艦船は航空機や自動車のように、万単位で大量生産されることはありません。生産数は、同型艦であっても多くて数百隻であり、また個々に艦名が付けられることも多いため、艦ごとに特徴がつきやすいものでもあります。

初めてミサイルを搭載した「あまつかぜ」

 海洋国家である日本を防衛するため、過去、海上自衛隊は様々な艦艇を使用してきました。草創期に使用したアメリカ製の中古艦艇を含めて、特徴のある艦艇3種にスポットを当ててみました。

 2020年現在、現役の護衛艦でミサイルを搭載していない艦はありません。現代戦においてミサイルは対空、対艦、対地と様々な分野で用いられており、海上自衛隊の護衛艦で初めてミサイルを装備したのが1965(昭和40)年2月に竣工した「あまつかぜ」です。

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護衛艦「あまつかぜ」。艦尾にある旋回式ランチャーがアメリカから有償供与された対空ミサイル発射機(画像:海上自衛隊)。

「あまつかぜ」が積んだのは対空用の「ターター」ミサイルでした。ミサイルは第2次世界大戦中に登場しましたが、本格的に発展したのは大戦後で、「あまつかぜ」が搭載した「ターター」対空ミサイルも実用化されたのは1950年代末です。

 海上自衛隊には、1957(昭和32)年11月にアメリカ海軍からこのミサイル運用システム一式を供与する旨の話があり、この申し出に応じる形で「あまつかぜ」は建造されました。

 そのため「あまつかぜ」は、ミサイル運用艦としてコンピュータを含む各種武器システムを多数、積んでおり、それらを冷却する目的からも冷房を大々的に備えることになります。こうして、海上自衛隊で初めて冷房を完備した艦となり、既存の護衛艦と比べて艦内環境は良好だったそうです。

 のちの護衛艦にも多大な影響を与えた「あまつかぜ」は30年間、常に護衛艦として第一線で使用され、練習艦などに転籍せずに1995(平成7)年11月末に除籍されました。

36年以上現役だった最長寿護衛艦「ひえい」

 海上自衛隊の護衛艦の一生というと、一般的には竣工から20年から25年程度の期間、護衛艦として第一線で使用され、新型の次世代護衛艦が就役するにつれて、それに押される形で第一線を退き、練習艦などに転用されて余生を過ごします。

 これまでは、おおむね30年程度で除籍というのが主流であったなか、なかには艦齢延伸工事と呼ばれる大規模なアップグレードが施され、35年以上、運用されたケースもあります。

いろいろ特徴ある海自艦艇3選 初のミサイル搭載艦から最長寿艦に同型最多艦艇まで

はるな型護衛艦の2番艦として建造された「ひえい」(画像:海上自衛隊)。

 2020年6月現在までに退役した護衛艦のなかで、最も長く運用されていたのは、ヘリコプター搭載護衛艦「ひえい」です。

「ひえい」は1974(昭和49)年11月27日に竣工、2011(平成23)年3月26日に除籍されるまで、36年4か月にわたり運用されました。

「ひえい」は海上自衛隊初のヘリコプター搭載護衛艦である、はるな型の2番艦として建造され、姉妹艦の「はるな」とともに海上自衛隊のヘリコプター運用を確立させた功労艦です。

のちに護衛隊群旗艦を務めるなどして最後まで第一線で用いられました。

 なお、現用の護衛艦「はたかぜ」は、2020年3月に艦齢34年で練習艦に種別変更されています。過去、護衛艦から練習艦に転籍したやまぐも型やはつゆき型などの複数の護衛艦を見返してみると、おおむね4年から5年ほど練習艦として使われたのち除籍となっているため、もしかすると数年後には護衛艦「はたかぜ」が最長寿艦になっているかもしれません。

同型艇は50隻以上 ゆり型警備艇

 海上自衛隊が保有した各種艦艇で最も同型艦艇、すなわち姉妹艦艇が多いのは、黎明期にアメリカから貸与された、ゆり型警備艇です。その数は53隻で、前身の警備隊時代である1953(昭和28)年に50隻、そして海上自衛隊が発足したのちの1956(昭和31)年に3隻が引き渡されています。

いろいろ特徴ある海自艦艇3選 初のミサイル搭載艦から最長寿艦に同型最多艦艇まで

のちに海上自衛隊で警備艇「あざみ」として使用されたアメリカ海軍の上陸支援艇LSSL-27(画像:アメリカ海軍)。

 ゆり型は、第2次世界大戦中にアメリカ海軍が建造した上陸支援艇といわれる艦種を、戦後になって中古艦として与えられたものです。上陸支援艇とは、上陸作戦などを行う際に揚陸艦や上陸用舟艇などとともに接岸ポイント近くまで赴き、搭載する機関砲やロケットランチャーなどで沿岸の敵部隊を攻撃し、味方の上陸作戦を援護する船です。状況によっては上陸支援艇が兵員を運ぶこともありました。

 そのため、船体は小型ながら武装の強力な点が特徴であるものの、スピードは遅く、高波にも弱いため、外洋での運用には不向きでした。

 なお護衛艦に限るのであれば、くす型の18隻が最多であり、国産の新造艦であれば、かさど型掃海艇の26隻が最多になります。

 今回の3選以外にも、特徴ある艦はまだまだ存在します。

同型艦であっても建造の地が異なっていたり、母港が違ったりするだけでエピソードも異なってきます。それらを調べてみるのも面白いかもしれません。