「芝の状態がよさそうだね」
旧知のマネジャーが運転する車が施設内の駐車場に着くや、中村俊輔は晴れやかな表情で言った。数十年に渡って管理しているグラウンドキーパーによると、年間200日以上使われる都内近郊のこのサッカー場の芝生は、毎年、中村の"初蹴り"に照準を合わせて整えられるという。
ふだんの冬の朝なら風が吹き抜けて寒さを感じるが、この日は無風で、気温7度とは思えないほど暖かい1日の始まりだった。
26年目のシーズンを迎える43歳の中村俊輔
1月4日午前9時。プロ入り26年目のシーズン開幕に備え、中村は彼を慕う若手・中堅選手たちと自主トレを開始した。
美しい緑の上でジョギングや軽めのダッシュを終えると、5人の選手たちが2人の鬼役にボールを取られないよう、限られたスペースのなかでダイレクトパスを回していく。なかにはJ1クラブの主力も複数人いるが、中村の足さばきは群を抜いている。今年6月に44歳を迎えるレフティの技術は、今も日本トップクラスだ。
数カ月前、スポーツ紙の記者たちは中村の去就を追いかけていた。横浜FCに所属した2021年はわずか12試合の出場で、0ゴール、0アシスト。中村自身、"その時"を覚悟したと明かす。
「そもそも、1年契約だからね。結果も出ていないわけだし。自分のなかでの引退のタイミングというか、クラブからオファーがあるかも含めて、"そろそろかな"っていうのがあったかな」