◆小林雅英と藤田宗一が語るリリーフ論>>

 現在、パ・リーグの首位争いを繰り広げているロッテだが、ファンにとって気になるのはゴールデンルーキー・佐々木朗希の動向だろう。一軍に帯同に調整を続けているとのことだが、詳細は伝えられていない。

いまだベールを脱いでいない"令和の怪物"の本当の実力とは? かつてロッテの"勝利の方程式"の一端を担い、2005年の日本一に貢献した藤田宗一氏と小林雅英氏に佐々木朗希の可能性について聞いた。

佐々木朗希をロッテ伝説のOBが絶賛。ただし心配な部分もあるの画像はこちら >>

現在、一軍に帯同しながら調整を続けているロッテ・佐々木朗希

小林 佐々木に関しては、キャンプで投げている姿を見て本当に驚いた。ロッテだけでなく、球界の宝になると確信しました。

藤田 正直、ちょっと見たことのないレベルの素材だと思う。明らかに高卒1年目の投手が投げているボールではない。

小林 投げているボールはもちろんだけど、あれだけの体躯(190センチ・85キロ)、腕の長さで、しっかりと自分の体をコントロールできているのがすごいなと。
大谷(翔平)もそうですけど、あれだけ大きな体を使いこなして、そのうえ柔らかさもある。

 体が大きい選手、とくに投手はその分だけ体の動かし方が散漫だったりするのですが、佐々木は細部までしっかりコントロールして使えているというのが衝撃でした。それがパフォーマンスにもつながると思うのですが、じつはそれってすごく難しいことなんですよね。

藤田 下半身の使い方がスムーズだなというのが第一印象。とくに右足の蹴りのすばらしさに目がいく。右足の蹴りが強いから、あの体格でも体重移動ができていて、ボールにうまく力を伝えられている。


小林 だからただ速いだけでなく、ボールに力がある。

藤田 フォーム的にも制球力で苦労することがなさそうだし、どれだけの投手になるのだろうと......楽しみしかない。

小林 たしかに、コントロールで苦労するタイプには見えないですよね。まだまだ線も細く、体もできていないですが、今後プロでシーズンを戦うための体づくりをしていったら、間違いなくスピードも伸びていくはず。順調に育てば、日本人がいまだ到達していないところにいくかもしれない。

藤田 ヒジの使い方もすばらしい。

よく「ムチのようにしならせる」と言うけど、まさにその言葉がピタリと当てはまるような使い方をしている。あれは天性のものだし、真似しようと思ってもできるものではない。ボールの出所が見えにくいだろうし、さらに角度もあるから、打者は相当打ちにくいだろうね。

小林 佐々木に関しては、野球選手としてしっかりした道を歩んでほしいと、とにかく球団が大事に育てているのがわかる。プロでやっていくための技術的なことはもちろん、体のつくり方、野球に対する考え方や社会人としてのあり方など、今はそうしたことをじっくり教え込んでいる時期なのかなと。

藤田 球団もあれだけの選手だから、「絶対に壊してはいけない」とすごく慎重になっている。


小林 まだ高卒1年目で、そういった基礎的なことがわからないまま一軍で投げさせるということはしないと思います。3年目ぐらいからしっかりと活躍してくれたらいい、というぐらいの考えなのかもしれないですね。

藤田 育成については考え方が分かれるだろうね。一軍レベルでしか身につかない細かいコントロールや投げる体力、試合勘というのがある。二軍で勉強するというのもひとつの手段だと思うけど、投げているボールのスピード、キレはすでに一軍レベル。

小林 実戦のなかでしか成長できない部分があるのがプロの世界。


藤田 個人的には、使いながら育てるという選択肢はありだと思う。使われながらよくなることもあるし、佐々木には経験が必要だと思う。高校時代、バリバリの強豪校で揉まれてきたというわけではないし、まずはプロの水にいかに早く慣れさせていくか。

