警察や自衛隊などのように、普段から制服を着て勤務する鉄道現場はどのような職制上の階級があるのでしょうか。駅長のほかにも、たとえば当務駅長や助役といった役職が存在します。

それぞれどういった立場なのでしょうか。

一口に駅長といっても様々 会社の役員級 管区の長…

 企業や組織には職制上の階級が存在します。出世を目指す人にとってはとても気になるところでしょう。警察や自衛隊、病院などはイメージしやすいですが、同じく制服を着た鉄道現場も職位は細かく分かれており、有名なところでは駅長、あるいは助役などの役職を聞いたことがあるかもしれません。

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新型車両のデビューを記念した出発式で、発車合図を出す駅長(2019年3月、草町義和撮影)。

 さて、一口に「駅長」といっても意味する範囲はかなり広く、役割も大きく違ってきます。

たとえばJR東日本の東京駅駅長は2020年現在、同社の常務執行役員が担っており、会社の職位でいっても相当「上」であることが分かります。会社の役員が駅長を務める点から、同社にとって東京駅が重要なのがうかがえます。しかし役員が駅長を兼ねることは、鉄道業界では稀です。

 ほかにはどんな駅長がいるのでしょうか。たとえば、大手私鉄などには管区駅長(幹事駅長)と呼ばれる駅長がいます。管区とは路線を区切って駅をいくつかにグループ分けしたもので、それを束ねる駅を管区駅(幹事駅)といいます。

つまり管区駅長は、その駅だけではなくその管区内全体を統括する役割を担います。大きな規模のトップとなるので、課長や部長級の人が就くことが多いです。

 かつては多くの駅が有人で、小さな駅にも駅長や駅員がいましたが、駅業務のアウトソーシング化や人件費削減などを受け、現在は無人駅や少人数駅が多くなりました。管区内の中規模の有人駅にもそれぞれ駅長が据えられていることもありますが、駅によっては役職としての駅長は不在で、管区駅長が兼務することもあるのです。

時には窓口業務もこなす 当務駅長とは

 駅長の業務には本来、駅構内の信号操作や出発合図を出すといった運転取扱業務があります。たとえば発車セレモニーなどで、ホームに立って片手を上げ出発合図を出している駅長を見たことがあるかもしれません。

あれは記念行事なので大々的に行いますが、列車ごとに駅長がホームに出ていてはキリがありませんし、当然、駅長が毎昼夜休みなく働いているわけでもありません。

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鉄道の乗務員や駅員は制服を着て業務に当たる。写真はイメージ(2020年2月、大藤碩哉撮影)。

 そこで駅長から命を受け、駅長業務を代行する役割の人たちがいます。当務駅長と呼ばれ、この場合の「駅長」は役職ではなく担当業務といえます。先述のような管区駅長とは異なり「駅長室でどっしり」というわけではなく、泊まり勤務をしたり、小さな駅では窓口から運転取扱までとマルチに現場業務を行ったりするのでとても大変です。

 当務駅長には、駅長補佐や助役と呼ばれる役職の人たちも就きます。事業者によっても異なりますが、駅長試験に合格した人がこの役割を担えるといったところもあります。

鉄道現場の中間管理職「助役」

 鉄道の職位のなかでも特徴的な名称なのがこの「助役」でしょう。助役とは「駅長を助ける役」という意味で、駅長の補佐から一般社員の指導まで管理職としての業務をこなします。助役のポジションもとても幅広く、その役割によって名称も異なります。

 たとえば首席助役、運転助役、総務助役など、事業者によっても役割や職位にかなり幅がありますが、一般的には駅長、副駅長(駅長補佐)の次の職位と考えても良いでしょう。

また、駅以外の運輸区(乗務区)にも乗務員を管理する立場の助役がいます。

進む合理化と効率化 駅長もAIが担う時代が来る?

 一般企業のサラリーマンは、たとえ社長と平社員でもスーツを着ているだけでは職位の区別がつきませんが、鉄道の駅員は制帽を見れば職位が分かるかもしれません。これも事業者によって様々で、制服改定の時に変更されることもあるので一概にはいえませんが、もともと赤線の入った帽子は、運転取扱業務を行える立場を表すとされます。

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駅で案内を行う人型ロボット「Pepper」。将来的には駅員も人間ではなくなるかもしれない(2016年2月、恵 知仁撮影)。

 そのため、駅員の帽子には赤線が入っていることが一般的ですが、乗務員や新人の駅員には赤線がないことが多いです。

ほかにも駅長や助役の帽子には金色の線が入っていることも特徴で、立場によって本数や太さが違っていたり、さらには制服の袖章にも違いをつけたりしている事業者もあります。

 かつては多くの駅に駅長室があり、様々な権限を持つ駅長は鉄道組織でも「一国一城の主」として、そして地元の町の顔としても威厳のある立場だったといいます。しかし時は流れて鉄道にも先述のような合理化、効率化の波が押し寄せてきています。

 2020年3月14日に開業した高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)は、AI駅員が登場したことも話題となりました。システムだけでなく職制や職位にも多くの変化が出ている現代、鉄道でも駅長の役割が形骸化し、近い未来に「AI駅長」なるものが誕生するかもしれません。