくり前へ動き出しました。そしてノッチを「1」から「4」程度まで進め、加速です。自分の操作に応じて、床下から湧き上がるディーゼルエンジンの重低音、反応する速度計の針。列車の最前部に乗って、運転席の後ろから前を眺める「かぶりつき」とは、似て非なるものでした。

 10km/h程度になったところでノッチをオフにし、惰性で走ります。鉄の車輪とレールを使う鉄道車両は、車輪とレールとの摩擦が小さく、惰性で走っても速度が落ちにくいのが特徴。平地では加速したのち、惰性で走るのが基本です。

『電車でGO!』なら減点10秒 鉄道車両の運転、難しいのは…

 鉄道車両の運転は、「ブレーキが難しい」とよくいわれます。特にこの運転体験のように低速から停車するときは、ガックンと前へつんのめるようになりやすいそうです。

 運転席からの眺めに、白い旗を持った係員の姿が大きくなってきました。そこが停止位置です。難しいと聞いていたブレーキ、その瞬間が近づいてきました。

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白い旗を持った係員の場所が停止位置(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 このとき私が特に意識したのは、「いかにブレーキを緩めるか」。鉄道車両では停車時、かけたブレーキを段階的に緩めていくのが基本です。そうすることで、停車時の衝撃を抑えることができます。

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運転体験中、車両後部側の運転席ではいつでも緊急停止できるよう、車掌がスイッチに手をかけ、備えている(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 私はこのときが初の鉄道車両運転で、そのブレーキも初。シミュレーターやゲームでつちかった経験が多少はあったためか、同乗者から「ショックが少なかった」と言ってもらうことができました。が、2回行った停車のうち1回は、ゲーム『電車でGO!』なら「減点10秒」のペナルティーを受けねばなりません。ブレーキを緩めるタイミングが遅れ、停止位置の手前で止まりそうになり、再加速してしまいました……。

「運転をしてみて、運転士を見る目が変わりました」

 運転体験の終了後には、本物の運転免許証を模した「運転体験証明書」や修了証書などが参加者に贈られました。

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「運転体験証明書」には本物のように、参加者の写真が入れられている(2016年10月、恵 知仁撮影)。

「三陸鉄道×東京メトロ おいしい! 楽しい! 三陸へGo! 福幸(ふっこう)スタンプラリー」で当選し、初めて三陸鉄道を訪れたという群馬県から来た鉄道が好きという女性は、「運転は緊張しましたが、楽しかったです」と話します。

 またテレビドラマ『あまちゃん』がきっかけで三陸鉄道のファンになったものの、特に鉄道ファンではないという神奈川県から来た女性は、「ワンマン運転をしている三陸鉄道では、運転をしながら、さらに車掌のお仕事もする必要があるんですよね」と、実際に運転をしてみて、運転士はすごいなと、見る目が変わったといいます。ちなみにこの女性によると、三陸鉄道は職員がみなフレンドリーなのが大きな魅力のひとつだそうです。

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白い旗が停止位置。旗の少し奥側、線路脇にある「ホーム」へ車両の乗降用ドアが来るように止めて、ドアを開ける作業までを行う(2016年10月、恵 知仁撮影)。

 三陸鉄道での運転体験は、年に1回開催される「3鉄まつり」(要予約、今回は7000円)、またしばしば実施される百貨店の福袋ツアーなどで楽しむことができるそうです。「3鉄まつり」は、三陸鉄道とJR東日本、岩手開発鉄道の3社が集まる盛駅(岩手県大船渡市)で年に1回、開催されるイベント。今回の東京メトロとのコラボによる運転体験は、その「3鉄まつり」の運転体験をプレゼントする形で行われました。

 また、今回の三陸鉄道と東京メトロのコラボイベント、その「三陸ステージ」における「Wチャンス賞」は「東京メトロ シークレットツアー」で、2016年12月に行われる予定です。