自動車よりも機動性に優れたオートバイ、陸上自衛隊では戦闘時や災害派遣などでの情報収集に多く運用されています。どうすればオートバイ隊員になれるのか、若手隊員に聞きました。

自衛隊オートバイ隊員ならではの悩みもあるそうです。

自衛隊におけるプロライダーになるための専用教習所とは

 オートバイに仕事で乗る「プロライダー」と聞くと、レーサーや警察の白バイ隊員などが思い浮かぶかもしれませんが、自衛隊にもプロライダーがいます。オフロードバイクを駆って、偵察したり情報収集したりするのが任務の彼ら、いったいどのようにその道へ進んだのか、そして抱える悩みなどを聞きました。

鉄馬を駆る! 陸自偵察オートバイ隊員 どうすればなれる? そ...の画像はこちら >>

オートバイに跨った飛田陸士長(左)と田村陸士長(右)。前者が被るのは戦闘用の88式鉄帽で、後者は公道用の二輪用ヘルメット(2020年6月、中野英幸撮影)。

 答えてくれたのは練馬駐屯地(東京都練馬区)に所在する第1師団第1偵察隊のオートバイ隊員に所属するおふたり、飛田鷹文(とびた たかふみ)陸士長と田村陸王(たむら りくお)陸士長です。

ちなみに「陸士長」とは陸上自衛隊では下から3番目の階級で、ふたりとも20代前半の若手です。

 最初はオートバイの話から。プライベートでもオートバイに乗るのか聞いたところ、ふたりとも即答で、休みの日も乗っていると答えてくれました。またふたりとも、オンロード車とオフロード車の2台持ちの経験があるとのこと。

 しかし自衛隊に入るまで、ふたりとも2輪免許を持っていなかったとのこと。では、どこで2輪免許を取ったのかというと、入隊してからだそうです。

 自衛隊のいくつかの駐屯地には、自衛官専用の自動車教習所が併設されています。取材した訓練場のある朝霞駐屯地にも教習所があるため、ここで2輪免許を取ったのかと思いきや、首都圏近傍で2輪免許を取れる自衛隊の教習所は、静岡県御殿場市にある駒門駐屯地の施設のみ。そのため、そこへ出向いて同駐屯地で寝泊まりしながら、約1か月半かけて取ったとのことでした。

 ただし、入隊してすぐ2輪免許を取る、というわけではありません。

入隊からオートバイ隊員になるまでにいくつもあるステップとは

 自衛隊で任務としてオートバイに乗れるようになるためには、教習所で免許を取得する前に、いくつかのステップを踏んでいく必要があるそうです。

鉄馬を駆る! 陸自偵察オートバイ隊員 どうすればなれる? その理想と現実 抱える悩み

左が田村陸王陸士長、右が飛田鷹文陸士長(2020年6月、中野英幸撮影)。

 当然、まずは入隊試験に合格しなければなりません。入隊したら最初は「新隊員教育」と呼ばれる自衛隊員としての基礎的な共通教育を約3か月間受けます。このときに「職種」と呼ばれる、自衛隊のなかでの専門領域を選ぶ必要があります。

 職種の選択は本人の希望以外に、適性など様々な条件が加味されて決められるため、必ずしも希望通りにいくわけではありません。そのなかで飛田陸士長と田村陸士長は機甲科を選び、職種を学ぶ後期教育で機甲科隊員としてさらに鍛え上げられて、現在の第1偵察隊に配属になったそうです。

 機甲科は戦車部隊のイメージが強いですが、オートバイや装甲車などで情報収集を行う偵察部隊も機甲科に属します。

飛田陸士長と田村陸士長が属する第1偵察隊には、偵察用オートバイだけでなく、タイヤで走る6輪式の87式偵察警戒車や、4輪式の軽装甲機動車などもあります。そのため、ふたりはオートバイ隊員になる前に、部隊で装甲車などに乗りつつ、偵察隊員として研鑽を積んだそうです。

 そののち、自衛隊内で必要とされる、いわゆる隊内資格のひとつである「モス(特技)」を約2週間かけて取得し、ようやくオートバイ隊員として必須の普通自動二輪運転免許の取得に行くことができたとのことでした。

 そのため、自衛隊に入隊してからオートバイ隊員になるまでに約1年かかっているそうです。

己を悩ますのはオートバイ隊員特有の持病

 晴れてオートバイ隊員になった後も試練があります。オートバイはどうしても単独行動が多いので、車列を組み移動するとはいっても、訓練で遠方の演習場などに向かう際は、駐屯地から目的地まで基本的にはひとりでオートバイを運転し続けなければなりません。

またほかの隊員にもいえることですが、冬場の急な降雨にあうとツラいということでした。

鉄馬を駆る! 陸自偵察オートバイ隊員 どうすればなれる? その理想と現実 抱える悩み

オートバイを操る田村陸士長。訓練時は転倒に備えてプロテクターを着ける(2020年6月、中野英幸撮影)。

 さらにオートバイ隊員特有の悩みとして話してくれたのが、腰痛になったり、長時間乗ることで臀部(尻)の皮がむけてしまったりすることでした。隊員によっては痔(じ)になることもあるとのこと。このほかにも一般的なライダーと同じく、転倒などで体に傷を負いやすいとも語ってくれました。

 それでも、飛田陸士長と田村陸士長は、やはりバイクはカッコいいと語っていました。記念行事などでオートバイ隊員が披露するジャンプ台は、いまだふたりとも本番で行ったことはないそうですが、憧れはあるそうです。好きなことを仕事にしているふたりの受け応えは、自信に満ち溢れていたのが印象的でした。

【動画】陸自のプロライダー オートバイ隊員の生の声と訓練のリアルな姿