今季のバレーボール「V.LEAGUE DIVISION1女子」は、東レアローズがアツい。
皇后杯のためリーグは12月6日の週で中断しているが、そこまで13戦全勝。
リーグ無敗の東レを牽引する石川(左)と黒後(右)
女子バレーの名門・下北沢成徳高校の先輩後輩でもある2人。黒後は、高校3年時に主将を務めて春高バレー連覇を果たし、東レに加入して今季で4年目。対する2年目の石川は、男子代表の絶対エース・石川祐希の妹で、代表デビューとなった昨年のW杯では堂々たる活躍を見せた。
この2人を含めてチームが好調なのは、今季から指揮を執る越谷章監督のもと、チーム戦術やシステムが変わったことが影響している。
現在の東レにも、その"色"が出ている。
まず攻撃は、9mのコート幅いっぱいに使い、レフト、ミドル、ライトの選手が同時に仕掛ける。ミドルの選手が相手ブロックを引きつけ、空いたところに黒後や石川が素早く内側に切り込んで打つことも多い。すばしっこい黒後と石川に気を取られると、大砲のヤナ・クランが強打を決める。
皇后杯の準決勝で東レに0-3で敗れた、岡山シーガルズの主将・川島亜依美も、東レの攻撃について「黒後選手や石川選手の巧さのあるスパイクに目が慣れていない。東レさんの攻撃はこちらの想像を超えることが多く、焦ってしまう部分がありました」と舌を巻いた。
石川は今の戦術について次のように語る。
「複数の選手が絡む攻撃はチーム全体の戦術ですから、積極的に参加します。私は身長がそんなに高くない(173cm)ので、相手ブロックをどうかわすかは死活問題。
石川の得意な攻撃のひとつに、兄・祐希を彷彿とさせるフォームから繰り出される、超インナーに打つクロススパイクがある。高校時代、兄からLINEでスパイクについて細かくアドバイスをもらっていたことから似たのだろうが、打ち方は練習から強く意識しているという。「今は捻りを使った打ち方を心がけている」そうで、「(スパイクは)昨シーズンよりもよくなっていると思います」と手ごたえを掴んでいる。
進化したのはスパイクだけではない。石川は昨年のW杯で奮闘した、日本男子チームの試合を見て「サーブを自分の武器にしなければいけない」と強く思ったという。もともと効果的なサーバーだったが、ミスも多かっただけに「体重を乗せたサーブを、ミスなく安定して打てるように(練習で)本数を多くした」と磨きをかけた。
石川のサービスエースでの得点は、現時点でリーグ4位の10点。皇后杯でも対戦相手のサーブレシーブを崩すシーンがたびたび見られるなど、早くも強力な武器にしつつある。
一方のチームの守備面については、ボールを簡単にコートに落とすことがなくなった。単純にサーブレシーブ、スパイクレシーブの質が上がったこともあるが、数字に表れていない「つなぎ」の部分が昨季よりも格段によくなっている。チームの新主将である黒後も「(現役時代に守備がよかった)越谷監督の影響ですね」と笑顔を見せた。
今の越谷体制になるにあたって、主将に任命された22歳の黒後。
「いろんな思いがあって(越谷監督が)私を主将に任命してくださったので、その思いをしっかり受け止め、チームをまとめています。ただ、『誰かのように』といったことは考えないようにしています。ありのままの自分で、自分らしい主将像を持って、いいところを出していきたいです」
黒後は昨季、レフトアタッカーからセッター対角(ライトアタッカー)に回った。それでも「もともと私は、ライトのほうが好きなんです」と、あっけらかんと語る黒後だが、レフトとライト、どちらから打つのがメインになるかは、今後の選手人生を左右する。
代表でも、守備の要だった新鍋理沙が引退して以降、ライトを誰が務めるのかは不透明。
そのライト候補のひとりである黒後は、もともとパワーのある選手だが、今季は攻撃に速さが加わった。総得点ではクランや石川に後れを取っているものの、課題でもある守備面、快進撃を続けるチームを牽引するメンタル面の成長も感じられる。
チームとしての目下の目標は、もちろん皇后杯決勝で待つJTマーヴェラスに勝っての日本一。準決勝を勝利したあと、石川が「もちろん優勝は目標ですが、それを意識しすぎず、自分たちのプレーをしっかり、思い切りやりたい」と意気込みを語れば、主将の黒後も次のように気を引き締めた。
「今季はリーグ戦でも一度対戦して、その時は勝っていますが、だからこそJTさんには『次は勝ちたい』という気持ちがあるはず。それ以上の気持ちを、自分たちがコートの中で表現しなければいけません」
さらにその先にはリーグ優勝も見えてくる。2シーズン前にはファイナルまで進んだものの、久光の精度の高いバレーに屈した。しかし今季は、若きエース2人と共に進化を見せる東レが、2011-12シーズン以来の栄光を手にするまで突っ走るかもしれない。