バルセロナの不安定な魅力8
今シーズン、リオネル・メッシはリーガ・エスパニョーラで22試合に出場し、リーグトップの19得点を記録している。1試合平均1点近くで、相変わらず驚異的な得点力を誇る。
瞠目すべきは、2008-09シーズンに23得点して以来、10シーズン以上、その数字を下回っていない点にある。「無事これ名馬」というのか、スランプもない。2011-12シーズンにはシーズン50得点の大記録を達成。スキルの高さやスピード、緩急の変化、ビジョンなど、能力の高さをいくら書き尽くしても説明が足りないほど、別次元の選手だ。
メッシは、ヨハン・クライフが土台をこしらえた下部組織「ラ・マシア」で育った。
2月のレバンテ戦の直後、バルサ幹部との確執がニュースとなったリオネル・メッシ
2004-05シーズン、メッシは17歳でフランク・ライカールトに見込まれ、トップデビューを飾っている。以来、ことごとく予測を裏切ってきた。強大な敵が前に立ちふさがると、それを越える逞しさを見せ、進化を遂げたのだ。
「レオは小さいけど、ヘディングもうまくなろうとしている。とにかく、完璧な選手を目指しているんだ」
ブラジル代表ダニエウ・アウベスは、メッシの底知れなさについて饒舌に語っていた。
「たとえばドリブラーはどのチームにもいる。ステップが巧みで、スピードもある。でも、レオは違う。もっと貪欲で、ドリブルに満足せず、ゴールを常にとらえている。シュート精度は高いが、周りも使える。目にした選手の技術をコピーしてすぐに自分のものとし、高いレベルに引き上げてしまう。
メッシは、ミカエル・ラウドルップやルイス・フィーゴのような過去にバルサに在籍した選手の技(ループやフェイントなど)をよく使ったという。柔軟に技を取り込むことができた。最も触発されたのは、同僚だったロナウジーニョだったかもしれない。また、MFシャビ・エルナンデスの影響も強く受け、中盤に落ちてゲームメイクするときの動作パターンはかなり似ている。
メッシは、楽しむ気持ちを戦闘力に換えられる、稀有な選手だろう。頭の中は勝利しかない。
「僕が勝ちたいと思うのは、ピッチに入った時だけ。プライベートは放っておいてほしい」
筆者は、10代だったメッシにインタビューをしたことがあった。メッシは訥々(とつとつ)と、しかし確信を込めて話した。
「サッカーをする時は、どれだけプレッシャーをかけられても気にしません。
メッシはトレーニングから、相手に襲い掛かるようにプレーしていた。人並外れた集中力で、相手の弱点を察知し、味方のいいプレーを取り込む。なにより練習における鍛え方の強度で、他に勝っていたのだ。
「自分は長くプレーしてきたけど、メッシは唯一無二の存在さ」
オサスナで20シーズン近くプレーしたフランシスコ・プニャルは、ロナウド、リバウド、フィーゴ、ジネディーヌ・ジダンなど、さまざまなスーパープレーヤーと対峙してきたが、メッシは異様だったという。
「メッシは、山猫、豹、猛禽類……あらゆる猛獣の能力を併せ持ったような選手。人間が戦うには難しい。ようやく対処したとしても、すぐに違う能力を出してくるというか……。1980年代までなら、ディエゴ・マラドーナのように、危険なタックルの標的になっていたはずだよ。まともに戦って止められる選手ではない」
メッシはラ・マシアという土壌で、自らの技術を日々革新させてきた。身についた習慣が、彼を”進化する怪物”にしたのだろう。試合で強敵と戦うたび、成長することができた。それは特別な変異とも言えるが、ラ・マシアがなかったら存在しない選手でもあるのだ。
クライフは長大な戦略でラ・マシアを整備していった。同じ哲学で集められた選手を、同じ理念とシステムで戦わせる。すべてが傑出することはない。しかし、信じていたのだろう。
<いつか必ず飛び抜けた選手が出るはずで、その選手がバルサを救うはず!>
メッシはバルサの結晶であり、救世主だ。
しかし、アルゼンチンの天才も今年で33歳になる。本人も、残りが長くないことは身に染みているはずだ。はたして、彼はバトンを渡すことができるのか。
(つづく)