福田正博 フットボール原論
■2019年の日本代表は1月のアジアカップに始まり、6月は20年ぶりに南米選手権に挑み、9月からのW杯アジア2次予選、12月にはE-1選手権を戦った。国際親善試合6試合を含めて23試合を戦い、戦績は15勝3分け5敗。
E-1で日本代表に招集された大島僚太
2019年の日本代表は、アジアカップでは決勝でカタールに敗れて準優勝。E-1でも最終戦で韓国に敗れて3大会ぶりの優勝を逃した。
タイトル獲得にだけ目を向ければ、勝負弱さが出てしまった印象もある。E-1などでの選手起用からは、タイトル獲得への気迫が伝わってこない部分があったのも事実だ。ただし、森保一監督にとって、本番は2022年W杯という思いが最も強いはずだ。
サッカーでは、監督の仕事は試合前までに8割が終わると言われている。選手をピックアップし、対戦相手を分析して、戦術を浸透させて連係を高めていく。そしてスタメンを決めて選手をピッチに送り出したあとにできることは、3枚の交代カードを使うことやフォーメーション変更の指示を出すことになる。
3人の選手を入れ替えれば常に劇的にチームが生まれ変わると思われがちだが、実際は違う。あらかじめ試合展開を幾通りも想定し、選手交代もシミュレーションしておく必要がある。
さらに、年間の活動日数が限られている代表監督に求められる仕事に、本来は選手育成の側面はないのだが、森保監督は日本代表と東京五輪世代の代表監督を兼任しているため、育成という仕事も担っている。それをするだけの試合数や練習時間が少ないにもかかわらず、だ。
クラブであれば、飛躍を期待する選手を抜擢して我慢強く起用することはあるが、代表チームを率いる森保監督の場合はそれとは意味合いが異なる。時間的な制限が多く、育成というタスクはかなり難しい。それでも、2019年の日本代表戦には78人もの選手が招集されていた。
もちろん招集メンバーを決めるのは森保監督だが、彼は自らの立場よりも日本サッカー全体のことを考えていると言える。だからこそ、日本サッカーの抱える問題や課題の解決に向けて、代表と五輪代表の監督兼務という難しい役割のなかで、自らの立場が危うくなることを恐れずに、そのメリットを最大化しようとしているのだ。
五輪世代の選手たちはコパ・アメリカ(南米選手権)やE-1の舞台で、フル代表ならではのハードな当たりを経験できた。2020年は五輪自国開催という大きなプレッシャーがあるものの、フル代表でのこうした経験が生かされるはずだ。
日本代表の個々の選手に目を向ければ、E-1で久しぶりに代表に戻ってきた大島僚太の存在感が際立っていた。
大島の課題は、故障の多さをどう克服するかだ。チームの中軸に考えている選手が故障離脱すれば、ほかのポジションへの影響は小さくない。大島は2016年リオ五輪予選の頃は壁にぶつかっていたが、リオ五輪本大会では殻を打ち破った実績があるだけに、2020年はたくましくなって飛躍してくれることに期待している。
中盤の攻撃的なポジションは、17選手が招集された。
リバプールへの移籍が決まった南野や、リーガで成長を続ける久保が中心になって、2020年はさらに攻撃的な中盤の選手たちが日本代表のレベルを引き上げていくだろう。2018年は日本代表でもっとも輝いたと言ってもいい堂安も、2019年は代表で輝けなかっただけに、2020年は期するものがあるはずだ。高いレベルでのポジション争いを楽しみにしている。
日本代表にとって最大の懸案事項である1トップには、今年は12選手が招集された。
現状は、大迫以外の選手では強豪国を相手にしたときに苦しい局面が増えてしまう。大迫以外の強力なセンターフォワードは元日本代表監督のハリルホジッチ氏も探し求めたピースではあったが、見つからなかった。それほど大迫は、スペシャルな選手ということでもある。
そうしたなかでスピードタイプのストライカーが、持ち味を生かして日本代表で存在感を高めていけるかが、引き続き2020年のテーマになる。期待しているのは鈴木武蔵だ。今季はコンサドーレ札幌のペトロビッチ監督のもとで、動き出しやポジショニングなどで成長を遂げた。それを日本代表でも発揮し、周囲とのコンビネーションを確立できれば、大きくブレイクするのではないか。
2020年は日本サッカーにとって大きなターニングポイントになる。森保監督には東京五輪で勝負強さを見せつけてもらいたいし、東京五輪終了後の9月からはW杯アジア最終予選もスタートする。格下との対戦ばかりだったW杯アジア2次予選とは異なり、ひと癖もふた癖もあるアジアの強豪国が待ち受けているが、2022年W杯カタール大会に向けて、日本代表は着実に強くなっていると思わせてくれる戦いを見せてほしい。