「オーマイガッ!」、「なんてやつだ!」、「アメージング!!」

 シカゴ・カブス鈴木誠也が2打席連続弾を放った日、現地メディアではこのような言葉が飛び交った。

鈴木誠也の記録ラッシュに「歴史的デビュー」と地元メディアも大...の画像はこちら >>

開幕から活躍を続けるカブス1年目の鈴木誠也

 4月12日(現地時間:以下同)、敵地・ピッツバーグでのパイレーツ戦に「5番・右翼」で出場した鈴木は、5回の第2打席に右中間スタンドへの第2号ソロを、続く7回の第3打席には2打席連続となる第3号ソロを放った。


 4月14日現在の鈴木の成績は、6試合19打数7安打10打点3本塁打(打点と本塁打は現在ナ・リーグ1位)。スラッシュライン(打率/出塁率/長打率)は、.368/.480/.895と驚くべき数字を残している。

 開幕から毎試合結果を残し続ける鈴木に、SNS上では現地カブスファンの「このとんでもないやつは新人王を獲るだろう」、「(本塁打は)年81本ペース!」、「MVP候補だ!」といったコメントが溢れ、興奮で沸き返っている。さらにカブスの同僚マーカス・ストローマン投手も「本物だ!」と脱帽する。

 現地メディアの報道の熱量も高い。カブスの地元スポーツメディアはこぞって鈴木を取り上げ、「鈴木誠也の歴史的デビュー」(『ピッチャーリスト』)、「鈴木誠也はすでに歴史を作った」(『ブリーチャー・ネイション』)といった見出しが躍った。
これらは決して大げさな表現ではない。実際に、鈴木はメジャーデビューからの数試合で3つの記録を打ち立てている。

 たとえば、デビュー4戦での3本塁打は、エンゼルス大谷翔平が記録した4試合(2018年)と並ぶ日本人最速記録。また、4月12日には「デビューから4四球以上、4試合で8打点以上」という、打点の記録が正式に始まった1920年以降で初となるメジャー記録を作った。

 さらに、翌13日のパイレーツ戦で4試合連続の打点を挙げると、カブスでは2人目となる「1901年以降、カブスでのデビュー5試合で、毎試合2回以上出塁し、打点または得点を1点以上挙げた」という球団記録を樹立(『NBCスポーツ・シカゴ』)。そして、翌14日のロッキーズ戦でも打点を挙げ、連続試合打点を5に伸ばした。

「これほど早くメジャー対応できるとは・・・」

 現地メディアやファンが目を丸くするのも無理はないだろう。今年は新労使協定をめぐる労使交渉の影響で春季キャンプは短縮。鈴木に与えられたメジャーへの適応期間は1カ月弱で、オープン戦での実戦経験もわずか20打席のみだった。

 スポーツ専門紙『スポーティングニュース』は、鈴木の特集記事(4月13日付)で次のように伝えている。

「日本からMLBに移籍した選手は、一般的に苦戦すると予想されている。カブスが広島カープのスター・鈴木誠也を獲得した際、『彼はメジャーに適応できる』と認識はされてはいた。しかし、これほど早くメジャー対応できるとは誰も想像していなかった」

 鈴木はなぜこれだけ早くから活躍できたのか。

『スポーティングニュース』は、鈴木のカブス入りがほぼ確実となった3月16日の記事で、次のように予想していた。

「鈴木がメジャーに適応できるかを予想するのは難しい。筒香嘉智秋山翔吾はメジャー1年目に苦しんだ。しかし、鈴木は非常にバランスがいい打者で、昨シーズンは38本も本塁打を打ちながら、三振率はわずか17%だった。筒香の日本での最終シーズンの三振率は25%(29本塁打)。秋山の三振率は鈴木に近い16%だったが、本塁打はわずか20本。
鈴木のストライクゾーンに対するセンスとバランスからすれば、メジャーでもスムーズに適応できるのではないか」

 4月12日の試合後、カブスのベンチコーチであるアンディ・グリーン氏も同様の見解をメディアに話していた。

「(鈴木は)シーズン開幕以来、ストライクゾーンを見事にコントロールできている」

 鈴木のストライクゾーンを見極める力は、活躍の要因のひとつと言えそうだ。

 MLB専門局『MLBネットワーク』も、4月13日に放送された「MLBセントラル」という番組で、活躍の理由を分析している。

打席内の落ち着きも高評価

 解説者で元カブスのマーク・デローサ氏は、鈴木の「プレート・ディシプリン」(投手の投球内容、打者の選球眼、積極性を測る統計データ)に注目した。それによれば、鈴木の「チェイス・レート」(振らなければボールと判定される球を振る確率)は、15打席で5.0%。一般的に、この数値が低いほうが優秀な打者とされる。

 比較対象としては、ナショナルズのフアン・ソト(9.1%)、ブリュワーズのクリスチャン・イエリッチ(11.1%)や、アンドリュー・マカッチェン(14.3%)のデータが紹介された。デローサ氏は、鈴木の数値は「サンプル数はまだ少ないが」と前置きしつつも、メジャーの好打者と比べても際立った数字に「本当に特別な選手だ」と絶賛した。

 さらに番組では、鈴木の打席内での姿勢にも注目していた。デローサ氏は、4月7日のブリュワーズ戦でのメジャー初打席の映像を見て、「彼は打席内で非常に落ち着いている」と驚嘆している。

 この打席で鈴木は、昨季のサイ・ヤング賞投手のコービン・バーンズ(ブリュワーズ)から四球を選んだ。それに対してデローサ氏は、「2回裏、ランナーが2塁。

『早く(カブス本拠地の)リグレーのファンに好かれたい』という状況で、打者は『積極的にならなければ』と思うはずだ」と独自の見解を述べながらも、「鈴木はカウント1−2と追い込まれても低めの落ちる球に手を出さない。2−2となってからの高めのボール球もなぜか振らない。(カウント3−2での)最後のエグい外角へのカッターも、あのシチュエーションで振らなかった」と、鈴木の選球眼のよさと辛抱強さに感心した。

 話題は鈴木の構えにも移った。2打席連続本塁打を放った12日の第3打席での構えが、通常より体を捻っていて腕、手首、バットがより捕手側にあることを指摘。「彼の構えは打点を稼ぐ打者タイプにも見え、どの打順でも打てそうだ」と臨機応変に対応できる能力を評価した。最後には、カブスOBのアラミス・ラミレスを引き合いに出して、「(鈴木は)打席に立つたびに相手チームに脅威を与えるラミレスを思い起こさせる」と語り、「ただただ素晴らしい」とまとめた。

 鈴木の活躍は現地でも大きな話題となっているが、鈴木のメジャーキャリアは始まったばかり。前出の『スポルティングニュース』(13日付)では「長期的な活躍を見極めるには時期尚早」と、これから壁にぶつかる可能性も示唆されている。だが、持ち前の打力と、ストライクゾーンへの対応や「プレート・ディシプリン」が洗練されていけば、今後も活躍は続いていくだろう。