横の連携を強め、
クラブ一丸となって取り組んだ
さまざまな集客の”仕掛け”

 ゴールデンウィークの最中に行なわれた5月4日のFC東京戦。パナソニックスタジム吹田の場外広場『Gパーク』は人で溢れかえっていた。

なかでもひと際、にぎわいを見せていたのが「家族連れや仲間と楽しめるイベントを」と企画された『働く車 大集合!』だ。

 この日は、夏の暑さを思わせる好天に恵まれたこともあってだろう。ズラリと並んだ消防車やパトカー、白バイ、高所作業車、ショベルカーの前には、たくさんの親子づれが列を作り、子どもたちが消防服を着て消防車に乗り込んだり、高所作業車のゴンドラに乗って高さを体感するなど、憧れの『車』を前に、笑顔を見せた。

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スタジアムに足を運ぶ幸せを届けたい!ガンバ大阪が試みる集客戦略

『働く車 大集合!』のイベントは多くの親子づれでにぎわった。photo by Misa Takamura

「今年に入り、誰に向けてイベントをして、どういうふうに楽しんでもらいたいか、を意識してGパークでの試合前イベントを考えてきたなかで、東京戦は『ゴールデンウィークにどこに出かけようか』という興味の矛先が、ガンバ大阪の試合に向けられればいいな、というところから企画をスタートしました。結果的に、たくさんのお子さんの喜ぶ顔を見ることができてよかったです。


 Gパークは屋外なので雨にならないか心配でしたが、幸い、天気も味方をしてくれました。この東京戦を皮切りに、クラブとしては初夏のレジャー時期に家族で楽しめるサービスを提案しようと、(5月~6月の)ホーム4試合を『家族で楽しむガンバファミリーランド!』と称して試合ごとに趣向を凝らしたイベントを企画しましたが、その初回来場者数が3万3000人を超えて、上々の滑り出しになりました」

 そう話してくれたのは、ガンバ大阪顧客創造部集客イベント・デジタルマーケティング担当課長、竹井学氏だ。

 今シーズン、チーム成績としては苦しむガンバ大阪だが、実は営業面で飛躍的な伸びを見せている。その証拠に、ホームゲームにおける平均入場者数は第16節(6月22日)を終えた時点で、前年度比121%という伸び率だ(表1参照)。

◆表1

スタジアムに足を運ぶ幸せを届けたい!ガンバ大阪が試みる集客戦略

©GAMBA OSAKA

 それを後押ししているのが、竹井氏の言葉にある「誰に向けてイベントをして、どういう風に楽しんでもらいたいか」を意識した”仕掛け”だ。

 思えば、新スタジアムが始動した2016年は、スタジアムそのものへの興味もあって、平均入場者数が一気に上昇。

前ホームスタジアムの万博記念競技場における2015年度の平均入場者数1万5999人を1万人近くも上回る、2万5342人が新スタジアムに来場したが、2017年、2018年は、毎年約1000人ずつ減少する傾向に。その状況に歯止めをかけようと、スタートしたのが、クラブが一丸となって取り組む、さまざまな集客の”仕掛け”だ。先頭に立つ、ガンバ大阪顧客創造部部長の山崎美枝氏は言う。

「2014年にチームが三冠(リーグ、リーグカップ、天皇杯)を獲得したこともあり、万博でのラストシーズンとなった2015年は比較的、集客をしやすいシーズンでした。その流れもあり、また新スタジアムへの興味もあって2016年は、前年度から1万人近く平均入場者数が伸びたのだと思います。ですが、2017年、2018年はその数字が年々、下降線をたどり、明らかに”新スタジアム効果”の薄れを感じていました。


 これをなんとかしなければいけない、という思いで昨年スタートしたのが、スタジアムに来ていただいたお客様に、試合以外の楽しさを提供するイベントの企画でした。もちろん、ご来場いただく方の楽しみは”試合”にあると思いますが、お客様の中には、ともすれば2時間半も前からスタジアムに到着してくださっている方もいらっしゃいます。にもかかわらず、お恥ずかしい話、新スタジアムができた当初は、私たちクラブスタッフもキャパが一気に大きくなったスタジアムを運営していくのが精一杯で、試合以外の楽しみは『飲食店』くらいしか提供できていませんでした。

