
無敗の二冠牝馬が63年ぶりに誕生した。
5月24日、東京競馬場で行なわれた3歳牝馬限定のGIオークス(芝2400m)。断然の1番人気に推された桜花賞馬デアリングタクトが、見事人気に応えて同レースを快勝した。
これで、4戦4勝。デビューから土つかずの二冠達成は、1957年のミスオンワード以来の快挙である。
オークスを制して、二冠目を手にしたデアリングタクト
終わってみれば、GI桜花賞(4月12日/阪神・芝1600m)と同様、デアリングタクトの強さばかりが目立った。
「このメンバーでは、二枚も三枚も力が違っていた」
レース後、ある競馬関係者はそう言って唸った。
ただそれは、結果がわかっているから言えることで、デアリングタクトが実際に先頭でゴール板を駆け抜けるまでは、ハラハラするシーンが二度、三度、見られた。
レース前の激しい発汗しかり、最初のコーナー手前で首を上下に激しく振って、位置取りを下げた際もハッとした。さらに、最後の直線で馬群に包まれて、完全に行き場を失った時もそうだ。
だが、そんなハラハラドキドキが何度かあった分、馬群のわずかな隙間を突いて、そこから切り裂くように抜けてきた時は、感動すら覚えた。
オープン特別のエルフィンS(2月8日/京都・芝1600m)でレースレコードをマーク。ウオッカ以来となる1分33秒台で駆け抜けたスピードと、泥んこの桜花賞で唯一大外から強襲。他馬とは次元の違う豪脚で差し切ったパワーは、この世代では明らかに抜けていた。
そんなデアリングタクトのケタ違いの能力に、最も大きな信頼を寄せていたのが、デビュー時からコンビを組む、松山弘平騎手である。
発汗して、少しイレ込んでいるように見えたレース前のことも、「落ち着いていました」と意に介さない。もともと気性の激しさが残る馬。主戦騎手としては、あの程度のことは「想定内」だったのだろう。
他の馬に進路を狭められた最初のコーナーにおいても、デアリングタクトの力を信じる松山騎手の好判断が光った。
現在、高速馬場にある東京コースは、圧倒的な先行有利な状況にある。後方一気や、大外をブン回しての競馬では勝ち切れない。その点を考慮すれば、多少の不利があったとしても、あえて引かず、スタート後に保持した前目の位置を主張するのも手だったかもしない。
しかし松山騎手は、無理をしないで位置を下げた。
「少し後ろになったとしても、位置取りにはこだわらず、脚をタメることに専念しようと思った」
それこそ、「最後は必ず脚を使う」というデアリングタクトに対する、松山騎手の絶対的な信頼の証だ。