昨年に続く連覇を狙いながらも、駒澤大は往路の3区と4区のつまずきで3位という結果に終わった。大八木弘明監督は「青学大の優勝は層の厚さだったな、という感じです」と大会を振り返った。

駒澤大・大八木監督が箱根駅伝での誤算を語る。有力校の主力が残...の画像はこちら >>

大八木監督の期待に応え、今大会9区で区間4位の結果を残した3年生の山野力

「大会前はベストメンバーを組めれば、優勝もできるかなと考えていました。鈴木芽吹(2年)は最終調整まで見て使えそうな感じにはなったんですが、往路にはちょっと使えないなという感じで......。それに篠原倖太朗(1年)も往路で使える選手でしたが、出雲(駅伝)が終わってから疲労骨折が判明していたので、そのあとの練習が足りなかった。それで3区は安原太陽(2年)、4区は花尾恭輔(2年)と、どちらかといえば復路タイプの選手を配置するしかなかった。だからベストメンバーが組めなくなった時点で、目標設定を3位以内と変更しました」

 3区の安原にはスタミナの不安が少しあったものの、1区と2区で大差をつけて、3区の安原、4区の花尾が余裕を持って走ることができれば、5区の金子伊吹(2年)は結果を残す走りをしてくれるという確信もあり、そこそこいけるのではと考えていた。

 しかし、ここで誤算がひとつ起きた。

東京国際大の2区、イェゴン・ヴィンセント(3年)が思いのほか走れなかったのだ。昨年12月4日の日体大競技会で田澤廉(3年)が27分23秒44を出した時、ヴィンセントは田澤に0秒98遅れの自己新記録でゴールしていたことを踏まえて、大八木監督は同じくらいの順位か、離れていたとしても早い段階で田澤と一緒に競り合いながら走ることを想定していた。

「やっぱり東京国際大は1区で誤算があったのだと思います。田澤のほうが30秒前でスタートしたので、無理に追いついてもそこからの勝負はきつくなると考えたのかなと。追っても前との差が詰まってこないなか、少し気持ちが切れ始めてきたところで、国士舘大のライモイ・ヴィンセント(4年)が追いついてきてきつくなったんじゃないでしょうか。もし、田澤とふたりで競り合いながら一緒に行ける展開になっていたら、もっと後半も上がったかもしれません。

 田澤もずっとひとり旅になり、自分で行くしかなかったので、結果最後の坂できつくなってしまった。特にラスト1kmは13~14秒遅れたのでもったいなかった。誰かと一緒だったら1時間5分台も出たと思います」

 留学生が5人いるなかで、1時間06分13秒の区間賞を獲得した田澤はさすがの走りだった。だが、2位に上がった青学大の近藤幸太郎(3年)が着実に走ったことで、1分2秒の貯金しか作れなかった。ヴィンセントと競り合う展開になっていたらプラス30秒は離せたかもしれない。

 その誤算は3区に大きく影響した。

東京国際大のヴィンセントは結局1時間07分2秒の区間5位だったため、青学大の17秒うしろからスタート。ハイペースで入った丹所健(3年)は3kmを過ぎて青学大に追いついたが、そこから突き放すことができず、うしろにつかれた。

 結局、駒澤大は東京国際大と青学大に13km手前で追いつかれると14km過ぎからは離される展開に。18.3kmでスパートした青学大がトップで4区につなぎ、駒澤大は1分59秒差をつけられた。

「本来なら東京国際大が3区まで先頭を走るだろうと思っていたのですが、それができなかったのも大きいですね。青学大は先頭に立つと気持ちよく走るチームだから、そこで主導権を取られてしまった」と大八木監督は振り返る。

 4区の花尾は他校の選手が最初の5kmを14分台前半で入っているのに対し、14分50秒と消極的な走りになった。大八木監督は「ふたりともスタミナ練習が足りなかった」と言うが、上尾ハーフマラソンなどが中止になって、ハーフマラソンの実戦を積めなかったことも響いた。安原のハーフマラソンのベストは1時間08分50秒で、花尾は1時間02分(関東インカレ2部で非公認20.8kmの記録)。記録という裏づけがないなかでは、本人たちも距離への恐怖感をぬぐえなかったのは仕方ない。

 復路の4区間の当日変更は、一か八かの賭けだったが「もうやるしかなかった」と苦笑する。「特に2年生はまだスタミナがないので不安はいっぱいありました。

やっぱり今の駅伝やマラソンはスピードがないと通用しないと思うので、2年まではスピード強化を重視していて、『箱根のため』にみんなでまとまって距離走をガンガンやっていないので。今回の9区で区間4位だった山野力(3年)のように、3年になった時に頑張ってくれればいいなという感じの育て方をしているんです」

 今回の駒澤大の強みは、田澤という絶対的なエースに加えて2年生に力のある選手が揃っていることだった。それは今回、10区間中7区間が2年生だったことでも示されている。だが逆を見れば、4年生1名で3年生は2名しかいない編成。

 それに対して青学大は、4年が2名で3年は4名、2年と1年が2名ずつとバランスが取れた編成だった。今のチームを支えている下級生たちの強さが、今回の箱根では逆に弱点になってしまったと言える。

 だが大八木監督は、来年へ向けては「面白くなりそうだ」と声を弾ませる。

「青学大との差を見れば、やはり6~7番手以降の差はあったと思います。でも上位選手一人ひとりの力を比較すれば、そんなに負けていないと思う。来年の4年生は、田澤と山野のほか、今回走れなかった東山静也(3年)がどこまで伸びてくるかですが、3名はいます。それに3年生が8名くらい揃うだろうし、2年生も今回は、エントリーに入りながらも走れなかった篠原と佐藤条二もいて2名は確実に入ってきます」

 さらに4月には、1500mと3000mに加えて5000mでも13分31秒19の高校記録を出した超大物の佐藤圭汰(洛南高)も入学してくる。ほかにも期待の新入生がいて、佐藤を中心に3人くらいが上がってくれば、各学年のバランスも取れて層も厚くなる。

「今は青学大が2連覇、3連覇をしそうな勢いがありますが、そういうチーム構成になれば、どこかで崩せる可能性はあるかなという気はします。箱根を考えれば青学大は前で走ると勢いに乗るチームなので、先行するチームが出てくるかどうかですが、来年は青学大の他にも強力な大学はある。2位になった順天堂大は、今回走った3年生5名と2年生2名が残りますし、東京国際大も主力の3年生は全員残ります。それに東洋大も上級生になる学年が7人残っている上に、今回走らなかった石田洸介(1年)も入ってきます。それこそ本当に戦国時代になって、全日本大学駅伝で勝つのも難しくなると思います。そういうなかで、勝つ駅伝をして強さを見せたいというのはあります」

 こう力強く大八木監督は語ってくれた。