「オレステス・デストラーデ」という名前を聞いて、胸を熱くするベースボールファンは多いだろう。1980年代後半から1990年代前半にかけて黄金期を築いた西武ライオンズの主砲として活躍し、1990年~92年に3年連続本塁打王を獲得。

1990年の日本シリーズではMVPに輝くなど、大舞台での強さにも定評があり、弓を引くような独特のガッツポーズも相まってファンに愛された助っ人だった。

 引退後、デストラーデはフロリダ州タンパのコミュニティと強く結びつき、現在はレイズの地元テレビ局の解説者を務めている。日米両方の球界をよく知る"カリブの怪人"にとっても、今季の大谷翔平の活躍は衝撃的だったようだ。

デストラーデから見た今季の大谷翔平は「ベーブ・ルースどころじ...の画像はこちら >>

取材時に、お馴染みのガッツポーズを見せたデストラーデ

 今季のMLBプレーオフ期間中、59歳になったデストラーデはタンパで日本メディアの囲み取材に対応し、大谷に関する意見を熱っぽく述べた。そこで大谷の比較対象として飛び出した名前を聞けば、2021年に"2ウェイ・モンスター(二刀流の怪物)"が成し遂げたことのスケールの大きさが、わかりやすく伝わるだろう。

「今季の大谷が、実際にMVPにふさわしいプレーをしたと思うか? 100%、間違いなくMVPだよ。
ア・リーグのMVPだけど、ナ・リーグ、もしくはNFL、NBA......あらゆるアメリカのスポーツを総合してもMVPにも値するはず。それほど、彼の活躍には本当にびっくりさせられたね。これほど支配的ですごいプロアスリートは、ベーブ・ルースどころではなく、NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダン以来だ。


 シカゴ・ブルズの一員として何度も優勝を重ねていた頃のジョーダンは、平均30得点をあげるだけでなく、NBA最高のディフェンダーでもあった。ここ30~50年で比較できるのは当時のジョーダンくらい。大谷のやり遂げたことは信じられないよ」

【手術がポジティブにはたらいた】

 説明不要かもしれないが、ジョーダンはいまだ"史上最高のバスケットボールプレイヤー"の称号をほしいままにするNBAの超スーパースターである。1990年代にブルズを6度の優勝に導き、「神様」と呼ばれた。

昨年、ジョーダンとブルズにスポットライトが当てられたドキュメンタリーフィルム『ラストダンス』が大ヒットし、再び脚光を浴びることにもなった。

 デストラーデの言葉どおり、ジョーダンは10度も得点王に輝いただけでなく、NBAオールディフェンシブ・1stチームに9度も選ばれた。1988年には最優秀守備選手に選出されるなど、ディフェンス面でも高い評価を勝ち得た最高の"2ウェイプレイヤー(攻守両面で秀でた選手)"だった。そういった意味で、投打両方の貢献でメジャーリーグを震撼させた大谷とも共通点がある。

 大谷がメジャーでスーパースター級の実績を残したのは今季が初めてで、米スポーツ史上最大級の偉人であるジョーダンとの比較は時期尚早かもしれない。ただ、"日本球界史上、最高の助っ人"とも称されたデストラーデにそう思わせるほど、2021年の大谷の活躍はインパクトがあったのだろう。


 続いて今季、なぜこれほどの爆発的な活躍が可能になったのかという問いに関して、デストラーデは「大谷がトミー・ジョン手術を受けたことがポジティブにはたらいた」という持論を述べた。

「2018年に(右肘を)手術をしたことが、大谷にとって最善の結果をもたらしたのだと思う。日本での高校時代や日本ハムでプレーしていた頃を思い返しても、大谷は投手が"第1"で、打者としては"第2"だった。それがケガをしたあとは、打撃に専念せざるを得ず、1年半にわたって打つだけだった。マイク・トラウト、アルバート・プホルスと同じチームで、打撃コーチの指導も受けた。こうして打撃に専念する過程で体もより大きくなり、いい体格になったね。


 日本での最高のシーズンも、エンゼルスでの1年目も22本塁打だったけど、今の彼はメジャーでも『モンスター』と呼べる打者になった。同時に、投手としてもまだ100マイル(約160km)が投げられている。故障期間中に打者としても力をつけたおかげで、今では投打の両方で均等に力が出せるようになったんだ」

【大谷をMLBのスター選手と比べるなら?】

 約3年前、ルーキーシーズンを終えた直後に話を聞いた際、デストラーデは「大谷は松井秀喜ダルビッシュ有の融合のような選手だ」と話していた。時は流れ、今季二刀流選手として完全開花した今、野球界で比較対象を探すなら、どういった名前が出てくるのだろうか。

「2018年の大谷は、メジャーの打者として毎年23~25本塁打、80打点を残せる松井のような選手だった。投手としてはサイ・ヤング賞まではいかなくとも、速い球といいスプリットを持つダルビッシュに似ていると思った。

今の彼は、さっきも話したとおり、たとえるならマイケル・ジョーダンのよう。野球界での比較となると、打者としては彼のビューティフルな左打ちのスイングはケン・グリフィー・ジュニアに似ているかもしれない。ブライス・ハーパーはどうか? パワフルなスイングのフィニッシュはハーパーにも少し似ているかもね。

 一方、投手としての大谷は、まだどうなっていくかはわからない。すでにいいピッチャーだし、すごい投手にもなれると思う。ただ、今後に18~21勝を挙げるためにはもっといいチームでプレーする必要があるかもしれないね」