川崎フロンターレACLウズベキスタン紀行@01

 史上最多40クラブが参戦するAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2021の東アジア地区グループステージが開幕した。Jリーグクラブが戦う東アジア地区は新型コロナウイルスの影響により、当初の4月開催から6、7月に延期。

会場も集中開催に変更され、川崎フロンターレとガンバ大阪はウズベキスタン、名古屋グランパスセレッソ大阪はタイで戦うことになった。Jリーグで圧倒的の強さを見せる川崎の選手たちが異国の地でどんな日々を送っているのか、ウズベキスタン遠征をレポートする。

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川崎フロンターレ、ACLぶっつけ本番遠征の舞台裏。谷口彰悟「...の画像はこちら >>

谷口彰悟にウズベキスタンの現地状況を語ってもらった

 現地6月26日、ACLグループステージ第1節に臨んだ川崎フロンターレは、大邱FC(テグ/韓国)に3−2で勝利した。

 8分に先制点を許した川崎は、29分にPKを与えて窮地に立たされたが、GKチョン・ソンリョンが相手のシュートを止めてチームを救うと、40分にレアンドロ・ダミアンが得意のオーバーヘッドを決めて追いつく。後半立ち上がりにも失点したが、再びレアンドロ・ダミアンのゴールで追いつくと、55分には左CKからジョアン・シミッチが決勝弾をマークした。

 2度もリードを許すなど苦しい展開だったが、グループ最大のライバルと目される大邱FCに初戦で勝利した結果は大きい。

 中2日で試合が進むACLは、まさに総力戦で戦うことになる。選手全員で開催地・ウズベキスタンに乗り込んだチームの行程や現地での状況を、キャプテンである谷口彰悟とマネージャー(主務)の清水泰博に現地から語ってもらった。

 集中開催で行なわれるAFCのグループステージを戦うため、川崎は6月19日に日本を発って開催地のウズベキスタンに入っている。谷口彰悟がタシケントでの生活について教えてくれた。

「正直、ストレスを感じるようなことは今のところないですね。タシケントは町並みも綺麗ですし、ホテルでの暮らしも日本の遠征の時とそれほど変わらない印象です。

食事に関しては今回、日本代表でも専属シェフをされている西芳照さんが帯同してくれ、いろいろと料理を作ってくれています。スポンサーの方々からも食品や物資を協賛してもらっているおかげで、食生活においてもストレスなく過ごせています」

 出発前まではまったく情報がなかっただけに、「最悪のケースや環境も覚悟していた」と谷口は苦笑いする。

「僕ら選手もマネージャー(主務)の清水(泰博)さんに『現地ってどんな感じなんですか?』とか『ホテルにこれはありますか?』と聞いていたのですが、『しらん!(笑)』と言われていました。それもあって選手たちもいろいろと準備してきましたが、思っていた以上に快適に過ごせています」

 主務の清水泰博に聞けば、やはり「開催地決定から準備期間が短く、情報が何もなかったことが大変でした」とうなずく。集中開催方式になることは事前にわかっていたが、AFC(アジアサッカー連盟)からタシケントでの開催が発表されたのは5月10日のこと。そこから出発までわずか1カ月ほどで準備を進めなければならなかった。

清水は言う。

「これまでならば、ACLで海外遠征に行く際には現地に下見に行き、ホテルや練習場、スタジアムを視察していたのですが、コロナ禍に加え、開催地決定から試合日までの期間が短かったこともあって、下見に行くことができなかったんです。下見に行ったとしても、その後の隔離期間などを考えると、得策ではなかったので。

 ほかのクラブが行ったことのある土地ならば、情報収集もできましたが、今回はそれもありませんでした。事前にホテルとコンタクトが取れていれば、違った準備もできたのかもしれませんが、なかなか連絡が取れず、AFCの人に会うのもこちらに着いてから、という状況でした。

 だからもう、ぶっつけ本番ではないですけど、チームとしてできるかぎりの準備をしながら、あとは着いてからの勝負だという感じで旅行会社とも話をしていたんです」

 ACLに臨むに当たり、最初のハードルとなったのが移動手段だった。

再び清水が言う。

「まずは、移動の手段をどうするのか、というところからのスタートでしたね。タシケントへは日本からの直行便がなく、通常便で行けばトランジットも含めて2日くらいの移動時間が掛かる。経由先としてはインドやトルコ、もしくは韓国ということでしたが、長ければトランジットで10時間以上も待つ可能性があるということでした」

 経由すれば、それだけ新型コロナウイルス感染症のリスクを負うことになるし、移動時間が長くなると選手のコンディションにも影響を及ぼすことになる。時間はないまでもベストを尽くす。クラブは手段を模索した。

「費用面のこともあるので、通常便で行った場合はどのくらいの費用がかかるのか。チャーター便を手配した場合はどのくらい費用に差額があるのか。その確認から始めました」

川崎フロンターレ、ACLぶっつけ本番遠征の舞台裏。谷口彰悟「最悪のケースや環境も覚悟していた」

チャーター機のなかでくつろぐ旗手怜央

 滞在期間は3週間にもなる。集中開催ということもあり、チーム全員で乗り込むため、かなりの荷物になることが想定された。

「昨年コロナ禍でACLに参加したほかのクラブにも、事情や情報をヒヤリングさせてもらいました。荷物にしてもかなりの量になります。

通常便で行けば、超過料金を取られることはわかっていたので、チャーター便を手配したほうが、その費用は抑えられることになる。

 いろいろな物差しで比較していった結果、チャーター便を手配したほうが、メリットが大きいのではないかという結論に至りました。そのタイミングで、同じくウズベキスタンで試合をするガンバ大阪さんもチャーター便で移動する話に乗ってきてくれたので、それならばチャーター機をシェアしましょうということになりました」

