結果に対してどう反応すればいいのか。今回のコパ・アメリカには、純然たるA代表を送り込んでいるわけではないので、想像力が求められる。

日本が初戦でチリに0-4で大敗したことを、どこまで落胆すべきなのか。

チリに大敗した日本。その「差」はパスワークの質の違いにあった...の画像はこちら >>

久保建英をはじめ、若いメンバーでチリに挑んだ日本だが、0-4で敗れた

 チリの先制ゴールは前半41分。右CKを、アンカーのエリック・プルガルがスタンディングジャンプで叩き込んだ一撃だった。マークには中山雄太(ズヴォレ)と植田直通(セルクル・ブルージュ)がついていたが、相手は豪快にもその上をいく高い打点でヒットさせた。

 セットプレーの失点は、流れの中から生まれた失点に比べ、言い訳の材料になる。「崩されていたわけではない」と主張できるが、この場合、前半の中頃から流れはどんどんチリに傾いていたので、生まれるべくして生まれたゴールと言うべきだろう。


 日本はいい立ち上がりをした。チリが日本の特徴を把握していなかったのかもしれない。日本はパスを引っかけては縦に速いカウンター攻撃を仕掛け、チリを慌てさせた。中島翔哉(アル・ドゥハイル)、上田綺世(法政大)、前田大然(松本山雅)の3FWが躍動するシーンが目立った。しかし振り返れば、この時間にゴールを奪えなかったことが大敗劇につながった原因になる。

 チリは後半9分、右SBマウリシオ・イスラのマイナスの折り返しをCFエドゥアルド・バルガスが決め、追加点とした。


 この時、つながったパスは計13本。パスワークに翻弄された挙げ句の失点だった。前半の後半部からの流れは、ハーフタイムを挟んでも途切れることはなかった。そこから後半20分ぐらいまでが、この試合の中で、両者の差が最も開いた時間帯だった。それこそ0-4に相応しい差があった。

 チリはほどなくすると勝利を確信したのか、ペースをダウンさせる。
一方の日本は、後半21分、中島、前田に代えて安部裕葵(鹿島アントラーズ)、三好康児(横浜F・マリノス)を投入。すると流れは少しずつ日本に傾いていった。

 スタメンを飾った2人と、交代で入った2人と、何が違ったかと言えば、周囲と絡もうとする意識だ。中島と前田は単独プレーが目立った。スタイルがカウンター的だったので仕方ない面もあるが、なぜもっとつなごうとしなかったのか。遅攻を織り交ぜなかったのか。

 つなげなかったのだと思う。チリのパスワークと比べれば、違いは一目瞭然となった。

 チリはサイドを有効に使っていた。パスワークとサイド攻撃がリンクしていた。横幅を有効に使った大きな展開ができていた。

 具体的にはそのパスワークの輪の中にイスラ(右)、ジャン・ボーセジュール(左)の両SBが絡んでいた。

その前方で構える両ウイング、ホセ・ペドロ・フエンサリダ(右)、アレクシス・サンチェス(左)とも連係が取れていた。

 両ウイングと両SBのコンビネーション。日本の遅攻には含まれていない魅力である。この日、SBとして先発を飾った原輝綺(右/サガン鳥栖)と杉岡大暉(左/湘南ベルマーレ)は、両ウイングと絡むことも、パスワークの輪の中に円滑に加わることもできなかった。

「サッカーはサイドバックが活躍した方が勝つ」という格言があるが、このチリ対日本は、まさにそれを地でいくような一戦だった。

 これは森保式サッカーの弱点だと思う。
この両SBの動きは、両サイド各1人で構えるウイングバック(WB)的なのだ。周囲と絡まず、単体で直進する。コパ・アメリカに出場していない酒井宏樹(右/マルセイユ)、長友佑都(左/ガラタサライ)がスタメン飾った場合も似たことが言える。その前方で構える堂安律(右/フローニンゲン)、中島(左)と絡む機会は、西野ジャパンの時より減少した。遅攻時のパス回しに、多彩さが失われている。

 杉岡に至ってはSBと言うより完全なWBだ。そもそも所属の湘南は森保式に近い3バックで戦うチームで、WBというポジションはあってもSBはない。

 こちらはてっきり森保一監督がこの大会に3-4-2-1で臨むのかと思った。それはSB的な選手が人数分、選出されていなかったからでもある。結局、森保監督が採用した布陣は4-2-3-1だったが、それは内容的には3-4-2-1に近いものだった。

 森保監督は4-2-3-1と3-4-2-1を使い分ける方向で動き出しているが、サイドを有効に使おうとしない限り、チリのようなパスワークは生まれない。出たとこ勝負の、展開力に乏しいサッカーに陥る。

 とはいえ、繰り返すが、安部と三好の投入でパスワークは立体的で多彩になった。両SBとの連係不足は相変わらずだったが、サイドの深い位置にボールが運ばれるようになった。

 後半25分には、1トップ下で先発した久保建英(レアル・マドリード)から左の安部にボールが渡り、その折り返しを上田が狙うというチャンスが生まれるなど、日本の攻撃はいい感じになっていった。しかし、前のめりになれば反撃も食う。試合は時間が深まるにつれ、ノーガードの撃ち合いの様相を呈した。

 チリに3点目が生まれたのは後半37分。右の深い位置からMFチャルレス・アランギスが折り返したボールを、サンチェスがヘディングで押し込んだゴールだった。チリのパスはこの時も計9本つながった。競り合いのボールを含めれば10本を超える。そしてこのパスワークにもサイド攻撃が絡んでいた。

 4点目が生まれたのはその1分後。キックオフのボールがチリに渡るや、ディフェンスラインの背後を突かれ、バルガスにこの日2点目のゴールを奪われた。

 試合後の森保監督は「それでもチャンスは作れた」と強気を装ったが、チリと日本とチャンスの質が本質的に違っていたことは事実なのだ。チャンスは作った。決定的なチャンスもあった。だがいずれも、ゴールが決まっていて不思議ではないチャンスとまでは言えなかった。

 チームとしてパスをつないで意図的に崩したシーンは、先述の久保→安部→上田と渡った後半25分のプレーぐらいに限られた。

 繰り返すが、見たいのはパスワークの中にサイド攻撃が絡むサッカーだ。活躍を期待したい選手はズバリSBになるが、今回それらしき選手は選ばれていない。カウンター系のサッカーでパスサッカーをしようとしている感じなのだ。それが2戦目(ウルグア戦)、3戦目(エクアドル戦)の注目ポイントになる。

 チリのサッカーから学ぶことは多い。チリはこの試合を4-3-3で戦ったが、時に3バックを採用する。しかし、それは森保式3バックとは異なる。その「解釈」の差が日本の4バック(4-2-3-1)のサッカーにも現れてしまった。そんな気がして仕方がない。