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大相撲・外国人力士物語
第9回:豊昇龍(3)

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名古屋場所(7月場所)で10勝5敗の好成績を挙げ、初めての三賞、技能賞を受賞したモンゴル出身の豊昇龍。元横綱・朝青龍の甥として注目を集め、2018年1月にデビューすると、とんとん拍子に出世し、この秋場所(9月場所)では幕内の前頭筆頭まで番付を上げてきた。

モンゴルで過ごした少年時代、相撲ではなく、柔道レスリングに打ち込んでいたという、22歳の若手力士の横顔とともに、叔父とのエピソードに迫る――。

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 初めて序ノ口に番付が付いた2018年の春場所(3月場所)でも、一緒に初土俵を踏んだ納谷との対戦がありました。2勝同士でぶつかって、またも負け。この1敗のせいで、優勝できなかった。結局、この場所の優勝は7戦全勝の納谷でした。

 だからこそ、序二段で迎えた次の夏場所(5月場所)では「(納谷には)絶対負けたくない!」と思っていたのに、対戦はなし。

7戦全勝で優勝することはできたけど......。

 納谷との3回目の対戦は、9月の秋場所でした。この場所、僕は幕下の下のほう(56枚目)で3勝3敗。7番相撲で迎えた相手が、同じく3勝3敗の納谷でした。この相撲に勝ったことで、僕は幕下に残留して、納谷は三段目にUターンということになりました。

 この頃は、1日でも早く十両に上がりたいという気持ちだけでした。

だから、師匠に許可を得て、所属する立浪部屋の稽古だけじゃなく、他の部屋に泊まり込みで稽古に行ったり、それとは別の部屋の合宿にお邪魔させていただいたり、いろいろなタイプの力士と稽古を積みました。

 僕、実は序ノ口から8場所連続で勝ち越してるんですよ。でも、幕下2枚目で十両昇進にリーチがかかった2019年名古屋場所では、5勝あるいは4勝を挙げれば、関取になれるという地位だったんですが、3勝4敗と負け越してしまった。

 4敗目を喫した時は本当に悔しくて、無意識のうちに拳を土俵に叩きつけていたみたいですね。以前はそんなふうに、感情がよく表に出てしまったようです(苦笑)。会場やテレビで見た方は、「怖い」とか「感情の起伏の激しい力士だな」と思われたかもしれませんね。

 次の秋場所の番付は、幕下5枚目。勝負はまたしても7番相撲に持ち込まれたのですが、なんとか4勝3敗と勝ち越し。普通、5枚目で4勝では昇進は難しいみたいですが、十両に上がれたことはラッキーでしたし、こうした運を大切にしていかなければ......と思いましたね。

 2019年の九州場所(11月場所)、一緒に新十両に昇進したのは、埼玉栄高相撲部出身の琴手計改め、琴勝峰。身長189cm、体重159kgと体に恵まれていて、高校時代から目立っていました。同じ年齢で、新弟子検査を受けたのも同じ2017年の九州場所。

その当時から意識していた相手だけに、「負けられない!」という気持ちが強かった。

 それなのに......。3日目に琴勝峰と対戦して負けちゃった。それから彼は、すぐに幕内に上がって大活躍するんですが、今は(十両で)ちょっとスランプなのかな? 基本的に彼は人見知りなんだけど、僕にはいろいろ話かけてくる、いい仲間でもあるんです。

 僕が新十両に上がった場所、再十両を決めたのが、部屋の兄弟子、天空海関でした。部屋のいろいろなルールを教えてもらった兄弟子と一緒に十両の土俵に上がれるのは、うれしかったです。

 そして、十両4場所目となった2020年七月場所(注:新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、東京・両国国技館で開催)、夢のような出来事が起こったんです。

 この場所、僕は14日目を終えて9勝5敗。千秋楽で4敗のふた力士が敗れたことで、5敗の6人で優勝決定戦を争うことになったのです。

 その6人のうち、3人が立浪部屋。幕内から十両に番付を下げていた明生関と、天空海関と僕。2人の兄弟子とは、場所前「3人で優勝決定戦ができたらいいね」なんて、冗談を言っていたんですが、まさか本当にそうなるとは......。

