【書評】まったくためにならない小説-丹下健太『仮住まい』 - 研究員レポート



 ご覧いただいたとおり、ここには「面倒くさいことを回避しようとするとさらに面倒くさいことになる場合がある」という以上の教訓めいたことは何も書かれていないし、感動するような名言が含まれているわけでもない。つまりは「面倒くさがりは面倒くさがる」という当たり前のことが淡々と書かれているだけなのだ。これがたいへんおもしろい。

 丹下は日常会話(「あれ、よくね?」「ないわー」レベルの無意味なやりとり)を書くのが非常に巧い。普通、小説の中の会話は現実世界のそれとは似て非なるものである。普段の生活の中で飛び交う会話をそのまま起こしたものを小説に使うことは難しい。人間が普段かわしている会話は、まったく論理的ではなかったり、相手の言うことをほとんど聞かずに自分の言いたいことだけを言うような、一方的なものだったりするからだ。そこでデフォルメを施す。そのデフォルメの技術が、作家の個性を形作るわけである。丹下の場合は、ちゃんとデフォルメしているのに現実そのままを切り取ったように見える部分がある。それを利用して「言わなければいけないことも言わない面倒くさがり」の小説を書いたわけだ。それがすごい。誰かがちゃんと説明すれば三分で解決するような事態を、いい年した大人があれこれ回りくどくひねくりまわす、というだけの話で1本の作品を書きとおしてしまったわけである。ああ、なんて何もない小説なんだろう。

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