『特集:We Love Baseball 2021』

 3月26日、いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将大を筆頭に、捲土重来を期すベテラン、躍動するルーキーなど、見どころが満載。

スポルティーバでは2021年シーズンがより楽しくなる記事を随時配信。野球の面白さをあますところなくお伝えする。

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 荒削り──紅林弘太郎の魅力について、そんな表現をよく耳にする。「よくも悪くも荒削り」という評価は、紅林の持つポテンシャルの高さと、その反面、穴が多い危なっかしさとの共存を物語っている。

 それも当然だろう。甲子園に一度も出場したことがない、静岡の駿河総合高校から入団した高卒2年目の19歳。

甲子園の常連校で揉まれた選手たちとは、くぐってきた修羅場の質は違うはずだ。プロフィールだけを見れば即戦力からはほど遠い、それでも圧倒的な素材型だからこそドラフト2位で指名された大型内野手は、プロ1年目、ファームで12球団トップの打席数を与えられた。

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オリックスの高卒2年目、期待の紅林弘太郎

 そんな期待の高さから2年目となるこのオープン戦、紅林は16試合、フル出場を果たしている(51打数9安打、ホームラン1本、12球団最多の19三振、打率.176)。その手応えと課題について、彼はこう話していた。

「2月のキャンプの間の1カ月はすごくいい感じで僕も納得できていたんですけど、オープン戦に入ってからはいろいろな課題が見えてきたと思っています。実戦ではまだまだやることがいっぱいあるなぁと感じているところです」

 2月9日の紅白戦でインコースの真っすぐをうまく捉えて、清武のレフトスタンドへ"2021年チーム第1号"を叩き込むと、2月19日の紅白戦でもやはりインコースのストレートをレフトスタンドへ運ぶ。

 今季初の対外試合となった2月23日、清武で行なわれたマリーンズ戦では岩下大輝からライトスタンドへ、南昌輝からはセンターへ、2打席連続でいずれも3ランホームランを放ってレギュラー獲りをアピールした。しかし3月、オープン戦に入ってからは思うような結果が残らない。

「2月に打っていたのは真っすぐ系のボールばっかりで、とにかく速い球を思いっ切り弾き返していけたんですけど、オープン戦に入ってからは変化球が多くなってきて、苦戦している感じです。変化球のことを意識しすぎると真っすぐも強く弾き返せなくなるというか、どんどん深みにはまって、悪いほうへいってしまう。それは自分でもわかっているので、何とか試合のなかで経験して、修正していけたらと思っています」

 プロ1年目の昨年、紅林はウエスタン・リーグの試合に出続けた。高卒ルーキーながら開幕から"1番、ショート"でスタメン出場を果たし、以降、すべての試合に名を連ねたのだ。

試合に出ている分、打席数が多くなることもあってヒットの数を順調に伸ばし、いったんはファームでの最多安打のタイトルが視野に入ってきた。しかし、最終的にはカープの2人、小園海斗と林晃汰の後塵を拝する。紅林は言った。

「2軍とはいえ、試合に出続けたんですからタイトルは獲りたかった。最多安打を目指したんですけど最後に届かなくて、それは悔しかったですね。高校野球と違って、毎日、試合があって、毎日、結果を残さないといけない。

一日にヒット1本、と思ってやってきましたけど、それがすごく難しいことで、あのアウトがヒットになっていたら、と悔いが残る打席がいっぱいありました」

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 それでも昨年のシーズン終盤には1軍へ昇格、11月3日のイーグルス戦に紅林は"8番、ショート"として初出場を果たす。

 そしてプロ初打席で則本昂大のストレートをセンター前へ打ち返し、プロ初ヒットを記録した。その翌日には涌井秀章からレフト前へタイムリーを放ってプロ初打点を記録するなど、紅林は1軍で5試合に出場して4本のヒットを放ち、充実のプロ1年目を締めくくった。

「去年1年間、プロの世界でプレーしてみて一番に感じた課題というのは、自分のスイングがまったくできなかったこと、それと長打が打てなかったことでした。ファームでずっと試合に出してもらったんですけど、毎日の試合のなかで、捉えたはずの打球がフェンスの手前で失速したり、ホームランだと思った打球がフェン直(フェンス直撃)止まりだったり......『えっ、これが行かないのか』という打球がけっこうあったんです。疲れもあったし、もちろんパワーが足りてないこともあったと思いますけど、とにかくそれが悔しくて、どうやったらもっと打球を遠くへ飛ばせるのかと、そればっかり考えていました。

