サウジアラビア第2の都市ジェッダの海岸沿いに建設されたジェッダ・コーニッシュ・サーキットは、市街地サーキットの常識を大きく逸脱した存在だ。

 全長6.175kmのうち、70%を超える長いセクションがスロットル全開のストレート。

海岸沿いを往復する細長いレイアウトは、ふたつのヘアピンのほかに4つの低速・中速・高速のシケインでつながれ、全開でないセクションの速度域も高い。

 予選アタックラップの平均時速は250km/hを超えるとされる。これが現実となれば、246.534km/hのシルバーストン、249.026km/hのスパ・フランコルシャンをも上回る高速サーキットだ。もちろん、市街地サーキットとしては史上最速となる。

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ホンダF1に残されたレースはわずか2戦

 レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは、ここでルイス・ハミルトンより18点多く獲得すれば2021年のドライバーズタイトル獲得が決まる。

 もちろん、今のレッドブルとメルセデスAMGの実力差を考えれば、波乱がないかぎりタイトル決定の可能性は低い。

過去2戦の勢力図を見ると、むしろフェルスタッペンとレッドブルにとっては苦しい局面とも言える。

 それだけに、フェルスタッペンはいつもどおり、淡々とした様子でこの初開催のサウジアラビアGPに臨むという。

「今シーズンずっとやってきたのと同じで、何も違いはないよ。僕は自分自身とマシンから最大限のパフォーマンスを引き出すことだけに集中して戦っている。その結果としてどういう結末になるかというだけだよ。新しいサーキットだからまずはその学習が必要だし、FP1からその後に向けてどのように戦っていくのかに集中しなければならないからね」

 前戦カタールGPではセットアップが煮詰められず、完敗を喫した。

その前のサンパウロGPではあまりに突然のメルセデスAMGとハミルトンの圧倒的な速さを前に、マシンの合法性を疑う声さえ上がった。もちろん、規定のテストをパスして車検を通過している以上、どんなにウイングがたわんでいようと、加速が鋭かろうと、それは違法ではない。

 ライバルのことをあれこれ詮索するよりも、自分たちのマシンパッケージが持つポテンシャルを最大限に引き出すこと。そして、自分自身のドライビングも最大限に限界へと近づけること。レッドブル・ホンダとフェルスタッペンがなすべきことはそれだけだ。事実、この2戦ではレッドブルがそれをやりきれていない。

「ポジティブな要素もあればネガティブな要素もあるけど、自分の周りにはあまりに多くのことがあって忙しいから、僕はいつもニュートラルでいるようにしている。レース週末に向けてF1のことだけに集中してシミュレーターで準備作業をしてきたので、コース上で自分のやるべきことをやる。そうやっていればとても忙しいし(それ以外のことを考える暇はなく)、そういう戦い方がうまくいっていると思う」

 ジェッダのセクター2とセクター3は緩やかにカーブしているものの、実質的にストレートというセクションが長い。前代未聞の平均時速も含め、高速市街地サーキットという特殊なレイアウトに、チームもパワーユニットマニュファクチャラーも未知のチャレンジに直面することになりそうだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「舵角のあまりつかない高速コーナーが多く、シケインや往路・復路の折り返しにヘアピンがあったりと組み合わせも多彩で、普段あまり経験したことがないレイアウトです。

特に高速でつながる部分は予選とフリー走行、フルタンクの決勝、路面温度などいろんな要素が関わり、パワーユニットの使い方としては幅が大きくなるんじゃないかと予想しています」

 幅が大きくなるというのは、全開率のことだ。

 予選では可能なかぎりスロットル全開でプッシュするが、決勝ではタイヤをいたわるために抑えて走る。出来上がったばかりの路面はダスティだが、週末を通してラバーが乗ってグリップは向上していくだろう。決勝が行なわれる20時30分と日没前のフリー走行では、コンディションも大きく異なる。

「予選では全開で行けてしまうセクションでも、タイヤマネージメントのためにタイヤの負荷が大きい高速コーナーではスロットルを抜かなければならなかったりするでしょう。どの程度の変化度合いになるかはわかりませんが、全開率の変化が大きいのではないかなと想像しています」(ホンダ田辺テクニカルディレクター)

 こうした変化に対して、どこでエネルギーを発電し、どこでエネルギーを使うのがラップタイムに対して最も効果的か。

こうした複雑な対応を臨機応変にしていかなければならないのだ。

 前戦カタールでピエール・ガスリーが予選4位に入り、他車のグリッド降格ペナルティでフロントロウからスタートしたものの、決勝ではあっという間に後退。ノーポイントに終わったアルファタウリ・ホンダにとっては、2戦連続の初開催レースで対応力が問われることになる。

 チームは失速の理由を分析し、異常なタイヤの磨耗と性能低下の原因は、あまりに予選偏重のセットアップを施してしまったことにあると結論づけた。多くのチームが1ストップで走り切ろうと左フロントタイヤをいたわるなか、アルファタウリのマシンは予選パフォーマンスを追求するがあまりにタイヤに厳しすぎたのだ。

「カタールの決勝ではあっという間にタイヤをダメにしてしまってうまくいかなかったけど、その理由はチームとともに学んだので、二度と起らないようにしたよ。

金曜のロングランですでに前兆はあって、その点に苦しむことはレース週末を迎える前からわかっていた。でも、あそこまでひどいとは思っていなかった」

 決勝の遅さにショックを受けたガスリーは、同じく高速コーナーが多くタイヤに負荷がかかりそうなジェッダに向けて、同じ轍は踏まないと力強く語った。

 一方の角田裕毅は、3連戦すべてノーポイントに終わったものの、ステップバイステップのアプローチを進化させて、開幕当初のような攻め方も復活させてきた。マシンに対して自信を持ってドライブ出来るようになってきたと振り返る。

「まだマシンを100%コントロールできているという感覚ではなく、80%とか90%ではありますが、ここ数戦はかなり素早く自信をビルドアップすることができています。とにかく周回数を重ねて、可能なかぎりデータを収集することが重要です。その結果、予選で自信を持っていい走りができているんです」

 シーズンは残り2戦しかない。来季に向けて手応えをより確かなものにするためにも、ここで結果がほしい。

 ましてや、全ドライバーが初体験で経験値の差がないサウジアラビアは、打ってつけのチャンスだ。

「サーキットを学習するために、シミュレーターにも時間を費やしてきました。とても高速でランオフエリアがほとんどないので、マシンに対する自信が重要になります。僕にとっては、フリー走行でスピードを徐々にビルドアップしていくことが大切になると思います。でも、サウジアラビアは誰にとってもまったく初めての体験ですので、少なくとも周りのドライバーたちとは同じ条件です」(角田)

 シーズン終盤の3連戦で培ったマシンに対する自信を、前代未聞の超高速市街地サーキットで結果へとつなげたい。

 そしてもちろん、レッドブル・ホンダとしては両タイトルをしっかりと手繰り寄せるために、ここでメルセデスAMGと同等かそれ以上の結果がほしい。

 いよいよタイトル争いは佳境。最終決戦へ向け、ラストスパートが始まった。