少しばかり大袈裟に表現すれば、ここ数年のJリーグで最も衝撃的な試合だったかもしれない。

 J1第6節、川崎フロンターレがホームの等々力で敗れた。

それも、1-4というまさかのスコアで、だ。

 川崎が足かけ3シーズンで築いたホームでの連続無敗記録は、J1最多タイとなる25試合(22勝3分け)まで伸びていた。

 川崎は、この試合に勝ってJ1新記録達成、のはずだった。

 だがしかし、終わってみれば、最多記録達成どころか、次々と失点を重ねてよもやの大敗。そんな波乱のゲームで主役を演じたのは、セレッソ大阪である。

 立ち上がりから果敢なプレスを仕掛けたC大阪は、前半13分、FW加藤陸次樹がプレスバックで奪ったボールをすぐさま縦へと運び、最後はMF乾貴士がゴール前のこぼれ球を押し込み、先制に成功。

 すると、前半28分にも自陣で奪ったボールを左サイドでつないで運び、これまた、最後は乾が決めて追加点。たちまち2点のリードを奪った。

 C大阪の小菊昭雄監督が誇らしげに語る。

「川崎相手に、(下がって)ゴールを守る守備をするとやられてしまう。今まで積み上げてきたサッカーで、勇敢に、アグレッシブにボールを奪いにいく。そして、常にゴールを目指してボールを動かす。

選手全員が同じ思いを共有してすばらしいゲームができた」

 その後、前半36分にもFW山田寛人がゴールを決め、前半のうちにリードを3点に広げたC大阪は、後半68分にも再び山田が決めて4-0。

 その後は、次々と訪れる決定機こそ生かせなかったが、川崎の反撃を1点に抑え、悠々と逃げ切った。

 小菊監督の声が、自然と弾む。

「川崎の新記録がかかったゲームだったが、選手に伝えたのは、我々の力で(連続無敗記録に)ピリオドを打つ、ということ。それだけのしっかりとした準備をしてきた」

 それにしても、鮮やかな勝利だった。

 指揮官の言葉にもあったように、C大阪の積極的なプレスが奏功したのは確かだが、先制して以降の前半は、川崎にボールを保持され続け、ゴール前で耐える時間も少なくなかった。

 だが、C大阪は川崎の攻撃を粘り強くはね返し続けたばかりか、ショートカウンターあり、ロングカウンターありで、効率よく追加点を重ねた。

 文句なしの完勝である。

 今季J1の序盤戦を見ていると、よくも悪くも前評判を覆すチームが目につく。

 なかでも、いい意味で大きく予想を裏切っているのが、C大阪だろう。

 今季開幕を前に、C大阪の評価は決して高いものではなかった。昨季まで攻守の要となっていたMF坂元達裕とDF瀬古歩夢が相次いで海外移籍。

その一方で目立った補強はなく、昨季12位に終わったチームは、苦しい戦いを強いられるシーズンを迎えるかに思われた。

 ところが、直近の第6節終了時点で2勝3分け1敗と上々のスタートを切ったC大阪は、ここまで勝ち点9の5位。加えてルヴァンカップでも、ガンバ大阪とのダービーマッチを制するなど、グループステージ3戦3勝と好調な戦いぶりを見せている。

 しかも、ただ単にスタートダッシュに成功したという以上のものを感じさせるのは、そこにジワジワと加速している印象が加わるからだ。小菊監督も、「キャンプから積み上げてきたものを、チームで共有できる段階にきている」と手応えを口にする。

セレッソ大阪が強い。王者・川崎を撃破、前評判を覆す躍進には理...の画像はこちら >>

川崎相手に2ゴールを決めたセレッソの山田寛人(右)

 そんなチームの原動力となっているのが、2トップを務めるふたりの若手FWだ。

 22歳の山田と24歳の加藤は、J1での通算出場試合数がいずれも40試合に満たず、通算得点数もひと桁。経験という点では、心もとないと言わざるを得ない。

 実際、昨季から2トップを組むことが多かったふたりは、ハードワークをいとわず、チャンスを作り出してもいたのだが、そこに得点の匂いはあまり感じられなかった。

 だが、どこか頼りなさのあった雰囲気も、今季は変わりつつある。

 今季(リーグ戦では)ここまで山田が3ゴール、加藤がノーゴールと、数字のうえではまだまだ物足りないが、「陸次樹とは去年からずっとやっていて、やりやすさがある。向上しているなと感じる」と山田。

2トップのふたりでチャンスメイクするシーンは増え、ゴールへ向かう姿勢にも、力強さが備わってきた。

 川崎から2ゴールを奪いとった山田が語る。

「練習から常にゴールは意識している。(自身の)1点目も後ろから(相手DFが)来ているのはわかっていたが、GKの位置も見ることができたので自信につながる。とにかく今は、自分が1試合でどれだけシュートを打てるかを考えている」

 そんな若きストライカーの意欲が明確に表れていたのが、先制点のシーンだ。

 ショートカウンターで抜け出した加藤からのパスを受けた山田は、目の前に相手DFがいたにもかかわらず、時間をかけずに強引にシュート。結果的に、これがゴールポストに当たってはね返り、乾の得点を生んでいる。

 山田が振り返る。

「あのシュートも今までなら打っていない。今までならパスを選んでいたところでの思い切りが、いい形につながっている」

 海外経験も豊富な乾やボランチのMF奥埜博亮ら、30代の選手たちが若い2トップを後ろから支える構図も、チームとして非常にバランスがとれている。心強い後方支援が、2トップを気持ちよくプレーさせていると言ってもいいだろう。

 実際、チーム2点目の起点となった奥埜のパスなどは、実に落ち着きのある出色の1本だった。

 今季J1で6試合を終えたC大阪の総得点数は12。チームによって消化試合数が異なるため、単純な比較では横浜F・マリノス(14点)、川崎(13点)に次ぐリーグ3位だが、1試合平均に直せば、C大阪が堂々のトップである。

 若い2トップに引っ張られるように、C大阪が得点力を高めている。そんな様子は目に見える形で数字にも表れている。

 坂元が去り、瀬古が去り、それでも今季のC大阪は侮れない。