里崎智也が語るYouTubeと今季のプロ野球 前編

 1998年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団し、長らく正捕手として活躍した里崎智也。2014年に現役を引退してからは主に解説者として活動し、2019年3月に自身のYouTubeチャンネル『Satozaki Channel』を開設した。

一度は更新が滞るも、昨年8月にフリーの袴田彩会(あやえ)アナをアシスタントに迎えて再出発。里崎の”忖度なし”の話しぶりはもちろん、2013年から東北放送のアナウンサーを5年間務め、楽天のファンだという袴田アナとの軽快なやりとりも人気を博し、チャンネル登録者数は約24.3万人(3月18日現在)に達している。

 今では多くのプロ野球OBがチャンネルを持つようになったが、その先駆者のひとりである里崎は、なぜYouTubeを発信のツールに選んだのか。今回は袴田アナに聞き手になってもらい、その内情を明かしてもらった。

里崎智也に「奇跡のパートナー」。YouTubeチャンネルの戦...の画像はこちら >>

YouTubeチャンネルが人気の里崎智也と、アシスタントの袴田彩会アナ

袴田彩会アナ(以下:袴田)あらためて、里崎さんがYouTubeでチャンネルを始めようと思った理由を教えてください。

里崎智也(以下:里崎) 一番は、”発信源”を保ちたかったからです。

解説者はフリーランスで”受け身”な仕事ですから、依頼がなければ意見を1ミリも届けることができません。しかもプロ野球の解説者は、歳を重ねても活躍されている方が多いですよね。そこに毎年引退する選手が加わって、どんどん人数が増えていくので、僕にオファーが届かなくなる可能性がある。YouTubeならば、小さなテーマでも自分の判断で、しかもタイミングを逃さずに発信することができますから、そこに魅力を感じたんです。

袴田 Twitter、Facebook、インスタグラムなどで発信していくことも考えましたか?

里崎 SNSは僕もやっていますけど、文字数に制限があることがネックでした。しかも、文字だと真意が伝わらずに誤解されてしまうこともあるじゃないですか。

動画であれば言葉のニュアンス、その場の空気もくみ取ってもらいやすくなるので、誤解されるリスクが減るんじゃないかと。

 でも、昨年3月にビックリマンチョコのプロモーション企画をYouTubeでやった時に、動画を編集してくれるスタッフがいないと続けられないと思いました。そこで作ったチャンネルも休止状態になっていたんですが、先にYouTubeを始めた高木豊さんの動画チームの方たちが、僕と「一緒にやりたい」と言ってくれたらしく。同年の8月くらいに豊さんが声をかけてくれたんですよね。

袴田 私もそのチャンネルに何度か出たことがあったので、里崎さんの動画を撮影するために豊さんのご自宅に呼んでいただきましたが、そこが初対面でしたね。

里崎 そこでいきなり、豊さんから「サト、袴田さんとやってもらうから」と言われて(笑)。

僕は何も知らなかったけど、断るわけにもいかないので「よろしくお願いします」となりましたけど、お見合いみたいでしたよね(笑)。

袴田 本当に突然でした(笑)。そこから定期的に動画をアップしていくわけですが、不安はありませんでしたか?

里崎 YouTubeのデメリットは理解していました。解説者としてオファーされた仕事は、仮にテレビであれば視聴率の高低にかかわらず報酬が入ってくる。一方、YouTubeは完全歩合制で、視聴数が伸びなければアウト。反響が大きければ青天井ですが、広告もつかずに、初期費用などもバックできないまま何カ月も赤字だけが積みあがっていくリスクもあります。

袴田 でも、里崎さんのチャンネルは広告がつくのが早かったですよね?

里崎 チャンネル再開後、すぐにドラフトがあって(関連動画に)注目してもらえたのが大きかったですね。継続して見てもらえるように、話す内容も動画であることを意識しています。

 テレビなどのメディアはつけっぱなしにして見ている人も多く、野球に興味がない人の目にも触れることになるので、素人から玄人までがわかる説明をしないといけません。いわゆる”オールラウンダー”になる必要があります。その点、YouTubeは見たい人しか見ないので、より深いことを説明したり、尺が自由なところを生かして言いたいことをすべて伝えたり、ということができています。

袴田 動画に対する視聴者さんのコメントなど、反応が早いのもいいですね。

里崎 そうですね。批判的な意見があっても、僕はまったく気にしないですけど(笑)。僕を上回る、悩ませるような理論を持ったコメントがまだない、というほうが正しいかな。

