東海大・駅伝戦記 第61回

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「おっしゃー!」

 日本インカレ1500m決勝、トップでゴールを駆け抜けた東海大・飯澤千翔(いいざわ・かずと/1年)が吠えた。

 最大のライバルである先輩の館澤亨次(たてざわ・りょうじ/4年)はケガで欠場したが、飯澤は圧巻の走りで関東インカレに続いて2冠を達成した。

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日本インカレの1500mを制した東海大1年の飯澤千翔

「ほぼイメージ通りの展開でした」

 そう飯澤が語るように、今回は完璧なレース展開を見せた。スタートからダニエル・カヨウキ(桜美林大/1年)が前をいくのは予想していた。実際にそうなっても、飯澤は常に冷静だった。

「留学生の選手が前にいったんですけど、1周60秒ジャストぐらいだったので、一番気持ちよく走れるペースだったんです。だから、前を走ってくれてありがとうって感じでした」

 前をいく相手の背中を見つつ、ラストのために力をためた。だが、飯澤には狙っていた展開があったと語る。

「日本選手権(日本陸上競技選手権大会)で戸田(雅稀/サンベルクス)さんが800mで仕掛けてスパートしたんですよ。それをやってやろうかなって考えていたんですけど、できなかった。僕の実力不足ですね。そのレース展開は無理だなって思ったので、ラスト勝負に徹しようと思いました」

 ラスト1周の鐘が鳴ると、集団が一気に加速していく。グングンとスピードアップすると、その先頭に飯澤が立った。

「ラスト1周で前に出て、(残り)200mから100mまでうしろから上がってくる選手に合わせて、ラスト100mで勝負すれば逃げ切れるかなと思っていました」

 その言葉どおり、飯澤はバックストレートで後続を引き離しにかかった。

しかし、小林青(あおし/鹿屋体育大2年)が飯澤に並びそうな勢いで一気に上がってきた。ラスト300mぐらいで電光掲示板の映像を見ると、小林がうしろに迫っているのがわかった。

「追いつかれそうになって、こりゃやばいなって思いました」

 そう語る飯澤だが、その走りにはまだ余裕が感じられた。

 ラスト100mになると、うしろを振り返ることなく、前だけを見つめる飯澤のギアが上がった。3段ロケットさながらのラストスパート。これこそ飯澤の強さである。

 関東インカレでも先をいく館澤をラスト100mでとらえ、最後は胸の差で勝利した。「スプリント力はピカイチ」と西田壮志(たけし/3年)が語るように、今回も圧倒的なスピードを見せてフィニッシュラインを切った。

 3分43秒07。2位の小林に0.40秒差をつけての優勝だった。

「勝ててよかったです。両角(速)監督からは4分でもいいから1位を獲ってこいと言われました。

タイムは気にしていなかったので、勝てたことは大きな収穫になりました」

 レースを見ていた両角監督は、あらためて飯澤の強さを感じていた。

「レース展開に自信が出ていましたね。留学生の選手が前に出たら、それについていって勝つレースをしていたので、いいレースでした。最後の300mの時、どこで(ラストスパートを)いこうか迷っていた。それぐらい余裕があったと思うので、本人の思い描くレースができたんじゃないですかね」

 両角監督が安堵した表情を見せたのは、惨敗した日本選手権以降、調子の上がらなかった飯澤をそばで見ていたからだ。

 飯澤は4月から館澤に勝ち続けるなど、破竹の勢いを見せていた。

だが、風邪を引き、復帰直後の日本選手権1500mで12位。そこからスランプに陥った。

 きつくなった時の体の動かし方をイメージできず、気持ちも前向きにならなかった。夏の白樺湖合宿でも足に違和感を覚え、別メニューでの練習となった。その後のアメリカ合宿でようやく足を気にすることなく走れるようになり、この日のレースではフォームに本来の力強さが戻ってきた。

「調子を落としてからの戻し方が、だいぶわかってきました。

ダメだった時に慌ててしまって……。そうなった時は焦らずに、じっくり走り込んでやっていくしかない。そういうところを見つけられたのは大きいですね」

 1年時での日本インカレ1500mの優勝で期待されるのが、大会4連覇だ。最近では種目こそ異なるが、3000mSC(障害)で塩尻和也(順天堂大→富士通)が達成している。1500mに限れば、過去にふたり達成しているという。令和では、最初にその歴史に名を連ねるチャンスを得た。

「そうですね。そこは視野に入れています。ただ、これから下の世代も出てくるので厳しいですけど、日本インカレも関東インカレも4連覇を狙っていくつもりです。追われる立場ですけど、周囲からマークされると、自分からレースを動かすことができるのですごく走りやすいんですよ。海外にいくと『誰だ、おまえ』みたいになるのですが、日本のレースは走りやすい。日本選手権は別ですけど……」

 両角監督も「簡単ではない」と言いながらも、期待を寄せる。

「4連覇は、本人がそういう自覚を持って取り組んでいかないと簡単なことではない。下からもいろんな選手が出てくるし、この舞台に4年間立つことも大変だと思いますが、可能性はあるかなと思います」

 1500mは東海大の強みであり、シンボルでもある。それゆえに他大学に負けるわけにはいかない。

 日本インカレでトラックでの大きなレースが終わり、これから本格的な駅伝シーズンに入る。

 1500mを走り、20キロも走る館澤は、まさにお手本のような存在だが、1年生の飯澤がその域に達するのは容易なことではない。だが、短い距離であればスピードを生かしてチームに貢献することができる。そんな飯澤のよさを生かせるのは、出雲駅伝だろう。

 スピードを生かし、例年2区を走っていた館澤は、今回の出雲駅伝は間に合いそうにない。飯澤は「1区希望」と言うが、館澤の代わりを務められるのは彼しかいない。そのことを飯澤自身も自覚している。

「自分は単独走よりも集団で走った方が、よさを出せると思うんです。そういう意味で1区が希望ですが、館澤さんをカバーするのはスピード面では僕しかいないと思うので……もし2区になったら、しっかりと役割を果たしたいと思います」

 両角監督も、駅伝仕様の飯澤に期待を寄せる。

「飯澤のようなポテンシャルを持つ選手は、駅伝も面白いと思います」

 今後は距離を踏み、新たな自分を見せる時がやってくる。