社会への反逆者、民衆の代弁者として祭り上げられたジョーカー(ホアキン・フェニックス)。そんな彼の前にリー(レディー・ガガ)という謎めいた女性が現れる。
-まず、今回の吹き替えを担当することが決まった瞬間の気持ちから聞かせてください。
すごいな、うれしいなって思いました。選ばれた理由をマネジャーさんに聞いたら、ワーナーの方が「Ultraman:Rising」のアニメーションの吹き替えを見て、聞いて、「この能力があるのであれば、『ジョーカー』もやってもらいたい」と言ってくださったみたいで、そっちの方がうれしかったです。「ジョーカー」に携われるということよりも、そういった声のお仕事をしっかりと聞いて、オファーを頂けたことが、すごくうれしかったです。「ジョーカー」については、普段から「好き」と言っているので、ただ好きという気持ちでの参加だと少し違うなと思っていたのですが、好きだからこそ、ちゃんと声のお仕事を認めていただいた上で、仲間に入れてもらえたのはうれしかったです。
-山田さんは自分の声をどのように思っていますか。
自分では全く思っていないのですが、「特徴がある声だね」とはよく言われます。デビュー作が戦隊ものだったので、1年間アフレコも一緒にやったんです。だから、いろいろと試すことができました。
-「ジョーカー」の好きなところを教えてください。
少し前まで、「誰も僕を見ていない。存在も知らない」と思っていたことがあって、自分がどれだけ頑張ってお芝居をやっても、見てもらえなかったら、それはないのと一緒じゃないかと悩んだ時期がありました。だから20代の頃は、どうやったらたくさんの人に見てもらえるのかと、考えて生きてきました。でも、少しずつ山田裕貴を知っている人が増えてくると、もちろんうれしいのですが、「少し前まで僕のことなんて知らなかったくせに」って思っちゃって(笑)。そういうジョーカー的な自分もいるんです。
-悔しさが原動力になっていた部分もあると。
はい。悔しさしかなかったですね。ダークサイド側の人間だったので、本当に性格が悪かったです(笑)。だって、当時、「若手俳優が僕だけだったら、全部出演することができるのに」なんて思っていましたし、それに対して友達が本気で注意してくれて考え直したんです。僕が悪いんだって。
-役者として見るとジョーカーに共感できる?
ジョーカーのように思って生きている人たちって結構いると思うんです。何で恵まれないんだとか、なんでこんな人生を生きなきゃいけないんだとか、そうやって不満をどんどんと広げていくと、そういうふうに思っている人たちって、結果ジョーカーになり得る可能性があると思っていて、そういう人って少なくないんじゃないかなって。だから、「ジョーカー」に対して、いろいろと賛否があり、「こうでなきゃいけない。こうなってはいけない」という人たちと、「いや、この気持ちは分かる」という人たちが争う構図になる。そうやって「ジョーカー」って作られていくと思うので、本当に怖い映画だなと思います。でもやっぱり出会いが重要になってきますね。何かあった時に、誰が自分を正してくれるかという。
-最後に観客に向けて一言お願いします。
ジョーカーってこうだよねっていうものがない。いろんな見方ができると思います。だから『ジョーカー2』を見て、誰が何を言っているとかではなくて、みんなが盛り上がって、どう語られていくのかが一番興味深いです。僕が思っていることも正解ではないと思いますし。でも、こうしてジョーカーのことを考えている時点で、もうすでに彼の思うつぼだと思います。それはジョーカーが生き続けているということなので。めちゃくちゃ心のきれいな人たちがこの映画を見たらどう思うのかとかにも興味がありますね。
(取材・文・写真/田中雄二)