シリーズ「リーガに挑んだ日本人」はこちら

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、フランスの有名スポーツ紙『フランス・フットボール』が久保建英(19歳)にインタビューした内容を引用し、記事を掲載している。

「僕はピッチでは決して臆することはない。

選手というのはピッチで表現しなければならないからね。ピッチで臆病だと、成長することはできない。ピッチではプレーで"話す"んだ」

 マジョルカで1年を戦った久保はそう言う。

久保建英の移籍を巡る狂騒曲。「恋人」に求められる条件は何かの画像はこちら >>
 その流儀は、スペインサッカーにおける選手の条件と言えるかもしれない。久保は、それをすでに身につけている。シーズンを通じてチームの矢面に立った戦いが、言葉以上の重みをもっているのだ。


 その結果、スペインだけでなく欧州サッカー全体が、久保の力量を高く評価している。さもなければ、他紙のインタビューが再掲載され、克明に紹介されることはないだろう。これほどのバリューがあるのはトップスター選手だけだ。

 レアル・マドリードがパスを所有する久保は、欧州サッカー界全体の寵児になっている。来シーズン、マジョルカを退団した日本人アタッカーはどこへ行くのか――。それは大きな関心事だ。


 この1週間だけでも、久保の周囲には多くの噂が立ち込めている。

「久保の恋人たち」

『アス』は、そのモテモテぶりを賑やかに伝えている。

 スペイン国内では、レアル・ソシエダ、ベティス、バジャドリード、セビージャなどが有力視されてきた。しかしそこに、「ビジャレアル、グラナダ、セルタ、岡崎慎司の所属するウエスカまで獲得合戦に参戦」というニュースが流れている。オサスナは「監督とテクニカルディレクターが久保と対話」と急接近が伝えられる。一方、一時は候補の一番手と言われたセビージャが「2年契約、買い取りオプション付き」を要求し、一転して「交渉は暗礁に乗り上げた」と報じられている。


 もっとも、どこまでが事実かはわからない。マンチェスター・シティの関係者は、言下に獲得に動いていることを否定した。各クラブが興味を示しているのは間違いないとしても、現実的な交渉に入っているチームはそこまで多くはない。各紙に流れる様々なうわさは、虚々実々の駆け引きで、混乱させるために関係ない情報がリークされる場合もあるのだ。

 移籍先として濃厚なのは、やはり当初から交渉が伝えられるレアル・ソシエダか。

 レアル・ソシエダは現在、左利きの攻撃的MFマルティン・ウーデゴールがひざに問題を抱えているのが、懸念事項だろう。

もう1シーズン、レアル・マドリードからのレンタルを継続する可能性が高まっており、「久保はまずそのバックアップに入るのではないか」とも言われる。ただ、ケガの状況が改善するなら久保を必要とせず、行方は不透明だ。

「欧州カップ戦出場、もしくは狙えるチーム」

 それは久保が出した条件ではないだろうが、周りが考える"結ばれる条件"と言えるだろう。

 マジョルカは1部20チームの中では最も非力で、あえなく降格した。そこで来シーズン、久保にはマジョルカ以上のチームでの実戦経験を積む必要がある。もっとも、ほとんどのチームがマジョルカよりも上なのが現状である。
新しく出たチーム名の中では、ビジャレアルはサンティ・カソルラ、ジェラール・モレーノ、ラウール・アルビオル、パウ・トーレス(ビッグクラブへの移籍が噂される)のようなトップレベルの選手がいて、今までにない刺激を受けることができそうだ。

 スペイン国外では、マンチェスター・シティ、ミラン、パリ・サンジェルマンが久保サイドと接触したと言われる。それ以外にも、アヤックス、ラツィオなどの名前が聞かれるようになった。

 ただし、国外移籍の可能性は低い。リーガ・エスパニョーラは世界最高峰。双璧をなすのはプレミアリーグだが、あまりにプレースタイルが異なる。
国内での試合経験こそ、レアル・マドリードでプレーするための"最短距離"になるはずだ。

「自分の夢はいつだって、ベストプレーヤーの一人になること。そのための努力をやめることはない。そして自分の目標は、レアル・マドリードでプレーすることだ」

 そう語る久保は、進むべき道を突っ走るだろう。

 移籍交渉がどのような結末になるのか、おそらく久保本人にもコントロールすることは難しい。それだけ、大きなものが渦巻いているのだ。

 移籍関連情報ウェブサイト『Transfermarkt』によれば、久保の市場価値はすでに3000万ユーロ(約36億円)に跳ね上がっている。価格が暴落したガレス・ベイル(レアル・マドリード)は、2800万ユーロ(約33億円)。久保が若いことによる優位を差し引いても、世界のトップ選手と比肩する値打ちだ。

 しかし、レアル・マドリードは、久保を3000万ユーロという"はした金"では売りに出すことはないだろう。選手として成熟することによって、それ以上の価値を生み出すと期待しているからだ。

「久保の年俸が250万ユーロ(約3億円)、レンタル料が最低250万ユーロ」

 それが、スペイン王者レアル・マドリードが提示している久保の値段と言われる。