F1第14戦イタリアGPの舞台は、世界屈指の超高速サーキット「モンツァ」。史上最多の71回目を数えるグランプリ開催を迎えた。

 スロットル全開時間は78%に達し、単独走行でも最高速は340km/hを超える。前走車のトウに入り空気抵抗を減らしたマシンは、優に360km/hを上回ることになる。

レッドブル・ホンダは苦手モンツァで勝利なるか。角田裕毅はF3...の画像はこちら >>

角田裕毅にとってモンツァは走り慣れたサーキットだ

 そんな超高速サーキットは、常に非力なパワーユニットを搭載するレッドブルが苦手としてきた場所だ。

「去年までに比べれば今年の僕らがコンペティティブであることは間違いないけど、それがメルセデスAMGと戦うのに十分かどうかはわからない。ここに来る前に宿題はしっかりとこなしてきたつもりだけど、実際に走ってみるまではなんとも言えないね。でも、少なくともザントフォールト(第13戦オランダGP)の時のような勢力図にはならないと思うよ」

 レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは慎重にそう語るが、同じように最高速が決めてとなるスパ・フランコルシャン(第12戦ベルギーGP)では、ウエットコンディションで勝利を収めた。

 タイトルを争うルイス・ハミルトンも、ホンダの進歩によって、もはやメルセデスAMGにほかを圧倒するような優位性はないと見ている。

「今週末は先週と違った勢力図になればと期待しているけど、今年のホンダエンジンは間違いなく僕たちに追い着いてきているし、長いストレートのあるモンツァでも彼らは極めて速いと思う。かなりの接戦になるだろうね」

 最高速とパワーユニットだけが注目されがちだが、もう何年も前からモンツァを速く走る方法論は「コーナーを速く走ること」へと移行している。もちろんストレート車速を大幅に失うことなく、4つもある時速200km/h前後の中高速コーナー、そして2つのシケインでタイムを稼ぐのがセオリーだ。

 昨年264.326km/hというF1史上最速の平均時速を記録したハミルトンの予選ポールラップも、まさにそうだった。最高速は中庸、しかしコーナリング速度が他を圧倒していた。

「超高速サーキットですが、パワーユニット側の性能だけでなく、シケインなどもありブレーキングとマシンバランス、ハンドリングも重要なサーキットです。そのなかで今年から導入されたスプリント予選が実施されるということで、FP1できちんとセッティングを煮詰めて持てるハードウェアの実力を最大限に発揮して、予選、スプリント予選、決勝に向かわなければなりません」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。

 マシン側で最高速とコーナリング性能のせめぎ合いをすれば、それによってストレートでの空気抵抗もスロットル全開率も変わり、パワーユニットのセットアップも変更を要求される。回生できるエネルギー量と、使いたいエネルギー量が大きく違ってくるからだ。

 それに加えて、今週末は第10戦イギリスGPに続いて史上2度目となるスプリント予選方式が導入される。

 決勝の3分の1にあたる18周の予選レースが土曜日に行なわれ、タイムアタックによる予選は金曜の夕刻に行なわれる。

予選後は基本セットアップを変更することができず、つまり60分間のフリー走行のみでセッティングを決めなければならない。

 アルファタウリ・ホンダの角田裕毅にとって、モンツァはFIA-F2とFIA-F3で走り慣れたサーキットであり、後者では勝利も収めている験のいいサーキットだ。しかしF1となれば話は別で、本来ならば3回のフリー走行で走り込んでから予選に臨みたいところだった。

「スプリント予選自体はいいフォーマットだと思いますし、今回はオーバーテイクが多く見られるのかDRS(※)トレインで抜けないのかわかりませんが、エキサイティングなフォーマットであることは確かなので、楽しみにしています。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 しかし、今はできるだけ多くの周回を走り込みたいと思っていますので、もう少しマシンやサーキットのことを学び、モンツァでF1マシンがどんな挙動を示すのかを知りたい気持ちのほうが強いですね。F2やF3ではたくさん走ってきましたが、F1がどんな挙動なのかは学ぶ必要がありますから」

 角田がオランダGPから導入した、ラップごとに意識して走り、焦ることなく自信をビルドアップしていくというアプローチ方法は、このイタリアGPの週末にはうまく生かすことが難しそうだ。

 それでもアルファタウリにとっては地元グランプリであり、昨年はピエール・ガスリーが勝利を収めたレースだ。今年もいつも以上の結果を期待しないわけにはいかない。

「モンツァに来るのは昨年のあの時以来初めてだけど、今朝トラックウォークをしているだけでも、レースをリードしていた時のこと、あの時の気持ち、スピードを思い出したよ。すごくワクワクしているし、チーム全体も今週末に向けてやる気に満ちているんだ。

チームにとってホームレースだし、僕もここから15kmのところに住んでいるしね。とても特別なレースだよ」(ガスリー)

 オランダGPでは中団トップの4位を堅守し、予選でも毎回驚異的なパフォーマンスを発揮しているガスリーだけに、このイタリアGPに期すものは大きい。

「去年はコンペティティブだったし、ここ数戦はとてもうまくいっているので、今週末もかなりいい位置につけられると自信を持っている。モンツァはほかとかなり違った特性のサーキットだけど、ここでもいいパフォーマンスを発揮できると信じているよ」

 たった60分間のフリー走行でライバルたちの最高速を睨みながら最適なマシンセットアップを見つけること。そして、それに合わせてパワーユニットのエネルギーマネジメントを最適に合わせ込むこと。ドライバーもそれに適応すること。

 それらが初日からぶっつけ本番に近い予選で試され、土曜にはスプリント予選という名のレースでも試される。

 ストレート主体のモンツァとはいえ、各車がDRSを使いスリップストリームに入った状態ではその効果がないのと同じで、誰もオーバーテイクができなくなる。スプリント予選でも決勝でも、そんな懸念がなされている。

「抜けるかどうか、それはわからない。モンツァはストレートが多いのは確かだけど、今のF1マシンは前走車をフォローすることが極めて難しいんだ。去年もDRSトレインにスタックしてしまったし、そうなれば、すべては隊列をリードするマシン次第になってしまう。

 ポジティブなサプライズがあることを願いたいし、戦略でどうにかできればいいと思う。一番いいのは、ほかのクルマをオーバーテイクしなくてもいいポジションにつけることだけどね」(ガスリー)

 予選でトップに立てれば、抜けないサーキット特性はむしろ味方になる。

 レッドブル・ホンダは苦手とし続けてきたモンツァで勝利を収めるのか。アルファタウリ・ホンダは昨年に続いて好走を見せるのか。

 イレギュラーだらけのイタリアGPが幕を開ける。