現地時間9月26日に行なわれたギリシャ・スーパーリーグ第4節PAOK対AEKアテネ戦。上位対決として注目されたその試合のピッチに、香川真司の姿はなかった。

 PAOKの香川が最後にプレーしたのは、リーグ開幕戦のヤニナ戦(9月13日)。1トップ下で先発出場を果たし、後半61分にルーマニアのアレクサンドル・ミトリツァ(26歳)と代わってベンチに下がった。

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香川真司が活躍する姿を早く見たい

 ところがホームでの開幕戦を0−1で落としたあとは、第2節アステラス・トリポリス戦、第3節パネトリコス戦と2試合連続でメンバー外となり、4−2−3−1の1トップ下はスリナム代表のディエゴ・ビセスワール(33歳)、ブラジルのドウグラス・アウグスト(24歳)がそれぞれ務めた。

 アウェーで行なわれたその2試合でチームが連勝を飾ったうえ、今シーズンからスタートした新たなヨーロッパカップ戦のヨーロッパ・カンファレンスリーグでは、香川はメンバー登録もされていない。そんな現状もあり、現地のメディアからは、名将ミルチェア・ルチェスクを父に持つラズヴァン・ルチェスク監督の構想から香川が外れてしまった、との報道も流れ始めている。

 スペイン2部サラゴサとの契約を解除し、心機一転、香川が新天地をギリシャのPAOKに求めたのは今年1月のこと。

しかし負傷の影響もあり、昨シーズンの出場はわずか5試合(先発1試合)。さらに今シーズンは、加入時に指揮を執っていたウルグアイ人パブロ・ガルシア監督が退団し、新たにルチェスク監督が就任したことも、香川にとってはポジティブな材料とは言えない。

 残念ながら、ここまでは思い描いていたような状況にないのが実情で、移籍が囁かれ始めるのも仕方のないことなのかもしれない。

 振り返れば、日本のサッカーファンに躍動する姿を見せてくれた2018年夏のロシアW杯以来、香川のキャリアは暗転してしまい、苦悩の日々が続いている。

 ロシアW杯後、当時所属していたドルトムント(ドイツ)ではリュシアン・ファーヴル監督の構想外となり、冬のマーケットでトルコのベシクタシュに半年間のローン移籍。すると、出場機会が増えたことで2019年3月にはロシアW杯以来となる日本代表に招集され、森保ジャパンの一員として初めてプレー。

コロンビア戦とボリビア戦のピッチに立った。

 ただし、所属のベシクタシュでは終盤戦が近づくにつれてトーンダウン。4ゴールをマークしたものの、プレー時間はそれほど多くなく、終わってみれば出場試合も14試合(先発4試合)に終わっている。

 ようやく香川がトップフォームを取り戻したのは、2019年夏、かねてから本人が望んでいたスペインの地に活躍の場を移してからだ。

 2部サラゴサと2年契約を結ぶと、開幕から好調をキープして加入初年度は34試合(先発25試合)に出場し、4ゴールを記録。プレー時間も1914分に伸ばすなど、2172分を記録した2015−2016シーズン(ドルトムント時代)に近づくほどの充実ぶりだった。

 にもかかわらず、チームが1部昇格プレーオフで敗れたことをきっかけに、またしても香川に不幸が訪れた。2年目の2020−2021シーズン、再び2部での戦いを強いられたサラゴサは、コロナ禍の影響もあって高額サラリーの香川を放出することを決断。さらに外国籍枠の問題も重なり、昨年10月には異例の契約解除という結論に至ったのである。

 そんな経緯もあり、PAOKに加入した香川には期するものがあったはずだ。もちろんそれは、獲得した側のPAOKも然り。チーム随一の実績とネームバリューを誇る香川に対する期待値は、当然ながら高くなる。

だからこそ、批判の的にもなりやすい。

 その香川は、現在32歳。近年のサッカー界を見渡せば、まだ衰えるような年齢では決してない。それに、無所属だった時期においても精力的にフィットネスを鍛え上げ、フィジカルコンディションも一定のレベルをキープしていた。逆に言えば、いい状態を保てていたからこそ、PAOKも香川獲得を決めたはずだ。

 おそらく復調のカギは、周囲が香川に対して持っているプレーイメージと実際のそれとの間にあるギャップを、いかにして埋めていくかにあるのではないだろうか。

 香川がドルトムントで強烈なインパクトを残した2010年から2012年。1トップ下で、相手ボックス内で決定的な仕事を連発した当時のプレースタイルは、ファンはもちろん、多くのサッカー関係者の記憶に刻まれている。攻撃的MFというよりも、FW的。得点に絡むセカンドトップというのが、香川のスタイルだった。

 そのプレーぶりが評価されたからこそ、2012年夏、サー・アレックス・ファーガソン監督が率いるマンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれた。当時のユナイテッドと言えば、誰もが憧れるトップ・オブ・トップのメガクラブ。

日本人選手としては、かつてペルージャからローマに引き抜かれた中田英寿を超えるレベルの画期的大型移籍だ。

 しかし、あれから年月を経て、とくにサラゴサ時代になってからの香川はセカンドトップというよりも、相手ボックス外でプレーするインテリオール(インサイドハーフ)的なプレースタイルに少しずつ変化した。狭いスペースの中でボールを受け、巧みなボールタッチで俊敏性を生かしながらゴールに絡むのではなく、前線から下りてボールを受けてから攻撃を組み立てようとするプレーが目立ち始めたのである。

 その一方で、ゴールやアシストを期待するクラブ、監督、サポーターたちは、それに物足りなさを感じてしまう。少なくとも、4−2−3−1を基本とするPAOKにインテリオールのポジションは存在しない。その現実を香川がどのように受け入れ、どのポジションに活路を見出すかが、今後の行方を左右することになるだろう。

 1トップ下でレギュラーを狙うなら、相手ボックス内でフィニッシュに絡むプレーにこだわれるか。ウイングでプレーする場合も、ゴールに直結するプレーが求められる。そうではなく、攻撃の組み立てに関わりたいのであれば、ダブルボランチの一角として新境地を開拓できるか。

 いずれの選択をするにせよ、来年6月30日までの契約期間内に、それなりの結果を示す必要がある。仮に来年の冬もしくは夏に移籍するにしても、メンバー外が続く状態は新天地探しをさらに難しくしてしまう。

 カタールW杯は来年11月。そこを目指す香川にとっては、まさに正念場のシーズンだ。香川が今回の難題をどのようにしてクリアするのか、要注目だ。