キケ・セティエンがバルセロナの新監督に就任することが決まった。
バルセロナの監督に就任したキケ・セティエン
すでにバルサはエルネスト・バルベルデ監督の解任を決定。
決定直前、スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はWebサイトで次期監督に関するアンケートを実施。セティエンは最多28%の支持を勝ち取っていた。その意味では自然な人事とも言える。
しかし、非情な決断でもあった。バルベルデのバルサはリーガ・エスパニョーラで首位に立ち、チャンピオンズリーグ(CL)でも決勝ラウンドに駒を進めていた。昨季までリーガを連覇している指揮官でもあるのだ。
「今回のやり方は、あまり見栄えがいいとは言えない」
監督交渉が露見した時点で、OBのアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)までが苦言を呈していた。
バルベルデ解任から新監督セティエン誕生の経緯とは――。
1月9日、サウジアラビアで開催されたスーパーカップ準決勝だった。
1月10日、ドーハ。バルサの幹部たちは、カタールのアル・サッドで監督を務めるシャビ・エルナンデスと緊急に会談している。そこで、2年半での監督契約を打診。その事実が、一斉に報道されることになった。
「エルネスト・バルベルデはもう限界」
バルサの幹部は、そう決断を下していた。
バルベルデは1シーズン目からチームに安定をもたらし、リーガ・エスパニョーラでは2連覇を達成している。前任者のルイス・エンリケと違い、落ち着いた様子でメディアに対処。選手のマネジメントでも、ほとんどトラブルを起こしていない。監督としての実績は評価されるべきだろう。
しかし、CLでは1年目はローマに、2年目はリバプールに大逆転で敗退。
なにより、バルベルデはチームをアップデートすることができなかった。下部組織であるラ・マシアの選手を登用できていない。ただのひとりも、新たな戦力に定着させられなかった。その結果、かつての小気味よいパス回しは影を潜め、バルサはすっかりバルサらしさを失っている。
後任として真っ先に白羽の矢が立ったシャビは、バルサの伝統を取り戻すのにうってつけの指揮官だろう。ラ・マシアで育ち、トップチームで司令塔として長くプレー。スペクタクルなパスサッカーを実現し、数々のタイトルを手にした。洞察の深いサッカー論は他の追随を許さず、リーダーシップもある。「ジョゼップ・グアルディオラの再来」と期待される存在だ。
「自分の使命は、いつかバルサを率いること」と、シャビ本人も公言しているように、準備は進めていた。
しかしオファーから1日後、シャビは断りを入れた。
実は2021年に行なわれるバルサの会長選で、シャビはビクトール・フォント候補の”公約監督”としてバルサに戻る手はずになっている。急場しのぎの要請にのって戻るメリットはない。「連覇した監督のバルベルデを追放した」と見られるリスクもある。そもそも、シーズン途中での監督交代は困難を伴う。チーム作りをする時間はない。にもかかわらず、下手を打てば半年で信望を失う。デメリットばかりだ(アル・サッドがカタールの国内カップ決勝に進出し、監督として二つ目のタイトルが目の前にしていたこともあったかもしれない)。
「シャビはバルサの監督を断ってよかったか?」
『マルカ』のアンケートに、9割近い人が「イエス」と答えた。シャビ待望論が根強いからこそ、タイミングが今ではなかった。
一方で、バルサの幹部はシャビに「ノー」を突き付けられ、監督選定を急いだ。バルベルデに見切りを付けたことが報道された段階で、後戻りはできなかった。フリーのポチェッティーノも有力と言われたが、彼は同じ街のライバル、エスパニョールの”アイコン”だっただけに軋轢を生む可能性があったし、大物だけに交渉も長引く。セティエンは必然的な選択だった。
2022年6月末までの2年半契約で、セティエンはバルサ監督に就任した。
円満にも見えるが、実はこの契約には政治的な色も見える。2020年7月からの就任なら、シャビは監督を引き受けたと言われる。それまで暫定的に、バルサBのガルシア・ピミエンタを監督に据える手もあったが、セティエンと2022年夏までの契約を締結。これは、シャビが現在の会長ジョゼップ・マリア・バルトメウとの関係が良好とは言えず、バルトメウ会長が「シャビ監督」を避けた”策略”とも言われる。
巨大なクラブ、バルサは政治的駆け引きの中、その伝統を守れるのか。強いだけでは許されない。バルセロナの監督は骨が折れる仕事だ。
セティエン・バルサの初陣は1月19日、本拠地カンプノウでのグラナダ戦になる。