出走14頭中、10頭がGI馬という豪華メンバーがそろった今年のGI安田記念(6月7日/東京・芝1600m)。だが、これほどの面々が集結しながら、ファンの視線は1頭の馬に集中していた。



「現役最強馬」と言われるアーモンドアイ(牝5歳)である。同馬の快挙達成――すなわち、史上最多の芝GI通算8勝なるかに多くの関心が寄せられ、単勝オッズは1.3倍。1.7倍だった昨年以上の支持を集めた。

 ところが、アーモンドアイにとって、東京・芝マイルという舞台は”鬼門”だった。昨年の3着に続いて、今年も苦杯をなめた。

 スタートで後手を踏み、4コーナーでは目の前のヴァンドギャルド(牡4歳)が少しバランスを崩して、その影響を受けてしまった。
さらに直線を向くと、前も、横も壁となって、追い出しに手間取った。最後は2着まで追い上げて意地を見せたが、多大な人気に応えることができず、日本競馬界初の偉業は果たせなかった。

 そんなアーモンドアイとは対照的に、何もかもがうまくいったのが、見事に戴冠を遂げたグランアレグリア(牝4歳)だった。

 スタートは先行勢ともヒケをとらない発馬を決めると、道中は周りに馬を置かず、中団あたりでノビノビと追走。直線を向くと、あっさりと抜け出して、追いすがるアーモンドアイらを逆に突き放す快走を見せた。


池添騎手演出の完璧なアーモンドアイ包囲網。グランアレグリアが...の画像はこちら >>

安田記念を快勝したグランアレグリア

 グランアレグリアは、2歳時には2歳女王を決めるGI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)ではなく、あえて「2歳王者決定戦」となるGI朝日杯フューチュリティS(3着。
阪神・芝1600m)に挑んだ。そこで、1番人気に支持されたように、早くから優れた能力の片鱗を見せていた。

 その能力が全開になった時は、昨春のGI桜花賞(阪神・芝1600m)や、昨年末のGII阪神C(阪神・芝1400m)のように、後続をあっさりと振り切って、とてつもない強さを見せつける。ただ、うまく勝ちパターンに持ち込めないと、先の朝日杯FSや昨春のGI NHKマイルC(5着。東京・芝1600m)のように、不完全燃焼の結果に終わってしまう。

 負ける時は、共通のパターンがある。
外から他の馬に寄せられた時だ。

 こうなると、グランアレグリアのよさは、完全に削がれてしまう。実際、朝日杯FSも、NHKマイルCも、同様のパターンで沈んだ。

 逆に外目を早めに進出するか、外からかぶされる前にいち早く抜け出すことができれば、半端なく強い。このルールさえ守れば、桜花賞や阪神Cの時のように、凄まじい爆発力を見せる。

 今回、その爆発力を存分に発揮させたのが、コンビ2戦目となった池添謙一騎手である。

グランアレグリアの2度目の栄冠獲得は、同馬を巧みに導いた彼の殊勲と言っても過言ではない。

 これで、池添騎手はGI26勝目。ここ一番で騎乗馬にフィットし、”自分の立ち回り”に持ち込むことで、騎乗馬の全能力を引き出すことに長けている。泥臭い勝ち方よりも、鮮やかな勝ち方が多いのは、それだけ愛馬とジャストフィットしているからだ。

 グランアレグリアは本来、クリストフ・ルメール騎手のお手馬。アーモンドアイのドバイ遠征が、前走のGI高松宮記念(2着。
3月29日/中京・芝1200m)とかぶることから、池添騎手に騎乗が巡ってきた。もしドバイ遠征がなかったら、安田記念で初コンビとなった可能性がある。1戦多くコンビを組めたことは、巡り合わせの”妙”と言えるだろう。

 もちろん、そうした幸運だけで今回の勝利につながったわけではない。池添騎手は、実に周到な乗り方をしている。

 最大の見せ場は、4コーナー。
自身の外には馬を接近させないようにしつつ、一列後ろのインを追走するアーモンドアイに対しては、前で手応えの怪しくなっていたヴァンドギャルドやセイウンコウセイ(牡7歳)らが壁になるようにした。加えて、アーモンドアイを自身の外にも簡単に回り込ませないよう、外から仕掛けてきたケイアイノーテック(牡5歳)まで使って、自らの勝ちパターンを崩すことなく、”アーモンドアイ包囲網”を作ったのだ。

 ケイアイノーテックとの間隔をチラリと確認する池添騎手が、実に心憎かった。

 アーモンドアイにとっては、2年連続で不運な結果となった。しかし、今年に関して言えば、仮にアーモンドアイにまったく不利がなかったとして、「結果は違っていたか?」というと、「そう」とは言い切れない。

 上がり3ハロンの脚は、グランアレグリアのほうが勝っていた。たとえアーモンドアイが、ここ最近の勝ちパターンのように5、6番手でレースを進めていたとしても、グランアレグリアの強襲を抑え切れたかどうかは疑問だ。

 これまで交わることのなかった2世代の桜花賞馬。願わくはもう一度、ともに不利のない形で、白黒はっきりつけてほしい。さらに言えば、今年の桜花賞馬、無敗の二冠馬デアリングタクトも交えた、3頭の戦いも見てみたい。