新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、メジャーリーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーは4月9日(日本時間4月10日)の開幕時期をさらに先送りすることを発表しました。これは発表の前日(3月15日)、アメリカ疾病対策センター(CDC)が今後8週間は50人以上で集まるイベントを中止や延期するように要請したことを受けたものです。



メジャー6月開幕説を検証。過去の延期事例からワールドシリーズ...の画像はこちら >>

開幕が遅れれば、こんな雪のなかでプレーすることになるかも?

 マンフレッド・コミッショナーが全30球団と電話会談で協議した結果、さらなる延期を決定。当初は3月26日の開幕を「少なくとも2週間は延期する」としていましたが、ドナルド・トランプ大統領が国家非常事態宣言を発令するなど感染状況は悪化の一途を辿っているため、「止むを得ず再延期」という結論に至りました。

 その公式発表の文面に、具体的な開幕時期などは明記されていません。CDCが勧告した8週間後となれば、開幕は早くても5月中旬になります。

 しかし、各球団がシーズン開幕へ向けて準備するには、再びキャンプを行なうことが必要です。そう考えると、USAトゥデイ紙など複数のメディアが報じたように、現状では5月25日の戦没将兵追悼記念日、いわゆるメモリアルデーの週末か、もしくは6月はじめ、最悪の場合なら7月にずれ込む可能性もあるでしょう。



 いずれにせよ、開幕延期の長期化は確実となってしまいました。

 そこで問題となるのが、レギュラーシーズンの試合数です。メジャーリーグとしては例年どおり各チーム162試合を行ないたい考えのようですが、はたしてどうなるでしょうか。

 最初の開幕延期が発表された時、ボストン・レッドソックスのサム・ケネディ球団社長は、状況が流動的としながらも「日程はすべて繰り下げになる」と話していました。

 今季の日程は、本来なら3月26日に開幕し、9月27日にレギュラーシーズンが終了。そして、9月29日から約1カ月間にわたってポストシーズンが行なわれる予定でした。

その日程を短縮せずに繰り下げたスケジュールで実行するならば、ワールドシリーズは11月か、状況によっては12月までずれ込むことになってしまいます。

 メジャーリーグの開幕が延期になったことは、これまで過去3回あります。いずれも、オーナー側と選手会による労使紛争が原因でした。


 最初は1972年。メジャー史上初のストライキによって開幕が10日間遅れ、公式戦86試合が中止となりました。スト期間中の再試合を行なわないという取り決めにより、チームによって異なる試合数(153~156試合)でシーズンを終えています。



 次は1990年。オーナー側のロックアウトでキャンプインがずれ込み、開幕も1週間遅れました。ただ、この時は連戦やダブルヘッダーで試合をこなし、プレーオフやワールドシリーズの開始日程も順延したことで、何とか各チーム162試合を行なうことができました。

 しかし、1995年は4月3日の開幕がストライキの影響で、なんと1カ月近くも遅れました。結果、4月25日からの開幕となり、各チーム144試合への減少を余儀なくされたのです。

 そう考えると、今回最初の開幕延期は最良のシナリオだったかも知れません。


 2週間程度の延期で済めば、労使協定で決められている最大20連戦——厳密に言うと20日連続以上の試合を特例として認め、ダブルヘッダーを増やし、プレーオフやワールドシリーズの開始日程を遅らせることで162試合できたはずです。


 しかし、それが5月以降の開幕になると、日程をすべて繰り下げないかぎり、例年より大幅に試合数を減らさざるを得ません。

 それで思い出すのが、1981年のシーズン真っ最中に6月12日から7月31日まで、計50日間に及ぶストライキで中断した時です。

 そのシーズンは713試合も中止となり、入場料だけで約173億円もの損害が出ました。それでも、異例の前後期シーズン合わせて、チームによって103~111試合を行ない、何とかメジャーの面目を保ちました。やはり、最低でも162試合の3分の2程度、つまり100試合以上は行なわないと白熱したレギュラーシーズン(地区優勝争い)を繰り広げることはできません。



 そう言う意味でも、5月25日のメモリアルデーか遅くとも6月はじめまでに開幕すれば、各チームぎりぎり100試合以上行なうことができます。しかし、1981年はア・リーグの本塁打王がわずか22本で4人も並んでしまうなど、個人のタイトルホルダーや記録は味気ないものになってしまいました。


 もし、これが2000年代はじめに起きていたら、イチロー(元シアトル・マリナーズ)の10年連続200安打や、アルバート・プホルス(ロサンゼルス・エンゼルス)の10年連続3割30本塁打100打点といった偉大な記録は生まれなかったかも知れません。

 その後、メジャーリーグは毎年フルシーズン行なうことにより、昨年は17 年連続更新の総収入107億ドル(約1兆1700億円)に達しました。こうした財政的な側面から見ても、レギュラーシーズン162試合にこだわりたいのだと思います。

 アメリカの4大プロスポーツは、シーズンの住み分けがくっきり作られています。

MLBのシーズン終盤にはNFLが開幕を迎え、それに続いてNBAやNHLのシーズンも始まります。

 また、アメリカ北東部のニューヨークやボストン、北米五大湖地方のシカゴ、ロッキー山脈の玄関口であるコロラド州デンバーなどは、11月ごろから厳しい寒さとなります。日本のように11月に日本シリーズを開催し、さらにプレミア12など国際大会も行なうといった概念はまったくありません。


 かつて2001年、アメリカ同時多発テロ事件(9月11日)の影響で、毎年10月に行なわれてきたワールドシリーズが史上初めて11月にずれ込みました。ニューヨーク・ヤンキースデレク・ジーターが延長戦で劇的なサヨナラ本塁打を放ち、「ミスター・ノーベンバー(11月の男)」の称号を得た時です。

 その後、ポストシーズンは約1カ月間にわたって熱戦を繰り広げることが増え、11月に入っても頂上決戦を行なうことが珍しくなくなりました。ただ、それでも当時のバド・セリグ前コミッショナーは「10月中にワールドシリーズを終わらせることが望ましい」と言い、それ以来、開幕の時期を早めて10月中に世界一を決めるようにしています。

 もし、マンフレッド・コミッショナーが162試合すべてを行なう方針を貫こうとすれば、スケジュールはどう組まれるのか。

 おそらく、メジャーならではの過密日程で数少ない休日に試合を行ない、負担のかかる連戦はさらに増えるでしょう。とくに収入を上げるために昼夜別興行のダブルヘッダーを増やし、もしかしたら7月14日のオールスターゲームを中止にすることも考えられます。


 さらに、11月以降のポストシーズンの開催地は、出場チームの本拠地でなく、温暖な場所やドーム球場に移して行なう可能性も少なくありません。地域によっては寒さでプレーできない気候となるからです。

 しかし、いくら日程を繰り下げると言っても、プレーオフやワールドシリーズの開始日程は過去にあった1週間は引き延ばしても、せいぜい2週間程度の順延が限界ではないでしょうか。

 もし12月にワールドシリーズを行なうとしたら、オフシーズンはほとんどなくなってしまいます。そうなると、来年2月中旬から新しいシーズンへ向けてのキャンプや、3月の第5回ワールドベースボールクラシック開催にも影響を及ぼします。

 レギュラーシーズンの試合数が少なくなることによって、チームや選手の記録の楽しみが半減してしまうのは仕方ないかもしれません。それでも、両リーグ各地区で白熱した試合を演じ、さらにはワールドシリーズで優勝チームを決めるためには、今季は110~120試合ぐらいできれば御の字ではないでしょうか。