髙村薫の『黄金を抱いて翔べ』が井筒和幸監督の手によって映画化されることを知ったとき、最も 「ざわわ…」としたのは、東方神起のファンであることは間違いないでしょう。何せ妻夫木聡、浅野忠信、西田敏行といった日本を代表する最前線の俳優のなかに、これまで映画出演経験のないチャンミンが名前を連ねていたのですから! 

一体、どの役を演じてくれるのか、どれくらい出番のある役なのか――。
映画化のニュースが駆けめぐるやいなや原作がAmazonの文庫部門で突如として1位に躍り出たのは、自らを「忠実なATM」と自虐的に語りながらも、何事にも予習を怠らず勤勉に一途な愛情を注ぐことでファンとアーティストとの揺るぎない関係を築いてきた、東方神起ファンの仕業に違いありません! 

オリジナルクリアファイル付き前売り券も驚異的な売れ行きをみせ、公開に向けてますます盛り上がっている『黄金を抱いて翔べ』。今回は骨っぽくも華々しい映画デビューを果たしたチャンミンを中心としたレビューをお届けしたいと思います。“読んでから観る派”も多いと予想されますが、細かいシーンについても一部紹介していますので、「ネタバレは絶対にイヤ。映画館で新鮮な気持ちでモモチャンミンの一挙手一投足に悶絶したい!猿ぐつわをしながら観る勢いで!」という方は鑑賞後に読んでいただくことをおすすめします!
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■●豪華なアンサンブルキャストの妙に酔う
大阪に本店を置くメガバンクの地下に眠っているという、240億円相当の金塊。これは、その金塊を強奪する計画を企てた6人の男たちの物語です。

寡黙さのなかにワケありの過去を匂わせる実行犯の幸田に、『悪人』とはまた違うベクトルの暗さを内包させた妻夫木聡。
リーダーの北川には『バトルシップ』などハリウッド映画でも順調な活躍を続ける浅野忠信。これまでの出演作で最もオシャレとは程遠い角刈りのヘアスタイルで頭の切れる肉体労働者を演じ、犯罪が日常のような底知れぬ軽さと怖さを漂わせています。唯一、関西弁を話す人物であり、メガネとちょろりと長い後ろ髪がすでに胡散臭いシステムエンジニアにもはや井筒組の常連ともいえる桐谷健太、ギャンブル依存症でリストカッター、何をしでかすのかわからない春樹に、ドラマ『蜜の味』でも狂った役柄を密かに好演していた溝端淳平。そして、相談役でもあり、侵入するビルのエレベーターについても精通している、一筋縄ではいかないジイちゃんに西田敏行。誰ひとり欠けても決して成立しないこの“黄金チーム”にチャンミンが加わります。
■●モモという役柄に哀しさを吹き込んだチャンミン
今回、チャンミンが演じたのは、爆破工作のエキスパートであり、北朝鮮の国家スパイでもあるチョウ・リョファン。
モモというニックネームで呼ばれ、東京で出会った幸田に誘われて強奪計画に参加することになります。

実はそれぞれが過去と事情を抱え、チームとして金塊を狙いながらも、誰が信用できるのかさえはっきりしない6人の男たち。国からは裏切り者扱いされ、兄を殺さなくてはいけないほどの極限の状態に追い込まれた哀しい青年、モモが、バランスを欠いたそんな男たちの関係性のなかで、どんな変化を遂げていくのか。それこそがこの映画の、観る者の心を揺さぶる大きな見どころになっています。
■●次第に深まっていく、妻夫木聡演じる幸田との絆
監督も含めた作り手のなかには“スタッ腐”はいなかったと予想されますが、そこはかとなく漂う男たちの“友情を超えた愛情”のかたちは、原作自体に色濃く描写されています。

そして原作よりも描写が控えめだからこそ、観る者の妄想を刺激してくれるのもまた事実。
幸田とモモが自らも気づかないうちにかけがえのない存在になっていくことが、さりげないシーンから伝わってくるのです。

幸田がモモの頭をくしゃっとするシーン、これまでは家族を捨て、国家のために生きてきたモモが「人に誘われたのははじめてだから」と語る言葉――。あからさまな描写ではなく、ささやかな視線の動きや目の奥に宿る哀しさや慈しみのニュアンスのある表情が、何よりも幸田とモモの関係性を物語っています。
■●豆腐屋でのアルバイトなど、はじめてのことに挑戦!
自分の存在をタレこみされても怒ることなく、淡々と計画を進めていくモモ。その瞳にはまるで最期を予感しているかのような、美しい諦念ともいうべきものが宿っています。

かりそめかもしれないけれど、はじめて手に入れた誰に命令されたわけでもない仲間たちとの暮らし。
そのなかには「ダイナマイトは甲子園いっぱいぶん用意して」とわかりづらい冗談を言うシーンや、キッチンに立って網で肉を焼いたり、強奪計画で着るお揃いの作業着を縫うためにミシンを踏むシーンも(しかもかなり手馴れている)! PVなどで銃を手にするシーンはこれまでも披露していましたが、この映画では様々な“はじめての表情”を見せてくれています。100人いれば萌えポイントも100通り。作り手側が意図していたかどうかに関わらず、きっといくつもの萌えが見つかるはずです。

幸田と再会するアルバイト先の豆腐屋では頭にタオル、首元の伸びた地味なブルーのTシャツで豆腐をすくうモモチャンミン! とりあえず、買い物をしにきた主婦のセリフ「あんた、豆腐屋もったいないわ」に首がもげるほどうなずいてしまう人は多いのではないでしょうか。
■●気になる“あのシーン”は……
“絆”と呼ぶにはあまりにも脆い関係性。犯罪のリアリティを追求したからこそ、痛快とは言い難いやるせないラスト。
映画が終わったあと、時間差で胸に迫ってくる男たちの刹那のきらめき。『黄金を抱いて翔べ』はときに飄々としたユーモアを織り込みながら、忘れがたい余韻を残すサスペンス映画として完成しました。

この映画のなかにはドラマ『パラダイス牧場』のワガママで可愛いキラキラ御曹司なチャンミンも、ドSを装ったファンサービスによって何万人もの人々を絶叫の渦に巻き込むステージ上のチャンミンはどこにもいません。あらゆるものを痩せた背中とほっそりと滑らかな肩に背負った“たまたまハンサムに生まれてきてしまった北の工作員”がいるだけです。ちなみに浅野忠信とともにトラックのなかである歌を口ずさむシーンがあるのですが、さすがに上手だったのはご愛嬌。

そして最後に! 原作を読んだ方なら絶対に気になっているであろう、そして期待値MAXであろう“あのシーン”、……ちゃんとありますのでご安心ください!!
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