11月29日、パリ。アルゼンチン代表でパリ・サンジェルマン(PSG)に所属するFWリオネル・メッシ(34歳)が、『フランスフットボール』誌が選定するバロンドール(世界年間最優秀選手賞)に輝いている。
言ってみれば常連のメッシだが、今回は本命が別にいた。
ポーランド代表FWロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)は今年、ゴールマシンぶりを見せている。昨シーズンのブンデスリーガ得点王で、41得点を記録。今シーズンも国内でゴールを量産しているだけでなく、チャンピオンズリーグ(CL)でもメッシが去ったバルサを粉砕するなど大暴れ。しかし、投票では2位で、580ポイントとメッシに33ポイント及ばなかった。
「ロベルト(レバンドフスキ)に言いたいのは、『君と競えて誇りに思う』ということだ。昨年(コロナ禍でバロンドールは中止)だったら、君がバロンドールを受賞し、誰もが納得していただろう。『フランスフットボール』は彼にバロンドールを与えるべきだ」
メッシ自身、受賞スピーチでレバンドフスキに気遣いを見せたほどだった。では、なぜ今回もメッシがバロンドールを受賞したのか。
バロンドールに選ばれたリオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)
本命と言われたレバンドフスキと比較しながら、メッシの2021年を振り返る。
昨シーズン、バルサに在籍していたメッシは30得点を記録し、リーガ・エスパニョーラ得点王に輝いている。
チームタイトルのほうでは、メッシはスペイン国王杯で優勝したが、CL、リーガはともに逃した。一方、レバンドフスキはブンデスでは優勝するが、CLは逃している。この点、2人はほぼ変わらないか。
今シーズンに入ると、メッシは新天地PSGで、CLでは4試合3得点で最低限の仕事はしているものの、期待された活躍には程遠い。
快進撃を続けるバイエルンのエース、レバンドフスキとは歴然とした差がある。所属クラブの実績では、メッシは分が悪い。
しかし、今年7月のコパ・アメリカで、アルゼンチンは決勝でブラジルを破って、南米王者になっている。メッシは得点王となってチームをけん引。代表チームでは初のビッグタイトルを手にした。
「コパ・アメリカ優勝のおかげで、バロンドールを獲れたと思う」
メッシ本人も認めているとおり、このタイトルが決定打になったのだろう。
バロンドールの投票は、世界各国180近い地域から選定された記者が、ノミネートされた30人の選手から1~5位を選ぶという方法で行なわれる。メッシの南米での活躍が強いインパクトを与えた地域もあっただろう。その地域の記者たちはCLなどでの功績以上に、南米アルゼンチン代表でのメッシを高く評価したはずだ。
一方で、分別のある記者たちの票が割れたということもあるだろう。最高峰CLで優勝したチェルシーの選手から選出しようと、3位ジョルジーニョ、5位エンゴロ・カンテにも票が集まった。
この現象は、2年前のバロンドールでも起きていた。リバプールが旋風を巻き起こし、欧州王者になったシーズンだったが、フィルジル・ファン・ダイク、サディオ・マネ、モハメド・サラー、アリソン・ベッカーと、チームメイト同士で票を取り合うことになった。その結果、2位のファン・ダイクは7ポイント差でメッシの後塵を拝することになったのだ。
また、「世界最高選手」の称号が焼きついているメッシを、記者たちは1~5位で外すのは難しかっただろう。
10年ほど前、筆者はある企画で、リーガ・エスパニョーラの選手たちに「史上最高の選手はメッシorクリスティアーノ・ロナウド?」というルポ取材をした。現場の選手たちの答えは揺るぎがなかった。
「メッシ。彼は神で悪魔だ」
あるGKは次元の違いをそう表現したが、他の選手も口を揃えてメッシを称えたため、企画として成立しなかった。過去の名選手もロナウドも、相手にならなかったのだ。そうやって長いシーズンをかけて示してきたスペクタクルが、「格」の違いで出たと言えるかもしれない。
<不世出の英雄>
そのイメージは数字以上の価値があるのだ。