Sportiva注目アスリート「2022年の顔」 
第11回:松島輝空(卓球

(第10回:早田ひな(卓球)快進撃に中国も要警戒>>)

 スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。

「2022年の顔」と題して紹介する。

張本智和に続く「男子卓球界の怪物」、14歳の松島輝空。ラリー...の画像はこちら >>

卓球世界ユース3冠を達成するなど、今後の成長が期待される14歳の松島輝空(まつしま・そら)

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 パリ五輪までに、張本智和に続く"怪物"は現れるのか?

 これまで日本男子卓球界を牽引し続けてきた水谷隼が、2021年の東京五輪を最後に、現役を引退する意思を表明。男子代表が2024年パリ五輪で金メダル獲得を目指すなら、この穴を埋めるのは急務だ。

 東京五輪では、初採用された混合ダブルスで、水谷が伊藤美誠とのペアで日本卓球史上初の金メダルを獲得。男子団体でも、初の銀メダルを獲得した2016年リオデジャネイロ五輪に続いて銅メダルを手にした。

 この両種目で存在感を発揮し、有終の美を飾った水谷は「張本は(東京五輪で)エースとして相応しいプレーをしたし、彼なら十分、今の日本を引っ張ってくれる」と"エースのバトン"を後輩に引き継いだ。
張本も、「リオの時の水谷さんみたいな安心感が足りない。もっと安心感を与えられるエースになれたら」と意気込む。

 一方、もうひとりの代表メンバーだった丹羽孝希は、東京五輪の終了直後にパリ大会について「まだぼんやりしている。出るからにはメダルを獲らなきゃいけない。その実力が自分にあると思えば目指すかもしれないし、その自信を持てるかどうか」と話しており、今後については不透明なままだ。

 張本が軸となって男子卓球を引っ張っていくのは間違いない。
だが、丹羽の状況を考えても、いち早くエースの負担を軽減できる存在を発掘したいところだ。

 現状を整理すると、引退の水谷を除いて、2022年1月時点での世界ランキング5位に位置する張本、同21位の丹羽が日本人上位の2人。そこに同44位の宇田幸矢、同50位の神巧也、同53位の森薗政崇、同56位の吉村和弘が続く。世界ランキング10位以内に2人、60位以内に10人がランクインしている日本女子選手と比較しても、選手層の薄さは否めない。

【14歳でユース3冠】

 そのなかで、パリ五輪に向けた最初の一戦として注目された、世界卓球選手権(アメリカ・ヒューストン)が昨年11月に開催された。日本からは張本、丹羽、宇田、森薗、戸上隼輔(世界ランク95位)の5選手がエントリー。男子シングルスは大会3連覇中&五輪2連覇中の馬龍(マロン)や、世界ランク3位の許昕(シュシン)ら金メダル候補が数名欠場。

それでも五輪以上のハイレベルな大会であることに変わりないが、日本勢の42年ぶりのメダル獲得が期待された。

 しかし、男子シングルスは3回戦までに全員が敗退。東京五輪での心身の疲れもあっただろうが、張本と丹羽はいずれも2回戦で、世界ランキングで格下の選手に敗れた。男子ダブルスで宇田と戸上ペアが銅メダル、混合ダブルスで張本が早田ひなとのペアで銀メダルを獲得したものの、男子の田勢邦史新監督は「シングルスは納得いく結果ではなかったですし、非常に厳しいものを選手に与えていきたい。(パリ五輪代表争いは)誰が勝つかわからない状況。誰にでもチャンスはある」と現状を捉えていた。


 そして、そのチャンスを虎視眈々と狙っているひとりの若武者が、世界卓球選手権の直後に大きな快挙を成し遂げた。

 昨年12月に行なわれた、世界ユース卓球選手権大会(ポルトガル)のU−15男子シングルスで、14歳の松島輝空(まつしま・そら/世界ランク471位)が優勝。男子ダブルス、混合ダブルスも制覇し、「3冠」を手中に収めてみせた。

【シニア選手に引けを取らない武器】

 松島は2007年、京都生まれ。地元にある田阪卓球会館でコーチを務めている、元実業団選手の両親のもとで幼少期からみっちり鍛えられてきた次世代のホープだ。

 これまで全日本選手権バンビの部やカブの部といった小学生以下の大会で優勝を重ね、小学6年生で出場した全日本選手権ジュニアの部で準優勝。

その快進撃から"スーパー中学生"や"張本2世"と呼ばれ、2020年11月からはTリーグの木下マイスター東京にも所属している。そんな長男の背中を追い、弟の翔空(とあ)、妹の美空(みく)と愛空(あいら)も、卓球選手として着実に階段を上っている最中だ。

 松島の最大の武器は、ラリー戦での粘り強さとミスの少なさにある。

 幼少期から得意とするバックハンドを軸に、両ハンドで的確に、何度でも攻撃を跳ね返していく。その安定感と対応力の高さは、彼がまだ中学生だと思うと驚異的だ。どんなに強打を打ち込まれても、松島が返すボールは「それ以上の伸びを感じる」と驚く選手も多い。


 体格はまだ155cmと小柄で、対戦相手によってはリーチやパワーで劣ることもあるが、それを補えるほどのコース取りや多彩なサーブを持ち合わせている。だからこそ14歳にして高校生や社会人、代表クラスの選手にも決して引けを取ることはない。

 実際に、昨年2月18日に行なわれたTリーグの木下vs岡山リベッツの試合で、当時13歳の松島は田添健汰とのペアでダブルスに出場。全日本選手権のダブルスで優勝経験もある森薗政崇・三部航平ペアを2−0で下してTリーグ最年少初勝利を飾った。試合後には「大人の選手がサーブがうまいのはもちろんですが、自分はストップレシーブが苦手なので、チキータ中心でいきました」と対応力の高さを示した。

 さらには昨年9月23日の琉球アスティーダ戦では、2019年全日学選抜で王者に輝いた松山祐季を相手に3−0とストレートでシングルス初勝利。自ら「ミスが少なくて、今日は100点」と話すほど、大舞台で実力を発揮できるほどの自信を身につけてきている。

 そして世界ユースで世界一の栄冠をつかみ、パリ五輪の代表争いに名乗りを上げた松島。今後もTリーグや国際大会で実績を積み上げていけば、2024年までに爆発的に成長する可能性も大いにある。

 張本に続く"怪物"は、松島しかいない。