今年もスーパーGTシリーズはさまざまなドラマが巻き起こり、最後は歓喜に包まれた大円団となった。GT500クラスは、トヨタが最終戦を制して大逆転でチャンピオンを獲得。

「ホンダ圧倒的有利」のなか、最後の最後でトップに立つというまさかのどんでん返しで幕を下ろした。

 一方、GT300クラスのチャンピオンに輝いたのは、ナンバー61のSUBARU BRZ R&D SPORT(ナンバー61 井口卓人/山内英輝)。これまで何度も悔しい思いをしてきたスバル陣営が、ついに初の栄冠を掴んだ。待ちに待った歓喜の瞬間、多くのスバルファンが涙した。

スバルBRZ、スーパーGT王者までの軌跡。「声援は力!」を信...の画像はこちら >>

スバルを初のGT王座に導いた井口卓人と山内英輝

 スバルのGTの歴史は浅くない。前身の全日本GT選手権の頃から参戦し、インプレッサやレガシィB4といった当時のスバルを代表する車両が活躍した。
そして2012年からは、現在のスバルを代表するスポーツカー「BRZ」をベースとした車両でR&D SPORTとともに戦っている。

 人気の新型マシンだけに、スバルBRZはデビュー戦から大きな注目を集めた。だが、最初は熟成不足で苦労も多く、初年度は未勝利に終わる。翌2013年にはタイヤメーカーをヨコハマからミシュランに変更。このコンビネーションが機能し、第5戦の鈴鹿1000kmではスバルBRZ初の優勝を飾った。

 この鈴鹿での初優勝の時、第3ドライバーとしてスポットエントリーしていたのが、現在エースとしてスバルを牽引する井口卓人だ。

井口は2014年からレギュラーに昇格し、長きにわたってスバルBRZの進化・熟成に取り組んできた。

 さらに2015年には、現在の相棒・山内英輝が加入。この年からタイヤをダンロップに変更し、当時GT300クラスで一目置かれる速さを見せていた山内とのタッグで一気にチャンピオン獲得を目指した。

 だが、ここから予想を上回る苦労の日々が始まる。

 スバルBRZは鈴鹿サーキットなど得意としているコースでは速さを披露し、優勝や表彰台を獲得する活躍も見せた。しかし、肝心な場面でトラブルやアクシデントに見舞われることが多く、戦線離脱を余儀なくされるシーンも目立った。

【背中を押したスバリストたち】

 2018年、スバルBRZは序盤から中盤にかけてマシントラブルが頻発する。思いどおりに走れない状況が続き、第2戦・富士ではトラブルでマシンを降りた山内が感情を露わにする場面もあった。気がつくと、スバルBRZは2018年の第6戦・SUGOを最後に勝利から遠ざかっていた。

 ただ、そんなつらい状況でも彼らを支えたのが、多くのスバルファン"スバリスト"たちだった。コロナ禍以前は設けられた専用応援席に駆けつけ、東京で開催されるパブリックビューイングにも集結。参加するファンほぼ全員が青色のユニフォームを身に纏い、スバルの旗を振って声援を送り続けた。

"応援してくれるファンのみなさんに、結果で恩返しをしたい"

 その想いを胸に、61号車のメンバーたちは挑戦の手を緩めなかった。

そして、その努力が今年、モデルチェンジしてスーパーGTデビューした新型BRZとともに形となる。

 第7戦までにポールポジションを3度も奪い、第5戦・SUGOで見事に優勝。さらには100kgのサクセスウェイトを積んで臨んだ第6戦・オートポリスでも勢いは衰えず、3位表彰台に入る粘りを見せた。

 着々とポイントを重ね、ランキング首位で迎えた最終戦となる第8戦・富士。プレッシャーのかかる大一番で背中を押してくれたのも、やはり多くのスバリストたちだった。

「チャンピオンを獲ったことがないので、どういう心境で最終戦に臨めばいいかわかりませんでした。

だけど、大会前にイベントがあってファンの方と直接話して、すごく元気をもらいました。気持ちも吹っきれた感じになって、"みんなのために"とか"チームの想いをのせて"という気持ちになれたので、ほどよい緊張感でサーキットに入れました」(井口)

「ファンの方から『みなさんが頑張っているのはわかっているので、こういうのもアレなんですけど......頑張ってください!』という声をいただいて。頑張りを感じ取ってくれていることがすごくうれしかったです。スッキリした気持ちで最終戦に臨めました」(山内)

 井口と山内はあらためて、ファンのためにチャンピオンを獲りたいと強く決意したという。

【最後は悔し涙ではなく...】

 予選では好調なライバルのタイムを上回り、今季4度目となるポールポジションを獲得。決勝では一時ポジションを落として劣勢となる場面もあったが、チーム全員が攻め続ける姿勢を崩さず、最後は3位でチェッカーフラッグ。

長年待ち望んでいたシリーズチャンピオンをついに勝ち獲った。

「2012年にBRZがデビューし、山野哲也さんと佐々木孝太さんにクルマを育ててもらい、そこから僕と山内選手が引き継ぎ、そして新型BRZがデビュー......。本当にいろんな思いがあって、チームのみんな、ファンのみなさんと一緒に勝ち獲れたチャンピオンだと思っています。本当に感謝の言葉しかありません。こんなに最高なことはないです」(井口)

「ここまで長い間......本当に時間がかかりました。苦労が2年、3年続いたこともありました。そんななかでも、ファンのみなさんがたくさん応援してくれたこと、チームのみんながあきらめずに努力しているのを間近で見ていました。この環境で走れることに喜びを感じながらレースができた1年でした」(山内)

 レースを終えてパルクフェルメで再会を果たした井口と山内の目には、これまでたくさん流してきた"悔し涙"ではなく、苦労が報われた"うれし涙"であふれていた。

 直後に行なわれた公式映像インタビュー。ふたりが真っ先に挙げた感謝の気持ちも、ずっと応援してくれたスバルファンたちに向けた言葉だった。

「声援は力だ」

 その合言葉のもと、スバルを愛するファンはサーキットに駆けつけ、メッセージを寄せ書きした応援フラッグを掲げ、大きな声援を送って戦った。

 スバリストの想いが、2021年の最終戦でようやく実った。