今から3年前の2019年秋、当時、東邦高校3年だった石川昂弥(たかや)は同校のグラウンドでバッティングに勤しんでいた。ドラフト直前にもかかわらず、3球団のスカウトたちが視察に訪れていた。この時期に担当スカウトが足を運ぶということは、つまり上位での指名が確実ということだ。
事実、石川は中日、ソフトバンク、オリックスの3球団が「1位指名」で重複し、抽選の結果、中日が交渉権を得た。
将来の4番としての期待がかかる中日・石川昂弥
東邦高校での練習で石川は快打を連発していた。それでも石川はこう不満を漏らしていた。
「自分の一番いい打球はセンターから右中間方向に飛ぶんです。今日はいい打球がレフト方向に飛んでいる。今日はダメです......」
その直前にはレフト定位置のはるか後方に飛ぶ120メートル級の大アーチを描き、その直後にもサードとショートが一歩も動けないほどの強烈な低弾道のライナーをレフトに放った。それでも一塁ベースを回り込んでから、ホーム付近に戻ってきた石川は苦渋の表情を浮かべていた。
「ダメだ......どうしてもヘッドが早い」
高校生でここまで高い意識を持った選手を見たことがなかった。とんでもない打者になるのではないか......そんな期待が一気に膨らんだ。
【プロの体感スピードに苦しんだ2年】
「レギュラーを獲って、新人王を狙います」
中日に入団した直後から、石川は当たり前のようにそう語っていた。