福田正博 フットボール原論

■10月にオランダで2試合を行なった日本代表は、11月にオーストリアで2試合を戦う。福田正博氏は海外組だけでチームを組めるようになった日本サッカーの進歩を感じつつ、現在のチームのよかった点と課題を分析した。

 約1年ぶりに活動を再開した日本代表はオランダの地で親善試合を行ない、カメルーンと0-0で引き分け、コートジボワールに1-0で勝利した。試合内容を論じる前に、まずは新型コロナウイルスの影響のあるなかで代表活動を再開できたことをうれしく思う。

欧州組のみの日本代表の守備は安定。では攻撃面で残った課題とは...の画像はこちら >>

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 そして日本代表が、全ポジションを海外組だけで編成できる時代になっている点に驚きを隠せない。しかも、海外組の代表経験者でも招集できない選手もいた。これには日本サッカーの進歩を感じずにはいられなかった。

 親善試合はこれまで国内でやることが圧倒的に多かったが、海外組は長距離移動や時差などで選手のコンディションが整わない難しさがあった。

 しかし、今回はヨーロッパでの開催で、日本代表はもちろん、対戦相手もよいコンディションで試合に臨めた。その分、課題と収穫が明確に表れたと思う。

 2試合を通じて目立ったのが、やはりセンターバック(CB)だ。吉田麻也(サンプドリア)と急成長している冨安健洋(ボローニャ)のコンビは、過去の日本代表では考えられないほど次元が高い。カメルーン戦は右サイドバック(SB)で起用された酒井宏樹(マルセイユ)は、途中から3バックの右CBでもプレーしたが、この3人の存在感は圧倒的だった。

 ただし、これは裏返せば3人のレベルが高すぎて、誰かが欠けるとその穴を埋められる選手がいないことを意味する。

今回は植田直通(セルクル・ブルージュ)や板倉滉(フローニンゲン)が招集され、植田はコートジボワール戦で決勝点を挙げたものの、実力や安定感などの面で吉田ら3選手には大きく水を開けられている。4バックでの2CB、3バックのCBの代役となりうる選手がいないだけに、Jリーグ組を含めて奮起を促したい。

 また、4バックでは長年にわたって懸案事項になっている左SBに、カメルーン戦は安西幸輝(ポルティモネンセ)、コートジボワール戦は中山雄太(ズヴォレ)が起用された。やはりこのポジションは長友佑都の幻影がチラつくが、そのなかで中山は可能性を示したと評価している。

 本人は体格的(181cm)にCBでは厳しいと考え、ボランチでやっていきたいようだが、コートジボワール戦でのプレーを見れば、左SBにも日本代表で生き残る道はあると思う。

 そこまでスピードがないので、オーバーラップしてクロスを入れるところにストロングはないと思うが、それ意外の部分は悪くない。

左利きというメリットがあり、U-20日本代表時代は冨安とCBを組んでDFラインを統率した、クレバーさやフィード能力もある。

 Jリーグ時代は勝負に対して淡白な印象があったが、オランダでプレーするようになってそれも消えた。2試合を通じて勝負に貪欲で、激しく相手に当たる中山の姿には驚かされた。もともと意識の高い選手ではあったが、これは今ヨーロッパで評価を高めている同年代の冨安の存在があるからかもしれない。

 そして、今回の起用法を見ると、森保一監督から中山への期待の大きさが表れていたように思う。それが東京五輪代表の中心選手としてなのか、その上にある日本代表を見据えてなのかはわからないが、ここから一段も二段も上のレベルに行ってもらわなければ困る選手なのは間違いない。

 今回の親善試合を見て感じたのは、日本に戻ってくる長距離移動や時差がなく、選手がレギュラーシーズンのコンディションのまま試合に臨んだので、各選手とも現在のクラブで置かれている状況が明確に出たということだ。

 その状況で圧倒的な存在感を示したのが、遠藤航(シュツットガルト)だった。コートジボワール戦はボランチで先発したが、遠藤の守備力の高さがあることで、同じボランチの柴崎岳(レガネス)は安心して前めにポジションを取れていた。

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 ボールを奪う能力だけでなく、奪ったあとに前線にボールをつなげられるし、攻守のバランス感覚やポジショニングなど、総合的に考えると今後は遠藤航が中盤の中心になっていくはずだ。

 一方、チーム全体の攻撃に関して言えば、物足りなさを覚える結果だった。

 今回の2試合は、個の力だけで打開できるレベルの相手ではなかった。だが、1年ぶりの日本代表活動ということもあって、コンビネーションが噛み合っていない部分が多く見られた。

 カメルーン戦に先発した1トップの大迫勇也(ブレーメン)、トップ下の南野拓実(リバプール)、右MFの堂安律(ビーレフェルト)など、ほとんどの選手は昨年から日本代表で一緒にプレーしてきたのに、コンビネーションが合わないのを不思議に思うかもしれない。しかし、これほど長い期間代表としての活動がなかったのだから、すべての選手がリズムや呼吸を合わせることはなかなか難しいはずだ。

 同じようなシチュエーションでも監督が変われば、求められるプレーが変わるのがサッカーだ。たとえば、パスを出したあとひとつにしても、味方から「離れろ」というチームもあれば、「近づけ」というチームもある。

 各クラブでシステムも違うし、求められるポジショニングも変わる。それを短期間で調整して臨むのが代表戦なのだが、今回は1年ぶりということもあって、連係・連動に多少のズレがあった。

 コンビネーションに関連して言えば、大迫のポストプレーがない時に、どうやって攻撃を構築するかという課題は相変わらず残った。

 日本代表のストロングポイントは2列目で、大迫がポストプレーをすることで、2列目の選手たちとコンビネーションが生まれる。

 しかし、コートジボワール戦に出場した鈴木武蔵(ベールスホット)の特長はポストプレーにはなく、DFラインの裏への抜け出しにある。本人も「それで勝負する」と言っていたが、裏への抜け出しをつづけると2列目との距離感が開く傾向にあり、2列目の選手との連係に難しさが出てしまう。

 最前線に南野を置いて、鎌田大地(フランクフルト)をトップ下に入れる『ゼロトップ』という考え方もある。前線の空いているスペースに個々が流動的に入っていくものだが、果たして世界の強豪国と対戦した時に、それができるかどうか。

 ブラジル代表のように、自分たちの力を出せば勝てるという横綱相撲を取れるほど、日本サッカーはまだ強くはない。それはドイツ大会やブラジル大会のW杯で学んだことでもある。次のW杯に向けて、さまざまな戦い方を身に着けて、相手によって引き出しを使い分けられるようにしてもらいたい。

 日本代表は11月に、今度はオーストリアでパナマとメキシコ代表と親善試合を行なう。注目したいのは、攻撃面だ。今回露呈したコンビネーション不足をどこまで修正できるのか。守備では、吉田と冨安の代わりとなる選手を試すのではないか。

 日本代表が強くなっていると感じられる試合を期待している。