2年ぶり開催となった出雲駅伝は、東京国際大の"初出場・初優勝"で幕を閉じた。一方で、V候補の筆頭に挙げられていた駒澤大は2分43秒差の5位に沈んだ。



 昨年の全日本を6年ぶり、今年の箱根を13年ぶりに制した王者に何が起きていたのか?

駒澤大・大八木弘明監督がぼやいた出雲駅伝の誤算。全日本でも本...の画像はこちら >>

出雲駅伝で優勝候補に挙げられていた駒澤大は、6区の田澤廉が力走も5位に終わった

 今季のトラックシーズンも絶好調だった。5月の日本選手権10000mは田澤廉(3年)が日本人学生歴代2位の27分39秒21、鈴木芽吹(2年)が同3位の27分41秒68で走破。この種目では大迫傑以来の"大学生表彰台"を勝ち取っている。

 田澤を温存する形になった関東インカレは、2部10000mで唐澤拓海(2年)が日本人トップを奪い、同5000mでは唐澤と鈴木が日本人ワン・ツー。9月の日本インカレ5000mでは篠原倖太朗(1年)が2位に食い込むと、9月19日の日体大長距離競技会5000mで安原太陽(2年)が13分43秒65の自己ベスト。他の出雲登録メンバーである花尾恭輔(2年)と赤津勇進(2年)も、10000mで28分29秒82と28分30秒64という好タイムを持っていた。


 出雲は1区8.0㎞、2区5.8㎞、3区8.5㎞、4区6.2㎞、5区6.4㎞、6区10.2㎞の6区間45.1㎞。順当なら1、3、6区のロング区間を唐澤、鈴木、田澤が担うはずだった。しかし、予定が大きく狂う。鈴木は9月に右大腿部を疲労骨折。唐澤も調子が上がらず、4区に回ったからだ。

 大会前日の記者会見で大八木弘明監督は以下のようなことを語っている。


「エース格の選手が1名出られません。それでも一丸となって頑張っていきたいという意気込みはあります。田澤を除けば出雲は(全員)初出場。次につながるレースをしてほしい。4区くらいまでしっかり上位のほうでいき、あとは6区の田澤に任せるしかない。勝負はやってみないとわかりませんけど、ヴィンセント選手とは1分くらいあれば面白いかなと思います」

 最終6区にエース田澤が入ったとはいえ、東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(3年)が相手では分が悪い。
ふたりは箱根駅伝で2度激突しており、田澤は1年時に3区で2分00秒、2年時は2区で1分38秒という大差をつけられていたからだ。駒澤大は5区終了時で30~40秒のリードでは並ばれる可能性が高かった。

 レース当日の朝、ホテルのロビーでたまたま大八木監督に出くわすと、「芽吹がいればなあ」とぼやき、「せめて(田澤に)先に渡したいね」と話していた。駒澤大が東京国際大に勝つためには5区終了時で前にいることが最低条件だったのだ。

 鈴木不在とはいえ、駒澤大は1~5区にスピードランナーを並べていた。両校の5000mベストタイムは以下のとおりで、3区以外は駒澤大のほうが上だった。



    駒澤大      東京国際大
1区 篠原13分48秒57  山谷13分49秒47
2区 安原13分43秒65  佐藤13分50秒31
3区 花尾13分51秒89  丹所13分46秒17
4区 唐澤13分32秒58  白井13分58秒00
5区 赤津13分52秒27  宗像13分57秒22

 しかし、駒澤大はトラックのスピードを生かすことができない。1区の篠原はトップ発進した青学大・近藤幸太郎(3年)と16秒差の区間8位。9月の日本インカレ5000mでは優勝した近藤に約2秒差で食らいついたことを考えると、少し物足りなかった。東京国際大・山谷昌也(3年)にも11秒差をつけられている。

 2区の安原は2人を抜いて6位に浮上するも、東京国際大・佐藤榛紀(1年)を1秒詰めただけ。2区の途中で、大八木監督は「東京国際大さんと同じところにいるので厳しいですね」と顔を曇らせていた。


 3区花尾は区間4位の走りで順位をひとつ上げるが、東京国際大・丹所健(3年)に42秒差をつけられる。この時点で首位の東京国際大とは52秒のビハインドだった。4区唐澤で8位に順位を落とすと、5区赤津も区間10位と大苦戦。東京国際大との差はさらに広がった。

 田澤にタスキが渡ったときには、東京国際大は2分22秒も先にいた。田澤が3人抜きで意地を見せるも、駒澤大は5位で出雲駅伝を終えた。


 レース後、大八木監督は、「1区から5区までの選手はスピードがまだまだ。強さの面も全然なかった。鈴木がいれば2番にはなっていたと思います」と神妙に話していた。

 駅伝は一斉スタートのトラックレースと異なり、1区以外は単独走になることが多い。ひとりでもリズムを作り、終盤もしっかりと押していけるのか。今回は気温30度以上の暑さと横風に体力を削られたランナーは少なくなかった。

 そして駅伝はメンタルが走りにも大きく影響する。駒澤大は田澤と花尾以外の3人が学生駅伝初出場。うまく流れに乗ることができなかったレースで実力を発揮するのは難しかった。大八木監督の言葉どおり、心身ともに"強さ"が足りなかったといえるだろう。

 一方、東京国際大はアンカーにヴィンセントがいるという安心感と、3区の丹所が優勝への流れを引き寄せたことで、4区の白井勇佑(1年)と5区の宗像聖(3年)の力を引き出した。その結果、東京国際大は2位の青学大を1分57秒も引き離して完勝。これは1993年以降で最大差だった。

「今日は東京国際が強かった。立て直していく必要がある」と大八木監督。完敗の原因は、鈴木と唐澤が好調な状態でメンバーに入ることができなかったことにあるだろう。

 連覇がかかる次の全日本大学駅伝は、各校の戦力を考えるとやはり駒澤大が大本命。ただし、鈴木が万全な状態で戻ってくるのは難しい。そうなると、5000mと10000m(28分02秒52)でチーム3番目の記録を持つ唐澤がどこまで調子をあげられるかがポイントになってくる。

 東京国際大の山谷、丹所が入る区間で互角以上に戦い、選手層の厚さを生かして、つなぎ区間で貯金を積み重ねていく。伊勢路での"リベンジV"はそんな戦いが必要になるだろう。