 ですが、”新スタジアム効果”の薄れを感じた時に『このままではいけない』とクラブ内に危機感が芽生え、昨年から本格的に改革に乗り出しました。そこで、これまではチケットやファンクラブ、ホームタウンなど業務ごとに縦割りで集約を行なっていたさまざまな施策の見直しを図り、クラブ全体が横の連携を強めたうえで、より多くの方にスタジアムにご来場いただき、楽しんでもらえるようなイベントを考えようという話になりました」

 とはいえ「最初はただイベントを企画するだけでした」と苦笑いを浮かべるのは、前出の竹井氏だ。試合前イベントは先頭に立って企画してきたものの、昨年は”企画し、実行する”ことで精一杯だったと振り返る。

「昨年からイベントの数は増えたものの、それが集客につながっているのかわからずに進んでいる印象がありました。その当時から、Jリーグが2017年から導入し、各クラブに提供してくれていた、スタジアム来場者の『顧客データ』を参考にはしていましたが、正直、データが膨大すぎて、それを生かすノウハウも乏しい、という状況にありました。

 この『顧客データ』は、スタジアムに来場された方が1人1回しか登録されない仕組みになっていて、実はその数だけを見ると、ガンバはJクラブでトップの数字(約15万人)を誇っているんです。にもかかわらず、それを活かせていないのはもったいないという話になり、この数字を効果的に活用できる方法はないかと考えるようになりました。

 そのなかで、メインスポンサーであるパナソニックがスポーツ事業の取り組みに共鳴し、データ分析のスペシャリストによるサポートを開始したことで、今年から本格的に『集客マーケティング』をイベントに反映させることになりました」

スタジアムに足を運ぶ幸せを届けたい!ガンバ大阪が試みる集客戦略

ガンバ大阪顧客創造部の部長・山崎美枝氏(左)と、集客イベント・デジタルマーケティング担当課長・竹井学氏(右)photo by Misa Takamura

逆算のプランニングによって、
一人ひとりの顧客に
ダイレクトに響く働きかけを実施

『集客マーケティング』を簡単に説明すると、JリーグチケットやQRコードの導入により明確になったスタジアムへの来場顧客データを分析し、集客につなげる取り組みだ。

 ガンバ大阪には現在、週に2~3回、パナソニックからスペシャリストを招聘し、データ分析はもちろん、それに基づいた提案やさまざまな施策を行なっていると言う。


「近年は、デジタルテクノロジーがスポーツ界でも生かされることが増え、Jリーグも2017年にスタジアム来場者の顧客データを把握できるデジタルツールを導入されました。それによって、各Jクラブが来場者の方々の個別のデータを活用できるようになり、私どもはそのデータをもとに、どういうお客様にご来場いただいているのか。リピーターになってくださっている方はどのくらいいるのか。あるいは1回きりの観戦で終わっているのか、などを分析し、それに応じて告知の工夫をしたり、ダイレクトメールの中身を考えたり、といったお手伝いをさせていただくようになりました」(パナソニック担当者)

 そうした『集客マーケティング』をもとに、クラブが取り組んだのが”逆算のプランニング”だ。

 どういう人が、どんな頻度でスタジアムに訪れているのかが個人単位でわかるようになったことで、そこから逆算して、さまざまな施策を実施。たとえば、これまでホームゲームの前に一括で送信していた試合観戦の案内メールも、来場頻度や対象に応じて内容を変えるなど、細部まで工夫を施しながら、分散化を図り、一人ひとりの顧客にダイレクトに響く働きかけを行なうようになった。



 その成果として見られるのが、メールの開封率だ。通常、一般的にダイレクトメールの開封率は5%に満たないと言われており、場合によっては1%以下になっても不思議ではないとされている。にもかかわらず、ガンバのそれは、なんと30%を示しているそうだ。前出のパナソニック担当者も驚きを隠せない。

「ガンバファンのみなさんは、本当に熱心で、それぞれにクラブへの思いを持っていらっしゃるのでしょう。ダイレクトメールの開封率は約30%と驚異の数字を叩き出しています。このことからも、それだけたくさんの方がガンバから届くメールを楽しみに待っていらっしゃる、ということが想像できます。

 であるならば、その内容のところでより楽しみを増すような告知を展開できれば、当然それは集客にもつながっていくだろう、と。それを踏まえて5月の『ガンバファミリーランド』における『働く車 大集合!』の際も、できるだけたくさんの子どもさんに楽しんでいただきたいと、メールの内容も子ども向けを意識した書き方になるよう工夫しました。それがイコール、3万人につながったとは言いませんが、少なからずそうした働きかけの効果は、入場者数の年齢層の分布からも間違いなくあったと思っています」