 決定戦は、立浪部屋の3人が各々1回戦を突破して、3人での巴戦に持ち込まれました。結果は、実力どおり明生関の優勝となりましたが、優勝を決めて戻ってきた明生関と握手して......。部屋も盛り上がったし、立浪部屋に僕たちがいることを相撲ファンの皆さんにわかってもらえたのも、よかったと思います。

 この場所、十両で初めてふた桁(10勝)を挙げたこともあって、翌秋場所には新入幕が決まりました。そこから、8勝、7勝、9勝、8勝、7勝という成績が続いて、「さすがに幕内の土俵は厳しいなぁ」と実感しました。

「モンゴル出身力士だから強いわけじゃない」豊昇龍が常に意識していること

相撲界の「テッペン」を目指して、日々奮闘を重ねている豊昇龍

 コロナ禍の今は、出稽古に行けないというのも厳しいですけど、考えてみれば力士はみんな同じ条件ですからね。与えられた環境のなかで、なんとか自分なりに稽古を積んでいるというところです。だから、名古屋場所でのふた桁勝利と技能賞は、本当に自信になりました。

 場所後に部屋が都内(台東区)に引っ越したんですよ。以前の立浪部屋は、茨城県つくばみらい市にあって、自然がいっぱいで環境は抜群にいいのですが、近くに出稽古に行ける部屋がなかった。両国周辺なら、ある部屋に力士が集まって稽古することができるので、別の意味で環境がよくなったのかなと思います。

 今、「負けたくない」相手は、春場所・夏場所の2場所連続で技能賞を獲った若隆景関ですね。名古屋場所では、ひと足早く新三役に上がって、ずっと勝てなかった相手です。

 そんな相手に、名古屋場所で初めて勝てました。若隆景関って、体は僕と同じくらいなのに、力が強くて、しぶとい。僕と似たようなタイプなんです。この時は、上手でも下手でもまわしを取りたいと思っていたけれど、先に上手まわしを引かれてしまって......。だけど、結果的に組み留めることができたので、そこから思いきって下手投げを打ったんです。

 今回は勝ちましたけど、これからもライバルとして意識する存在です。出稽古に行けるようになったら、真っ先に(若隆景の所属する)荒汐部屋に行きたいですね。

 秋場所、新横綱として土俵に上がっている照ノ富士関には、伊勢ヶ濱部屋の合宿に参加させてもらった時、稽古をつけていただいたんです。横綱がケガで下に落ちている頃だったんですが、大関に復帰し、さらに上の横綱に昇進されるとは、尊敬するばかりです。

 よく「モンゴル出身力士は強いですね」と言われることがありますが、外国出身だから......とか、そういうのってないと思いますよ。

 国籍がどうあれ、同じ人間じゃないですか? モンゴル人が強い、外国出身力士が強いってことじゃなく、本場所の土俵に上がるまでに、どれだけ稽古したか――。稽古を十分にしていたら、ビビったりすることは何もないんです。

 それと気持ちです。気持ちで負ければ、相手に勝てるわけがない。僕が意識しているのは、「気持ちでは、誰にも負けないように」ということです。

 今は体重が140kgくらいになりましたが、幕内力士の中では、まだまだ小さいほうなんで、どうやったら相手に嫌がられる相撲を取るかということを考えていますね。そして、目指すのは「テッペン」です。

 力士になって4年。おかげさまで、応援してくださる方も多くなって、そういう人たちに喜んでもらうために頑張ろうとも思います。だから、負けた時は誰よりも悔しいし、勝った時は誰よりもうれしくなるんでしょうね。

 今場所は、急性扁桃炎で3日間の休場という経験もしました。休んでいる間は「早く出たい!」という気持ちばかり。復帰2戦目でライバルの若隆景と対戦して、一本背負いで勝てた時は本当にうれしかったです。

 どうですか? 僕、見かけよりも、怖くないでしょ?(笑)

(おわり)

豊昇龍智勝(ほうしょうりゅう・ともかつ)
本名:スガラグチャー・ビャンバスレン。1999年5月22日生まれ。モンゴル出身。立浪部屋所属。抜群の身体能力と多彩な技で相撲ファンの期待を集める。第68代横綱・朝青龍は叔父にあたる。好きな食べ物は肉。2021年秋場所(9月場所)の番付は東前頭筆頭