初戦でスペインには、サイド奥のスペースをロングボールで使われ放題だった。イングランドの左右両サイドはスペインと同等か、それ以上のスピードを持っている。背後を取られれば即アウトだ。
そのリスクを承知のうえで、初戦よりさらに高い位置にラインを上げた。その結果、形勢逆転を許しそうなロングボールをことごとくオフサイドトラップで潰していくことができた。その数6回。真っ向勝負では逆を取られる場面もあっただけに、前半はとくに、このラインコントロールに助けられる場面が多かった。
「(裏に)蹴られたくないっていうのを考えたら、一番は引くこと。スペースを与えないのがいいと思うんですけど、それが攻撃につながるかって言ったら、ボールを取る位置も後ろになっちゃいますし、自分たちは前から行きたかった」と土光はライン設定の覚悟を語った。
ただ、それが生きたのは、後半にイングランドが攻撃で本気のスイッチを入れるまでだった。
前半のイングランドは、初戦アメリカ戦のベストメンバーから6名も入れ替えていた。そして、60分にカードを3枚切って日本のサイドを揺さぶると、残り20分になろうかというところで絶対的エース、エレン・トニ・ホワイトを投入して仕掛けてきた。
ここで守り切れて初めて、土光と三宅のチャレンジが実を結ぶ踏ん張りどころだった。しかし、序盤からのアップダウンで疲労はピークに達していた。なんとかしのいでいたものの、三宅のパスミスからホワイトにゴールを献上してしまう。残り8分だった。
試合終了後のピッチで、三宅は悔し涙を止めることができなかった。チームメイトたちが励ましの声をかけるが、おそらく耳には入っていない。初戦に続いて、自らのパスミスが失点につながってしまった。
「自分のミスで負けてしまったことが一番悔しいです……」(三宅)
何より、三宅がこの試合で証明したかったのは「球際の部分で戦えているか。そこをしっかりやって、細かいラインコントロールをやればこれだけできるんだ」(三宅)ということを見せることだった。それをたった1本のミスパスで台無しにしてしまった。その痛みは察するに余りある。
土光もまた、三宅と同じ痛みを感じているようだった。「自分たち(土光と三宅)は蹴らないでつなぐっていうのが持ち味なので……。難しいですけど、あのボールを蹴っていたら、よかったのかって話になるとそれも違うかなと思うんです」と表情を曇らせた。