 それらの試みの中で、より意識したのが、データマーケティングにおける効果が実証されている”3回の法則”だ。

 データマーケティングの世界では、ガンバ大阪に限らず、どのクラブでも、またネットショッピングなどにおいても、年に3回スタジアムや同じサイトで買い物をした人は、翌年もリピーターになる確率が非常に高いという定説がある。ガンバ大阪もその部分を意識して”逆算のプランニング”に取り組んでいると言う。

「たくさんのお客様に来ていただきたいのは山々ですが、かといって、私たちは目的なしにチケットを無料配布することはしていません。ファンクラブへの入会特典やホームタウン応援デー、あるいはスポンサーの権利としての無料招待はしていますが、それ以外はすべてチケットを購入してご来場いただいています。

 それは、プロサッカー選手がプレーする試合の価値を維持したいという思いもあってのことです。昨年のJ1リーグにおける入場者ランキングはJ1クラブ中6位だったのに対し、入場料収入が2位だったことにもそのことは証明されていると思います。

 であればこそ、お金を払って来ていただく方に最大限の楽しさを感じていただくものを私たちは提供しなければいけません。と同時に、地域活動におけるホームタウン応援デーなどを利用して初めて観戦していただいた方には、ガンバ大阪の魅力を体感していただくことで、2回目、3回目とその数を増やしていただけるきっかけづくりを提案していかなければいけないとも思っています。

 それが積み重なっていけば、ファンクラブにご入会いただくとか、年間チケットを購入していただくような、コアなファンの獲得につながっていくはずですしね。であればこそ、たとえばホームタウン活動とチケット販売を連動させるとか、リピーターを増やすための『セットチケット』の販売など、クラブ内での横連携を強めたうえでの継続的な取り組みが重要だと考えています」(山崎美枝氏)

さまざま施策の先に見据えるのは
一試合でも多く
満員のスタジムを実現すること

 そんななか、ガンバ大阪が実施するさまざまなイベントの中で最も人気が高いとされている『GAMBA EXPO』が8月18日に迫っている。

 これは、2017年にガンバ大阪のゴールドパートナー『ぴあ』のスポンサーデーに端を発したイベントで「スポーツで地域を元気にする」「子どもたちが夢を持つきっかけになる」といったガンバ大阪の理念を体現しようと、『ぴあ』とクラブがタッグを組んで実現したイベントだ。

 1~2年目は地域のシンボルである『太陽の塔』とコラボしたユニフォームシャツが無料配布されたことが大きな反響を集め、一気に人気イベントとして定着。第3回目の開催となる今年も、タレントの木梨憲武さんにユニフォームシャツのデザインを依頼したことも話題を呼び、すでにチケットは完売したと聞く。担当者のひとり、顧客創造部企画課チケット担当の村山北斗氏は言う。

「木梨さんが描かれている『REACH OUT』は、手をモチーフに『人と人の結びつき』を表現した作品です。その作品に込められた想いが、私どもがクラブとして大切にしていることや『GAMBA EXPO』の理念とリンクしています。また、遠藤保仁今野泰幸ら、選手とも以前から懇意にさせていただいているご縁もあり、今年は木梨さんにデザインをお願いする運びとなりました。

 ただ、集客マーケティングの観点でお話しすると、実は当初、このイベントは新規のガンバファン獲得を目指そうと、”ライト層(年に0~1回の来場実績)”の方に足を運んでもらうことを狙いにした企画だったんです。ところが、蓋を開けてみたら、過去2年の顧客データからもコア層(年に8回以上の来場実績)の方に多数、ご来場いただいたという実績が明らかになりました。

 チケットの売れ行きも、セレッソ大阪との”大阪ダービー”を凌ぐスピードで、その動向からも今年もコア層のファンの方にたくさんチケットをご購入いただいているようですが、いずれにせよ、たくさんの方に愛されるイベントになっているのはうれしい限りです」

