「MAGO」(魔法使い)
スペインの大手スポーツ紙『マルカ』は、19歳のMFリキ・プッチ(本名リカルド・プッチ・マルティ)をそう表現し、絶賛している。
7月23日、埼玉スタジアム。
セルヒオ・ブスケッツは”らしく”ないミスパスでピンチを作り、ウスマン・デンベレはボールとの感覚がずれたまま、オリオル・ブスケッツは慣れない右サイドバックでノッキングを起こし、アレックス・コジャードは存在感を出せなかった。低調な試合で、ただひとり輝きを放ったのがプッチだ。
チェルシー戦で先発メンバーに名を連ねたリキ・プッチ(バルセロナ)
背番号8は、かつて英雄アンドレス・イニエスタが背負っていた。そのプレースタイルはとても似ている。
『マルカ』のウェブサイトはこの試合後にアンケートを行なっていたが、プッチは新エース候補のアントワーヌ・グリーズマンを抑え、チーム内ダントツの1番に評価されていた。
プッチこそバルサのバロメーターと言っても過言ではない。
チェルシー戦でプッチは4-3-3のインサイドハーフとして先発出場。前半の45分間、卓抜したボールプレーでチャンスを作り出した。
プッチはどれだけ相手に寄せられてもひるまない。圧倒的な技術。ボールを失わない、パスを出せる、という信頼で周りが走り出す。
「ボールは汗をかかない」
そんなバルサイズムを叩き込まれた選手と言える。
プッチがバルサの下部組織に入団したのは2013年、13歳の時だった。才能が認められたものの、サイズが小さかったため、当初は「所属チームとバルサを年ごとに行ったり来たりをして成長を確かめる」という条件付きだったという。しかし、プロ選手として活躍した経験のある父は、バルサ関係者に1週間のトライアルを持ち掛けた。そこで関係者が実力と将来性を認めた。「モノが違う」という結論で、完全な移籍が決まった。
下部組織であるラ・マシアの祖ともいえるヨハン・クライフは、こう言い残している。
「体が小さいことで切り捨てず、むしろ小さい選手に目をかけるべきだろう。幼いころに小さくても活躍できている選手は、大きな相手をしのぐ何かを持っている。成人し、大人になった時も、(フィジカルで同年代の選手に勝っているわけではないので)遜色のない技術を出せる」
その点、プッチはバルサの申し子と言える。他にもバルサを支えてきた選手には、シャビ・エルナンデス、イニエスタ、リオネル・メッシなど小柄な選手が多く、身体的に屈強とは言えない。しかし彼らはボールを持ったとき、最強を極める。
プッチは昨シーズン、トップチームでリーグ戦2試合に出場した。着実にステップを踏み、チェルシー戦では先発を果たした。しかし、ポジション定着はまだ遠い。現時点ではインサイドハーフのポジション争いで、クロアチア代表イバン・ラキティッチ、ブラジル代表アルトゥール、オランダ代表フレンキー・デ・ヨング、チリ代表アルトゥーロ・ビダル、スペイン代表セルジ・ロベルトらの後塵を拝している。
エルネスト・バルベルデ監督が選手にプレー強度を求め、カウンタースタイルを強めていることで、プッチのようなボールプレーヤーは厳しい立場にあるのだ。
しかしながら、バルサがバルサらしくあるためには、プッチのような人材が欠かせない。バルサが他のビッグクラブと一線を画してきたのは、その独特のプレースタイルにある。ラ・マシアからの一貫した教育で、とことんボールを持ち、それを利点に攻め続ける。プレーにオートマチズムを仕込み、そのなかで傑出した選手を輩出する。異端とも言えるカラーで、世界唯一のクラブになったのだ。
もしプッチをうまく使えないなら、バルサの未来は危ういかもしれない。
チェルシー戦と同じ日、「オランダのメッシ」と期待された16歳のシャビ・シモンズがパリ・サンジェルマンへの移籍を発表している。ラ・マシアからの選手の流出が止まらない。
ダニ・オルモ(21歳)はユースに昇格せず、クロアチアのディナモ・ザグレブへ移籍。すると先月のU-21欧州選手権でベストイレブンに選ばれ、市場価値は数十億円に高騰した。また、ユースに属していたマテウ・モレイ(19歳)も、干されるのを覚悟で契約更新を拒み、ドルトムントへの移籍を決めた。
「トップでのプレーを重ね、自分は成熟しつつあると思う。年上の選手が助けてくれるし、刺激になる。できるかぎりのことをするさ」と、プッチは謙虚に言う。
7月27日、バルサはイニエスタを擁するヴィッセル神戸と対戦する。