袴田 里崎さんのメンタルの強さに驚きました(笑)。以前は、「炎上してみたい」ともよく言っていましたよね。

里崎 批判は称賛の裏返しですよ。

あの張本(勲)さんの「喝!」のコーナーも、それに対して「何か言ってやろう」という人が多いから、あれだけ注目されているわけです。そういったパワーとエネルギーがある視聴者はありがたい。だから僕ら配信者側は、「コイツは何を言うんだ?」と思ってもらうのが大事です。

袴田 厳しいことを言っても、里崎さんは言葉巧みというか……。「これは僕の好みです」といった、人を傷つけない”魔法の言葉”がありますよね。

里崎「攻撃は最大の防御」って言いますけど、僕は防御してからじゃないと攻撃しないので(笑)。何でもかんでも話すとただの悪口になりますし、ある程度は考えて話すようにしています。でも、台本もなく勝手に話す僕についてきている袴田さんのほうがすごいですよ。

袴田 逆に私はノープレッシャーで、しっかり反応することを意識しています。時には、お話に出た選手の顔がパッと頭に浮かばない……ということもありますが……。

里崎 そこを知ったかぶりしない正直さが、視聴者的にもいいんじゃないですかね。

袴田 ただ、単純に里崎さんに同調しているだけでは一本調子になってしまいますし、反論があったほうが議論が生まれるとも思っています。無理に反対の意見をひねり出すのではなく、その時に思ったことをちゃんと言うようにしています。

里崎 ツッコミの入れ合いみたいになることもありますけど、一緒にやり始めてからしばらくして、お互いのことがわかってきたからできることですよね。でも、袴田さんとじゃないとここまでの掛け合いはできなかったんじゃないかな。偶然から生まれた”奇跡のパートナー”ですよ(笑)。

 ちなみに、動画のコメントでは。袴田さんがよく着ているノースリーブの服が話題になることが多いですけど、何か狙っているんですか?

袴田 ただの私服で、狙いはないです(笑)。確かにノースリーブの服は好きですし、二の腕などが「たるんでないかな」と意識できることもあって、たくさん持っていますが(笑)。動画撮影日ごとに違うものを着ていくようにしていたのですが、それがコメントに反映されるとは思いませんでした。今はまだ寒いですが、春から夏にかけて復活させようと思います。

 話を本筋に戻しましょう(笑)。里崎さんのチェンネルではゲストをあまり呼んでいませんが、何か理由があるんですか?

里崎 経費節減です。というのは冗談で、ゲストに頼るチャンネルにはしたくないからです。最近では、「チャンネル登録者22万人突破記念」で、ソフトバンクの甲斐拓也選手に出演してもらいましたし、もちろん面白い話はできました。ですが、ゲストの人選によって、見るか見ないかを決められるようになってしまっては困りますから。そうではなくて、自分のクオリティーを高めていくことを重視しています。

袴田 今後は、どんなテーマを取り扱っていこうと考えていますか?

里崎 どんなテーマであれば視聴数が伸びるかは、まだ掴みきれていないところがあって。すごく事前の準備をした、バッテリーの配球をメインにした”里崎塾”よりも、思いつきで撮った「一軍と二軍の待遇の格差」のほうが反響が大きかったですし。

 やりたいことはパンパンにあって、現段階でも20テーマくらい撮影済みのストックがありますが、シーズンを通して楽しめるテーマをやっていきたいですね。例えば最近配信したなかでは、ひとりの予算上限を10億円に設定して、現役選手の推定年俸がそれに収まるように、袴田さんとふたりで12人を指名(投手3人、内野4人、外野3人、捕手ひとり、DHひとり。指名が被った場合はじゃんけん)していき、その選手たちの年俸が1年でどれだけ伸びたかを競う企画のような。そんなテーマなら、視聴者の方たちもコメントで参加できますからね。

袴田 私も、あれこれ悩みながら指名する選手を決めるのが楽しかったです。

里崎 そういった野球の話だけじゃなくて、まったく関係ないテーマもやっていきたいですね。今までも、年末ジャンボ宝くじ企画などをやっていて、それは不発に終わりましたが(苦笑)。袴田さんはもちろん、スタッフを含めてギスギスした感じではなく、余裕を持っていろんなことに挑戦しながら盛り上げていこうと思います。