 その言葉にあるように、予想に反して『GAMBA EXPO』は今やコア層がチケット争奪戦を繰り広げる人気イベントになったが、これは”ライト層”“ミドル層(年に1~7回の来場実績)”の方たちの来場意欲を邪魔するものでは決してない。”ライト層”“ミドル層”の方たちは、人気カードに左右されずに来場しているというデータが出ていることが、何よりの証拠だ。であればこそ、『GAMBA EXPO』のような一大イベントが行なわれる試合や人気カード以外での試合前イベントを充実させることによって、新たなファン層獲得を図ることは十分に可能だろう。

 また、これは余談だが、これまで長くクラブを応援してきた”コア層”の方たちのクラブ愛や思い入れをより強めてもらおうと、選手OBを積極的にイベントに起用しているのも、ガンバならではの取り組みのひとつだ。今年の2月23日に行われたホーム開幕戦には、選手OBとして加地亮氏、播戸竜二氏、武井択也氏をゲストに招き、Gパーク内のイベントステージ『Gステージ』でのトークショーを行なったが、「とてもうれしい反応があった」と竹井氏は振り返る。

スタジアムに足を運ぶ幸せを届けたい!ガンバ大阪が試みる集客戦略

今季開幕戦では、選手OBを招いてトークショーを行なった。舞台上の右から播戸竜二氏、武井択也氏、加地亮氏。©GAMBA OSAKA

「昨年、Jクラブとしては史上2クラブ目となる選手OB会が発足し、レジェンドのみなさんとの関係性も、これまで以上に密度が濃くなりました。それもあって、開幕戦のイベントでは加地さんたちにご参加いただき、長く応援いただいているコア層のファンの方に『今年もよろしくお願いします』との思いでトークショーを行ないましたが、当日のGステージ前は、これまで見たことのないような人垣ができたんです。

 それを目の当たりにした時に、こうしたイベントは、単にトークショーそのものを楽しむだけではなく、加地さんたちを通して過去の歴史に想いを馳せ、懐かしみ、それをきっかけにファン同士が盛り上がることもできると感じました。それを踏まえて、以降も定期的に選手OBのみなさんにはイベント等々にご協力いただいていますが、そうした伝統を大事にしながら前に進んでいくことも、クラブとしては大切にしていかなければいけないと考えています」

スタジアムに足を運ぶ幸せを届けたい!ガンバ大阪が試みる集客戦略

トークショーが行なわれたGステージ前は多くのファンであふれていた。©GAMBA OSAKA

 そうしたさまざまな施策の先にクラブが目指すのは、1試合でも多く”満員のスタジアム”を実現することだ。もちろん、そこに試合の面白さや結果が伴えば、より理想的で、パナソニックスタジアム吹田で”タイトル”を掲げることは、今もクラブに関わる全員の目標である。ただし、それと並行して「たくさんの人の記憶に残るスタジアム」が実現すれば、外側からチームを後押しすることができると山崎氏は言う。

「私たちクラブスタッフには、現場で戦っている選手、スタッフのみなさんに直接的な力を貸すことはできません。ですが、スタジアムが満員になれば、間違いなく選手にも大きな力を与えられるはずです。と同時に、そうした私たちの取り組みにお客様が応えてくださり、一緒になってスタジアム作りに取り組んでくださっている気持ちをこれからも大切にしたい。

 だからこそ、今後も集客マーケティングをもとに、ご来場いただく方にピンポイントで突き刺さるようなイベントや施策を続け、応援してくださるみなさんにこのスタジアムに足を運ぶ幸せを感じ取っていだきたいと考えています。それがたくさんの方々の募金によって作っていただいた、この素晴らしいスタジアムを運営する私たちの責任でもあると思っています」


スタジアムに足を運ぶ幸せを届けたい!ガンバ大阪が試みる集客戦略

1試合でも多くの満員のスタジアムを目指して、クラブとして日々努力を重ねているガンバ大阪。©GAMBA OSAKA

 記憶に新しい5月18日の”大阪ダービー”。3万5861人を集めたパナソニックスタジアム吹田は、試合前から大きな熱気と興奮に包まれた。後半10分に、MF倉田秋が決勝ゴールを決めた際には、スタジアム全体が揺れるような歓喜が沸き起こった。

 と同時に、あの日、スタジアムの内外に漂っていた大きな熱気は、間違いなく山崎氏の言う”幸せ”を実感するものだったと言っていい。その”幸せ”が毎試合、実感できるようになれば――。

 スタジアムだけではなく、来場者の心も満杯になるような、魅力あるパナソニックスタジアム吹田が実現する。