 オフになったら自分のバッティングを見直さなきゃと思ったんです。もともと僕の長所は長打を打てるところだったのに、なぜプロでは大きな当たりを打てなかったのか......思い当たったのは、打球にいい角度がついていなかったなということでした。だったらバッティングフォームを変えてみようと思って、このオフはずっと打球が上がるようにいろんな形の試行錯誤を続けてきました」

 あれこれ試した結果、紅林がイメージしたのは、同じ背番号24をつけた憧れのメジャーリーガーの迫力あるバッティングフォームだった。

「完成形はミゲール・カブレラ(デトロイト・タイガースの右バッターで2012年にはMLBの現役で唯一の三冠王を達成)です。ああいう力感で打球を飛ばせるフォームをイメージしました。見た目、ヒジが上がっているところが目立ちますけど、ヒジを上げるというより、打ちにいく時に右ヒジをグッと締めるための距離を取ろうとすると、結果的に右ヒジが上がった形になるんです。

バットを出す時に右ヒジを右の脇にぶつける感じで締める、その力を最大にするためには距離があったほうがいいし、その距離が長ければ長いほどバットのヘッドが走ります。そのためにああいう構えになりました」

 右ヒジを高々と上げる"フライング・エルボー"は、紅林に本来の飛距離を取り戻させた。ショートでの開幕スタメンを目指して2月に打ちまくった紅林に対し、ショートの名手、安達了一が3月5日、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性判定を受ける。3月16日には2軍の練習に合流したものの、10日間の隔離期間を過ごすなど出遅れは否めず、開幕出場は絶望的となってしまった。

 そんな状況下、もし開幕戦で19歳の紅林がスターティングラインアップにショートとしてその名を連ねれば、1956年に河野旭輝(あきてる)が21歳で開幕ショートを守った記録を上回る、史上最年少の球団記録となる。紅林はこうも言った。

「これまでやってきたのは、常に自分が一番上にいる野球でした。でもプロに入ったらレベルが桁違いで、自分が一番下なんです。誰よりもヘタだと感じながらやる野球は初めてでしたし、それがこんなに悔しいものなのかと思いました。でも僕は、高校生になってプロを目指そうと決めた時から、コツコツやっていけば絶対にいい方向へいくと思って毎日を過ごしてきました。何でもいいから毎日コツコツと、小さなことでもやっていく。

 もともとコツコツやるのは苦手なタイプですけど(苦笑)、それでは生き残れない世界なので、ヒットを打った、打たないに関係なく、いい日も悪い日も毎日、試合後にはバッティングをしようと決めてやってきました。今も調子が悪くなって結果が出なくなってくると、バッティングが小っちゃくなってしまいます。結果が欲しくなって、どんどん悪い方向へ転がってしまうんです。そんな時でも、中嶋(聡)監督はいつもそこを指摘して、試合に入ったら切り替えて思い切って振っていけ、と言ってくれます。だから、いいイメージを持って、コツコツやってきたことを信じて、試合では思いっ切り振っていきたいと思っています」

 高卒2年目にブレイクした1994年の松井秀喜は全130試合に出場して、打率.294、ホームラン20本の記録を残した。1991年に高卒2年目だった前田智徳は129試合に出場、打率は.271、ホームランが4本。2008年の坂本勇人は全144試合に出場し、打率.257、ホームラン8本を打っている。2014年の大谷翔平はピッチャーとして11勝をマークしている分、単純な比較がしにくいものの、バッターとして87試合に出てホームラン10本、打率.274という数字を残した。2015年の森友哉は138試合に出て、打率.287、ホームラン17本、2019年の村上宗隆は全143試合に出て、打率.231ながらホームランを36本放った。

 さて、高卒2年目の紅林はどうだろう。期待を集める同学年のブレイク候補はほかにもいる。それがベイスターズの森敬斗(桐蔭学園)であり、イーグルスの黒川史陽(智辯和歌山)やタイガースの井上広大(履正社)であり、ドラゴンズの石川昂弥(東邦)もそうだ。紅林に「誰のことをライバルだと思っているか」と訊くと、彼はこの名前を挙げた。

「一番は中日の石川です。彼は甲子園で優勝を経験していますし、僕は高校時代、そういう道を歩んでこなかった。ドラフトでも僕は2位で石川は1位ですし、去年のウエスタン・リーグでも石川は3割近い打率を残していました(リーグ5位の.278、紅林は14位の.220)。だからこそ、プロの世界では甲子園もドラフトの順位も関係ないということを僕は彼に勝つことで示したいんです」

 目指すは、大阪の"ロマン砲" ──紅林はバファローズのど真ん中でホームランを量産しようと、高卒2年目でのブレイクを見据えている。