時代が変わった。久保建英レアル・マドリード移籍や安部裕葵のバルセロナ移籍にそんな印象すら受ける今夏、30歳になり、いつのまにかベテランにカウントされることが多くなった香川真司も新天地を探して模索中だ。



 ドルトムントとの契約は来年の6月30日まで残っているが、現在はクラブも本人も同意のうえで移籍先を探している。すでに香川がつけていた背番号23は、エデン・アザール(レアル・マドリード)の弟である新加入トルガン・アザールに譲っている。

 ドルトムントが新シーズンを立ち上げた7月上旬、香川はまだ日本国内でトレーニングを行なっていた。宮崎と仙台では自主トレをメディア向けに公開。「いや、どうしてもって言うんで」と冗談めかして笑いながら、浅野拓磨井手口陽介らとともに汗を流している。自主トレ公開前には、筑波大学の谷川聡准教授(110mハードルの第一人者でシドニー五輪、アテネ五輪代表)のもとを訪れ、クイックネスの改善に取り組んだ。
「まだ来季のクラブは決まっていない」と言いながらも、変化と成長を求めながら前向きに取り組んでいることが伝わってきた。

香川真司にとってのドルトムントとは? 長引く移籍先探しに思う...の画像はこちら >>

ドルトムントでプレシーズンマッチに出場した香川真司

 自主トレを打ち上げると、香川はドルトムントに合流。7月12日には、ドイツ国内で行なわれたアマチュアクラブとの練習試合に途中出場し、1得点1アシストを決めている。とはいえ、ドイツのメディアは香川のこの試合への出場そのものを驚いたほどで、現時点で戦力としてはカウントされていない。

 その後、ドルトムントは北米でのキャンプに出発、ユルゲン・クロップ監督率いるリバプールなどとプレシーズンマッチを行なっている。だが香川は、負傷中のマヌエル・アカンジ、マルセル・シュメルツァー、さらには香川と同様に移籍が濃厚と見られているアンドレ・シュールレらとともに参加していない。


 昨季の香川はドルトムントで出場機会と居場所を失い、ベシクタシュ(トルコ)に移籍したが、そこでも大きなインパクトは残せなかった。サポーターからは熱烈な応援を受けたが、昔から目標にしてきたスペインリーグでのプレーを望んでいる。ただ、昨夏にも希望を表明しながらまとまらなかったスペインへの移籍が、そう簡単に決まるとはなかなか考えにくい。セルタが名乗りをあげているとの報道もあるが、真偽のほどは定かではない。

 そんな香川とつい比較してしまうのは、ドルトムントから他のチームに移籍して、再びドルトムントに戻った同世代の選手たちだ。

 たとえば、現在は大迫勇也のチームメイトとしてブレーメンでプレーするヌリ・シャヒン(30歳)。

もともとドルトムント生えぬきの選手で、クラブの将来を担う存在として期待され、リーグ最年少出場記録やリーグ最年少得点記録なども更新した。2011年、レアル・マドリードに移籍。だが、スペインで活躍することはできず、いったんリバプールにレンタルされ、ドルトムントに戻ってきたのが2013年だった。

 そんなシャヒンをファンは暖かく迎えた。昨シーズンの開幕を前に戦力外となって、ブレーメンへの移籍を選択したが、その時も、スタジアムで花束が贈呈されるなど、気持ちよく見送られている。シャヒンは今もドルトムントを「僕の心のクラブ」と言っている。


 今季、バイエルンからドルトムントに戻ってくるマッツ・フンメルス(30歳)もそうだ。2016年、ドルトムントからライバルのバイエルンに移籍する際には、ひと悶着あった。「どうしてもバイエルンに移籍したい」と、わざわざドルトムントの公式サイトで表明するという不可解な出来事もあり、ちょうどその時期に行なった香川のインタビューの際には、クラブの広報担当者から「マッツの話はナシでね」と言われたものだ。クラブが「その話題には触れてくれるな」と言うほど、デリケートな問題だったのだ。

 実際、バイエルンに移ってからの彼は、ドルトムントでの試合で常に大ブーイングに見舞われている。そんな経緯があっても、フンメルスはドルトムントに戻ってきた。


 香川は、シャヒンやフンメルスのようなクラブの下部組織育ちの人間ではない。それでもブンデスリーガ2連覇時代の主役であり、いまだにその功績を称える声は絶えない。それはドルトムント内部にとどまらない。ベシクタシュに移籍したのと同じ時期、やはり候補に挙がっていたハノーファーでは、選手たちが「カガワが来るらしいぞ」とざわついた。それぐらいドイツではビッグネームであり、リスペクトを集める選手なのだ。

 思い返せば2010年の入団直後から、香川は、ドルトムントをステップにビッグクラブを目指すと発言していた。

昨年はスペイン移籍希望をあらためて公言した。「ここではないどこか」への憧れを隠さない香川だが、あらためて選手の移籍は難しいものだなと思う。

 スペイン移籍という長年の夢を叶えてほしいと思うのと同時に、たとえスペインでなくても、欧州のどこかで90分間プレーしてチームを引っ張る姿を、もう一度見たいところだ。フィジカル的にも衰えるにはまだ早く、経験を積んだベテランとして力を発揮するには一番いい時期のはずだ。

 はたして香川はどんな選択をするのだろうか。