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「何かを成し遂げたいなら、自らを省み、自分たちが変わらなければならない」

 優勝を逃すことが決まったオサスナ戦の敗戦後、バルセロナのリオネル・メッシはその不満をぶちまけている。

「我々は自分たちのミスで敗れた。

(優勝したレアル・)マドリードがうまくやったから、ではない。このような終わりは望んでいなかったが、今日の負け方は象徴的だろう。今シーズン、チームは波が激しく、脆さがあった」

 連覇できなかった悔しさよりも、正念場で格下になす術なく敗れた怒りが滲んでいた。 

嘆くメッシ「このままではCLで勝てない」。バルサの終わりの始...の画像はこちら >>
 試合翌日には、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長とキケ・セティエン監督が緊急に会談を行なっている。その席で、少なくとも8月8日の欧州チャンピオンズリーグ(CL)ナポリ戦までは指揮をとることが確認されたが......。

「前向きに将来を語る会合だった。
メッシの発言はフラストレーションによる一時的なものだろう。大事なのは、気持ちを切り替えてCLに挑むことさ」

 セティエン監督はそう取り繕ったが、状況は深刻だろう。エースと言える選手が、「このままでは勝てない」と指摘し、監督がそれを打ち消すなど、異常事態だ。

 2019-20シーズン、バルサは終わりの始まりにあるのか?

 バルサの変調が表出したのは、今年1月だろう。

 スペインスーパーカップの敗退後、バルサはエルネスト・バルベルデ監督を突如として解任した。当時、バルサはリーガで首位、CLも決勝トーナメントに進出していた。
バルベルデ采配への不信感は高まっていたとはいえ、現場では青天の霹靂だった。そしてフロントは新監督候補シャビ・エルナンデスに振られた挙句、キケ・セティエンに決めたのだ。

「力を出し切っていない選手がいる」

 スポーツディレクターであるエリック・アビダルは、まるで監督人事の責任を選手に転嫁するような発言をした。当然、メッシをはじめ選手からの反発を浴びることになった。ルイス・スアレスの代役となるストライカーと契約できず、有望な若手を売り払ってまで獲得したのが、凡庸の域を出ないマルティン・ブライスワイトという茶番もあった。

 そして2月、クラブが契約していた会社が、SNSで、メッシなど主力選手に対するネガティブキャンペーンを張っていたことが露見した。

選手との契約交渉を優位に運び、クラブ首脳陣が対立陣営を潰す工作活動だったと言われる。ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長本人は即座に関与を否定したが、クラブがその会社に契約料を払っていたのは動かぬ事実だ。

 コロナ禍を経てリーグ戦再開後も、メッシはエデル・サラビアコーチの指示を無視。一枚岩ではないことは明らかだった。

 言い換えれば、優勝を逃したのは自明の理だったのだ。

 しかし、問題は表面化しただけだろう。
バルサは数年をかけ、ゆっくりと蝕まれてきた。戦力にならない外国人選手を獲得しては売り払う。220億円で獲得したフィリペ・コウチーニョ(バイエルン)の市場価値は今や3分の1以下に下落している。主力は高齢化が進み、戦力も財力も消耗してきたのだ。

「このままでは、CLなど勝てない」

 メッシの見解は、ポジティブではないが、ネガティブというわけでもない。とても現実的だ。


 バルサが負の連鎖を断ち切って再生するには、道筋はひとつしかない。下部組織ラ・マシアへの回帰である。

 最終節、敵地で0-5と大勝したアラベス戦も、華々しい活躍を見せたのはアンス・ファティ、リキ・プッチというラ・マシア育ちの若手2人だった。メッシ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルトというラ・マシア組とプレーを重ねることで、そのクオリティは高まっている。この日のプレーは、将来のバルサの土台になり得るだろう。

 バルサは、ラ・マシアから特殊なオートマチズムを植え付けられる。
徹底的なボールゲーム。それが彼らのよりどころだ。

 アラベス戦と同じ日、セカンドチームであるバルサBは2部昇格プレーオフを戦い、バジャドリードBを3-2で下して、次のラウンドに駒を進めている。ユース選手を多く帯同させての一戦になったが、改めてそのポテンシャルの高さを示した(安部裕葵はケガのため日本に帰国中)。キャプテンで8番のMFモンチュ(ラモン・ロドリゲス・ヒメネス)は、アンドレス・イニエスタの系譜を継ぐ選手だ。

「たら・れば」にはなるが、もしバルサが久保建英を取り戻すことができていたら――。そんな想像はひとつの浪漫だろう。メッシとの共存で、どんな化学反応が生まれていたか。

 久保を失ったことは痛手だが、バルサには未来を担うべきラ・マシアがある。それを最大限に生かせるか。首脳陣はそろそろ腹を括る必要がある。