鉄道の安全な運行と切っても切り離せない踏切、特に駅の近くでは長く待たされることもありますが、もちろんその時間にも理由があります。遮断機の動作など踏切のそもそもの仕組みや、遮断時間を短縮するための工夫について見て行きます。

踏切の数 海外の都市と比較しても、桁違いに多い東京

 原則として専用の線路内を走行する鉄道が唯一、道路と平面交差する場所が踏切です。レール上を走る鉄道は、ハンドルを切ることも、急に止まることもできません。人やクルマが線路を横切る踏切は、昔から事故が発生しやすい危険な場所です。

どう決まる? 踏切の開閉タイミング 待ち時間にも理由あり 「...の画像はこちら >>

踏切の警報器(画像:PAKUTASO)。

 国土交通省によると、東京は海外主要都市と比較して、非常に踏切の多い都市です。東京23区に存在する踏切は約600か所。

東京23区とほぼ同等の面積のソウルが16か所、倍の面積があるニューヨークが約50か所ですから、文字通り桁違いの多さということが分かるでしょう。

 こうした都市部の踏切には、朝ラッシュのピーク1時間あたり遮断される時間が40分以上にもなる「開かずの踏切」も見られ、道路渋滞の原因ともなっています。しかし、過密化した東京では、鉄道の運行も、道路の通行も、どちらも欠かすことができません。安全を確保しつつ、できる限り道路の通行を確保するために、様々な技術が導入されています。

 そもそも踏切の遮断機は、どのような仕組みで作動しているのでしょうか。

長く待たされるのにも理由あり 万が一を考慮しての対策

 列車が踏切に接近すると、自動的に警報が鳴動し、遮断機が閉まります。

踏切が満たすべき安全性について、鉄道に関する技術上の基準を定める省令は「踏切保安設備は、踏切道通行人等及び列車等の運転の安全が図られるよう、踏切道通行人等に列車等の接近を知らせることができ、かつ、踏切道の通行を遮断することができるものでなければならない」としています。

 そのために必要な時間についても解釈基準のなかで細かく定められており、「警報の開始から列車等の到達までの時間は、30秒を標準とすること。この場合において、当該時間は、20秒以上であること」「遮断動作の終了から列車等の到達までの時間は、20秒を標準とすること。この場合において、当該時間は、15秒以上であること」とあります。

 つまり踏切の警報機は、列車が到達する遅くとも20秒以上前に鳴り始め、列車は警報が鳴り始めてから20秒以上、遮断機が閉じてから15秒以上経過してから列車が通過することになっています。

どう決まる? 踏切の開閉タイミング 待ち時間にも理由あり 「開かずの踏切」対策も

駅のすぐ先に踏切がある場合、万が一列車が過走した場合を考慮し、前々から遮断される(画像:写真AC)。

 また、たとえば駅の近くにある踏切では、列車が駅に停車する前々から遮断機が閉まり、目の前を通過するまで長いあいだ待たされることがあります。これは、列車が過走(オーバーラン)した場合に踏切へ支障するおそれがあるため、そうした事態を想定しているからです。省令ではこうした箇所について、列車が過走した場合でも、踏切道に到達する前に遮断動作が終了しているよう定めています。

列車の速度にあわせた遮断時間 長くなりすぎない工夫とは

 遮断機の動作タイミングは、踏切の手前の線路上に列車が通過したことを検知する装置が設置されており、これで計っています。たとえば、列車が100km/h(28m/s)で走行する路線であれば、踏切に到達する30秒前の地点、つまり約830m手前で検知すればちょうどいいタイミングで遮断機が閉まるというわけです。踏切を通過した先にも同様の装置を設置し、列車が通過したことを検知したら遮断機を開くという仕組みです。

 しかし、ここでひとつ問題が生じます。すべての列車が同じ速度で走行していれば問題ないのですが、速度の遅い貨物列車が走っていたり、あるいは次の駅で停車するために速度を落としている列車と、次の駅を通過するために速度を保っている列車が混在したりしている場合、踏切の鳴動するタイミングが合わなくなってしまいます。

どう決まる? 踏切の開閉タイミング 待ち時間にも理由あり 「開かずの踏切」対策も

写真左側の「×」表示は、踏切が遮断していることを運転士などに知らせる信号機(画像:写真AC)。

 こうした場合、基本的には速度の速い列車を基準にして踏切の遮断タイミングを設定しますが、そうすると速度が遅い列車の場合に、必要以上に踏切が長く閉まってしまうことになります。踏切の遮断時間が長くなれば、それだけ道路交通がストップし、渋滞が発生したり、利便性が低下したりしてしまいます。

 そこで一部の路線では、通過する列車の種別を機械で自動的に確認し、その列車の走行速度にあわせたタイミングで踏切を鳴動、遮断できるようにする「踏切警報時間制御装置」、通称「賢い踏切」を設置して対応しています。

これにより、ピーク時の踏切遮断時間が10分以上短縮された例もあるようです。

 踏切の待ち時間はイライラしがちですが、列車と人、クルマなどの、両方の安全を守るためのものですから、決して無理に横断したり、遮断機をくぐり抜けたりせず、安全を確認してから渡るようにしたいものです。