小林 パ・リーグで高卒1年目から2ケタ勝ったピッチャーといってパッと思い出すのは、(松坂)大輔とマー君(田中将大)くらい。あいつらはちょっとパフォーマンスが違った。強豪校で揉まれてきて、甲子園という大舞台であれだけの活躍をして、体力もケタ違いだった。


藤田 並みの新人とはすべてにおいて違っていた。

小林 大輔やマー君は、いい意味で悪い顔をしていた(笑)。そういう意味では、佐々木はまだプロの顔というよりは優しい顔をしているかな。

藤田 野球を続けている限りずっと注目されるだろうし、これからも大変なことはいっぱいあると思うけど、なんとか結果を出してほしい。

小林 コーチも大変でしょうね。

藤田 あれだけの能力を持った高卒選手を指導した経験がある人は皆無だろうし、難しさはあると思う。

小林 190センチを超える身長で160キロを投げた経験のある日本人はほとんどいない。指導にしてもサンプルがないからコーチ陣も手探りかもしれない。自らの経験値を持ってアドバイスできるのは、それこそ大谷だけしかいない。佐々木はそういった未知の領域にいて、これまでいなかった選手ということを首脳陣は理解したほうがいいかもしれないですね。

藤田 参考になるのは、本当に大谷くらいだよな。個人的には、1年目の大谷より佐々木のほうが魅力はある。正直、どこまでの選手になるのか想像もつかいないし、どんなレベルに到達するのか楽しみで仕方ない。

◆美しきDeNAの女神、チアリーダーの素顔に迫る>>

小林 もう現時点ですごいですよね。高校卒業してすぐにシートバッティングで160キロを出す投手なんてひとりもいなかった。これが公式戦で、テンションが上がっている状況で投げたらどれだけのパフォーマンスを見せてくれるのか。

藤田 あとはそのパフォーマンスに耐えられる体になっているのかどうか。

小林 プロで投げる以上、安定してパフォーマンスを発揮しなければいけない。そのためには心身の強さが必要になってくる。成績はもちろんだけど、野球以外の部分でもいろいろな報道が出るかもしれない。そういうのをすべて飲み込める人間力を学ぶために、今はいろんな人と接しながら勉強しているのかなと。

藤田 プロとしての振る舞い方や野球との向き合い方などの指導を受けつつ、大きく成長していってほしい。"佐々木効果"もあって、今年のロッテは注目度が上がっている。そういう意味で、ほかの選手も刺激を受けているだろうし、チームとしてもいい方向に向かっていると思う。

小林 いずれにしても、デビュー戦が楽しみですね。

プロフィール
藤田宗一(ふじた・そういち)
1972年、京都府生まれ。島原中央高から西濃運輸に進み、1997年のドラフトでロッテから3位指名を受け入団。1年目から56試合に登板するなど、中継ぎのスペシャリストとして活躍。2006年には第1回WBCの日本代表に選出され、世界一を経験。その後、巨人、ソフトバンクでもプレーし、2012年にはBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスで選手兼コーチとして入団。同年限りで現役を引退。引退後は焼肉屋オーナーになるが、2018年より解説者に。現在はケニアの野球発展のために現地で指導も行っている。 https://yell.en-jine.com

小林雅英(こばやし・まさひで)
1974年、山梨県生まれ。都留高から日本体育大、東京ガスを経て、1998年のドラフトでロッテから1位指名を受け入団。1年目は先発としても起用され、46試合の登板で5勝をマーク。3年目の2001年からクローザーとなり、2007年まで毎年20セーブ以上を挙げるなど活躍。「幕張の防波堤」の異名をとった。2008年からMLBのクリーブランド・インディアンスに移籍。おもに中継ぎとして57試合に登板。翌年も残留となったが、シーズン途中に契約解除。同年オフに巨人と契約するも1年で戦力外となり、オリックスへ移籍。ここでも結果を残せず、2011年限りで現役を引退。引退後はオリックス、ロッテでコーチを務め、現在はプロ野球評論家として活躍。