 そこから航空会社を探してJALに決定すると、機体の大きさを相談した。川崎だけでもスタッフも合わせ総勢55人の大移動だった。

 さすが、と言うべきだろう。在籍8年目でキャプテンを務める谷口は、そのあたりも把握していた。

「ウズベキスタンへは直行便がないという話は聞いていました。だから、当初はトランジットしなければならないとも言われていたんです。でも、結果的にチャーター機を手配してくれたので、移動の疲れやコンディション面は全然、違いましたね。

 ガンバと一緒の飛行機だったので、席も半々で、全員がビジネスクラスに乗れたわけではなかったのですが、それでも半日で現地入りできたので、いつものACLの遠征と比べても移動の負荷はなかったと思います。

 フロンターレは年長者から順にビスネスクラスの権利を与えてもらったので、自分はビジネスに座ることができて、この時ばかりは年長者でよかったなと思いました。ちょっと若手選手やスタッフには申し訳なかったですけどね(苦笑)。ただ、若手選手もキツキツに座るというのではなく、窓側2席を使うなど余裕を持って移動できたので、それだけでも疲労は違ったと思います」

 話を聞いていて驚いたが、ACLの遠征は必ずしもビジネスクラスで移動していたわけではなかったという。韓国や中国といった比較的、移動距離が短い時や、ビジネスクラスが確保できないときには、エコノミーに座って移動したことがあると、谷口は教えてくれた。

「それだけに、チャーター機を手配してくれたクラブの取り組みには感謝しています。そのおかげで移動のストレスをほとんど感じることもなく、ウズベキスタンに入ることができましたからね。こっちに着いてからのトレーニングに臨む姿勢も間違いなく変わってくる。

 加えて、早くこちらに入ることができたので、徐々に身体を動かしながら試合に向けた準備もできています。そうした取り組みのおかげで、僕ら選手はサッカーに集中できていることを感じます」

 荷物は約190個にも及んだ。タシケントに到着してから、バスに積み込む作業をチーム全員で手伝ったという谷口は「こんなに何が入っているんだろうと思いましたよ」と笑う。

「選手の荷物はスポンサーの『VICTORINOX』からひとり1個、スーツケースを提供してもらっていて、それに思い思いのものを入れているので、どれもめちゃめちゃ重たかったです(笑)」

 何を持ってきたのかを清水に聞けば、「食料品がかなりの量を占めています」と言う。

「スポンサーの方々にお願いしたりして、かなりの量を協賛してもらいました。期間が3週間ということで、足りなくなることだけは避けたかったので、これというものを数多く揃えたり、支援してもらったりしました」

 現地での生活については、次回のコラムで詳しく触れるが、全選手を含む、総勢55人で乗り込んだことによる一体感は大きい。キャプテンとして谷口が語ってくれた。

「川崎に残っている人もいますが、ほぼ全員でウズベキスタンに来ることができ、全員で過ごして、全員で練習して、全員で試合に臨む。すごく心強いですよね。準備にしても、いつもの練習場でトレーニングしている状況に近い準備をしてもらっています。

 そういった意味では、チーム全員で戦いに来ているという雰囲気が出しやすい。支援してくれたスポンサーの方々も含め、こっちに来ている人たちだけでなく、『チーム川崎』で戦っているという雰囲気を感じられています」

川崎フロンターレ、ACLぶっつけ本番遠征の舞台裏。谷口彰悟「最悪のケースや環境も覚悟していた」

東京五輪メンバーに選ばれて取材を受ける三笘薫

 6月22日には三笘薫と旗手怜央が東京五輪に臨むU−24日本代表に選ばれ、チームみんなで祝ったという。

「発表がちょうど、朝食を食べるくらいの時間だったので、そこで薫と怜央、あとは(田中)碧が選ばれたことを知って、チームメイトとしてもうれしかったですね。薫と怜央はその場でひと言ずつ、抱負を述べてくれました。五輪代表に選ばれたことはよかったなと思いますし、ACLの舞台はその五輪に向けて、彼らにとってもいい機会になるのではと思っています」

 多くの人たちのサポートを受けて戦っていることを感じるからこそ、大会に臨む谷口の語気も熱を帯びる。

◆U−24代表でも注目のフロンターレ旗手怜央。「頭の中がぐちゃぐちゃ」からSB挑戦で新境地>>

「僕らは旅行に来ているわけではなく、ここに戦いに来ている。勝たなければ意味がないですし、そこへのこだわりは強く持って戦いたいと思います。

 一方でACLは、そんなに簡単にいく大会ではないとも思っています。必ずしも、自分たちのサッカーができるとは限らない。いろいろなことを想定しながら戦わなければいけないと考えています」

 3週間でグループステージ6試合を戦う。川崎がアジアの頂点を目指す戦いがスタートした。

(つづく)